長期にわたる業況不況と過剰設備の継続で韓国の石油化学産業に事業構造の再編が差し迫る中、すでに大々的な設備縮小に成功した日本の石油化学企業は営業利益率5%を維持している。韓国の3大格付け会社(韓国信用評価、韓国企業評価、ナイス信用評価)が最近公開した韓国の石油化学産業の構造調整に対する診断報告書を通じて、日本の事業再編の事例から学べる内容を探ってみる。
格付け会社らは「韓国の石油化学メーカーは汎用製品群では中国に、自動車および電気電子分野の素材など高付加価値のスペシャルティ製品群では日本に比べ、競争力が劣位状態にある」と評価する。日本は、韓国や台湾の石油化学メーカーの成長により業況の低迷に直面したことで、1980~90年代から構造調整を推進した。1980年代の第2次オイルショックと共に内需景気低迷、アジア域内の新設・増設にともなう供給拡大、新規設備に比べて劣る原価の効率性などで産業の競争力が低下し、政府・民間レベルの産業構造調整が何度も施行された。時期別に設備削減の背景と方法に差はあるが、企業・設備の統廃合を通じた最適化と、スペシャルティ高付加価値製品群の拡大が構造改編の共通した軸だ。内需需要不振にともなう過剰供給を解消するために、生産能力を縮小し、地道な研究・開発を通じて、安定したマージン確保が可能な精密化学および高付加価値製品を中心に事業のポートフォリオを転換する方向で進められてきた。
1990年代、日本の石油化学会社は構造的な限界を認識し、合弁投資を通じて企業数を先制的に統合・縮小したのに続き、2000年代に入ってからは電子素材、ヘルスケア、高付加価値の樹脂製品へと投資を拡大した。2010年以降は、「1県に1石油化学社」という日本政府の原則のもと、老朽化した設備の削減を本格化し、約152万トン(総生産能力の約19%、2010年末802万トン→2017年末651万トン)のエチレン生産設備を閉鎖した。
エチレンはプラスチック、合成繊維、合成ゴムなど多様な製品の原料として使われる最も基本的な汎用製品だ。数回の構造調整を通じた設備統廃合で、日本のエチレン生産量は2003年の年間736万トンから2023年には532万トンに縮小された。2024年基準の日本のエチレン生産量は、直前の石油化学好況期末の2021年に比べて100万トン(総生産能力の16%)以上減った。最近は石油化学産業の不況が長期化したことを受け、日本国内の4つの産業団地で汎用製品の生産施設であるナフサ分解設備(NCC)業者間の設備合理化を通じて、エチレンの生産能力を2028年までにさらに年間240万トン(全体の36%水準)削減する再編を進めている。三菱、三井、丸善など大型企業は汎用製品設備を段階的に稼動中断し閉鎖している。格付け会社は「このような場合、日本のエチレン生産量は約400万トン水準に減り、内需需要だけで充足可能な範囲に合理化されるだろう」と評価する。
このような構造調整の結果、日本の主な石油化学企業の電池素材などのスペシャルティおよび非化学製品の売上の比重は60%を上回る。最近の深刻なグローバル業況のダウンサイクルの時期にも、三菱や住友など日本の多くの石油化学企業は5%を上回る営業利益率を維持している。韓日両国の石油化学産業の総売上で内需依存度を見ると、日本は約80%に達する。そのため、世界の石油化学輸出市場の不況が及ぼす影響は相対的に限られてくる。一方、韓国の石油化学産業の内需依存度は約40%にとどまる。
このように日本が生産能力の縮小を通じて内需中心の需給構造に変貌した反面、韓国は依然としてポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)など汎用製品の比重が50~60%(日本は30~40%)に達する。かなり前の2016~2018年の石油化学の好況期には、韓国の石油化学企業ごとに汎用製品の比重が高いおかげで大規模な設備を通じた「規模の経済」効果を享受し、10%以上の高い収益性(売上額利益率)を記録した。
しかし、2019年以降から続いている供給過剰と世界の業況不振の長期化により、競争力で劣位にあるナフサ分解施設を中心に大々的な設備縮小が避けられない状況だ。韓国は1960~70年代から政府主導の産業化戦略によって、蔚山(ウルサン)、麗水(ヨス)、大山(テサン)に石油化学団地が造成され始め、1980年代末にサムスン、現代など大企業グループが進出し、産業の外形が急速に拡大した。もちろん韓国も1997年のアジア通貨危機以降、麗川NCC、サムスントータル(現ハンファトータルエナジーズ)などの合弁会社の設立、2004年のLG化学と湖南石油化学(現ロッテケミカル)による現代石油化学の分割買収など、危機対応レベルの事後的な構造調整が行われもした。しかし、韓国は中国経済の拡大に乗り、輸出を増やし、生産能力の拡大を続けた。韓国の石油化学産業は発足からこれまで、エチレンの生産能力が縮小されたことは一度もなかった。韓国のエチレン生産量は、2003年の589万トンから2024年には1039万トンに増加したが、2026年下半期にS-Oilのシャヒーン(Shaheen)プロジェクト(年産180万トン)が完工すれば、韓国のエチレン生産能力は約1460万トンまで大幅に増える。日本の設備削減の方向とは対照的に、現在の水準に比べてむしろ約15%増加するということだ。しかも2024年基準で韓国の石油化学製品の内需市場規模はエチレン換算基準で約420万トンであり、日本(392万トン)と似た水準だが、内需市場の規模は2021年(475万トン)をピークに減少傾向にある。その結果、韓国の石油化学産業は世界の供給過剰リスクに大きくさらされる段階に来ている。
韓国の石油化学企業のスペシャルティ製品を見ると、LG化学の電池事業(LGエナジーソリューション)・電池素材事業(先端素材部門)を除いてスペシャルティ製品の売上高および利益貢献度は依然として低い水準にとどまっている。格付け会社は「韓日の石油化学企業間の収益性デカップリング(脱同調化)現象は、両国の高付加価値分野の技術競争力の差によるものとみられる」と診断する。もちろん高付加価値のスペシャルティ製品群は進入の障壁が高いうえに、初期進出時に研究・開発および顧客会社の認証に相当な時間が必要な分野だ。
日本の石油化学産業が数回の事業再編を通じて生産能力を縮小させることができた要因の一つとして、相対的に低い「設備閉鎖の機会費用」が挙げられる。すなわち、日本の石油化学団地が9つの地区にわたって分散しており、エチレン基準で設備別の平均生産能力が年間50万トン水準と規模が小さく、老朽化(使用年数40~50年以上)で設備効率も低い。いっぽう、韓国の石油化学団地は麗水、大山、蔚山に集中しており、日本に比べてエチレン基準で設備別の平均生産能力が年間115万トンと規模が大きく、使用年数も相対的に短い。稼働期間15年以内の設備が600万トン以上に達すると把握されている。格付け会社は「韓国はこのように設備閉鎖の機会費用が高い点が、当面の構造調整の過程で企業間統合・縮小の交渉において難関として作用する恐れがある」と診断を下している。