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「韓国、戒厳問責したが極右の底辺を確認…民主主義の再強化が大きな課題」(1)

登録:2025-06-06 01:31 修正:2025-06-06 08:04
3日午後、ソウル麻浦区孔徳洞のハンギョレ新聞社での「大統領選企画対談-6・3大統領選と韓国社会」に先立ち、国会立法調査処のイ・グァンフ処長(左)と中央大学のシン・ジヌク教授が歓談している=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

 6月3日の大統領選挙とともに、6カ月にわたった「内乱の時間」もついに終止符が打たれた。社会学者のシン・ジヌク中央大学教授と政治学者のイ・グァンフ国会立法調査処長は、今回の大統領選挙の結果が意味するものは多層的だと述べた。二人は12・3内乱から早期大統領選挙へと続いた期間を振り返り、韓国民主主義は他国では見られない回復弾力性を示したが、急速に拡大した極右の社会的底辺と危機に直面する政党政治の現実も赤裸々にあらわになったと診断した。二人は投票日当日の3日午後、ソウル孔徳洞(コンドクトン)のハンギョレ新聞社本社で対談し、その後、開票結果を反映してさらに意見を交換した。

■大統領選挙が韓国社会に残したもの

シン・ジヌク(以下シン):李在明(イ・ジェミョン)候補の勝利には2つの歴史的意味がある。憲法裁判所が12・3非常戒厳宣布に対して憲法主義の原理に則って尹錫悦(ユン・ソクヨル)を罷免したとすれば、今回の大統領選挙は民主主義の原理に則って、非常戒厳を擁護した政党が政権に就く機会を国民の多数が剥奪したものといえる。12・3親衛クーデターに対して、一方では国家機関が水平的に問責し、もう一方では国民が選挙を通じて垂直的に問責したのだ。ただ、キム・ムンス候補が代表する「国民の力」は非常戒厳を擁護した集団であるにもかかわらず、41.2%もの国民に支持されたという事実は、民主主義についての社会的合意と民主主義の再強化を同時に達成することが新政権の難しい課題として残されていることを示している。

イ・グァンフ(以下イ):今回の大統領選挙は、非常戒厳が国民に評価される過程だったが、選挙の雰囲気は普通の大統領選挙と変わりなかった。大統領の弾劾で行われた選挙だったにもかかわらず、野党は圧倒的な勝利を収めることができなかった。李在明大統領を支持したのは国民の2人に1人だけだったわけだから、1年後の地方選挙は容易ではないだろう。キム・ムンス候補の得票率をみると、非常戒厳後の保守結集は一定部分成功したと評価できる。国民の力の懸念は、今の人口構成からみて保守は弱体化し続けざるを得ないというところにあるだろう。保守政治をいかに再構成するかが、国民の力にとっては課題だ。

3日午後にソウル麻浦区孔徳洞のハンギョレ新聞社で行われた「大統領選企画対談-6・3大統領選と韓国社会」で、中央大学のシン・ジヌク教授が発言している=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

シン:私が強調したいことは少し異なる。2017年の早期大統領選挙と比べると、韓国社会の有権者の配列は大きく右に移動している。共に民主党は保守化しており、国民の力は極右化している。非常戒厳のせいで行われた早期大統領選挙であるにもかかわらず、李在明大統領の得票率とキム・ムンス、イ・ジュンソク両候補の得票率の合計はほぼ同じだった。それが意味するものは、チョン・グァンフン牧師とFMコリア(韓国のインターネット・コミュニティ)に象徴される極右・嫌悪勢力の代表者たちにとって「いざとなれば政権獲得は可能だ」ということ。自らを保守だと考える有権者には、そのような勢力に対する心理的抵抗がないのだ。韓国民主主義の社会的土台にとって深刻な脅威だ。

イ:進歩と保守に二分される有権者の割合は、あまり変わっていないと思う。第19代大統領選挙(2017年)と今回の大統領選挙で、進歩派と保守派の候補の票を足せば、依然として5対5だ。ただし、内容的には右傾化している。有権者の分布グラフを見ると、かたちそのものは変わっていないが右に移動しているというか。国民の力が右へと移動したから、民主党がついてきた格好だ。全体的に左の空白が前の大統領選挙より広がっている。民主党がアイデンティティーの不明なキャッチオールパーティー(catch-all party:包括政党)傾向を漸進的に強めてきた結果だ。保守陣営の支持者を引き付けるためにこのようなポジショニングをしているが、どれだけ持続可能なのか。実用主義は方法であって目標ではない。

シン:民主党の党員基盤を考えれば、「中道保守」以上に保守化するのは容易ではない。しかし国民の力は異なる。2020年にチョン・グァンフン牧師と共に「自由統一党」を作って初代代表を務めたキム・ムンス氏が今回大統領候補となり、実に40%を超える票を得た。2月のドイツ総選挙では極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が20%を上回る得票で第2党になり、大きな衝撃を与えたが、今回韓国ではそれと似た「嫌悪政党」が政権を取りうる政党として存在するということを示した。

■韓国民主主義、ぜい弱性か回復弾力性か

イ:今回の大統領選挙は、韓国民主主義の回復弾力性とぜい弱性をいずれも示した。韓国社会は、政治的には独裁化の危険性をうまく克服し、経済的には通貨危機のような大きな危機にうまく対処する。問題は、その後の制度的かつ構造的な改革には関心を傾けないということだ。回復弾力性はあるが、改革を続けていく粘り強さが足りないのだ。政権を変えると、新しい大統領に責務を委任してしまう。社会的熟議の能力が弱いからだ。しかし危機が繰り返されると、大きな災いに直面することになる。一度の戒厳は悲劇で、二度目の戒厳は喜劇で終わったが、三度目の戒厳は災いになるのではないか。今は民主主義の構造的改革についての熟考が必要だ。

シン:同意する。国会による戒厳解除と弾劾訴追、憲法裁判所による大統領への罷免宣告へとつながった過程は、韓国の憲法機関の持つ民主主義の防衛能力を示している。一方で、市民の世論と広場の力がなかったら、憲法機関もきちんと作動できなかっただろう。一方でぜい弱性も非常に懸念される。12・3内乱は、発展した民主主義国家とされてきた韓国が、民主的に選出された政権の親衛クーデターによって独裁国家へと墜落しうるということを示した。実際、「K民主主義」に対する賛美は、実質的な危険を感じさせなくする麻酔のようなものだ。韓国民主主義のぜい弱性は、単に何人かの政治家と権力の非民主性のみに存在するわけではなく、社会の底辺の無規範な暴力の潜在性と関係しているということを知らしめた。(2に続く)

シン・ヒョンチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/election/1201202.html韓国語原文入力:2025-06-05 06:01
訳D.K

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