尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の外交・安全保障の実力者だった国家安保室のキム・テヒョ第1次長が先週末に米国を訪問し、ホワイトハウスと「幅広い協議」を行ったという面談相手のアレックス・ウォン大統領副補佐官(国家安全保障担当)が退任する。
米国メディアの報道によると、トランプ大統領は1日(現地時間)、ホワイトハウスのマイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)を国連大使に指名し事実上更迭したが、ウォルツ補佐官と一緒に仕事をしてきたアレックス・ウォン大統領副補佐官も同時に退任することになった。トランプ政権の安全保障参謀は、大規模な総入れ替えの人事が続くことになると、政治専門誌「ポリティコ」などが報じている。
今回の事態の発端は、いわゆる「シグナル・ゲート」だ。ウォルツ補佐官は3月に民間のメッセージアプリ「シグナル」のチャットルームで、イエメンの親イラン派反乱軍勢力であるフーシ派に対する空襲計画を議論していた際、チャットルームに誤って記者を招待し、機密資料の流出騒動を引き起こした。しかし、トランプ政権の外交安全保障の陣営内で「同盟派」と米国第一主義を強調する「MAGA(米国を再び偉大に)」の勢力間争いが繰り広げられていたことが根本的な原因だ。
ウォルツ補佐官とウォン副補佐官は、同盟国との協力や世界の主な懸案についての米国の積極的な役割など、これまでの米国の外交安全保障政策に比較的忠実だ。MAGA勢力を代弁する極右活動家のローラ・ルーマー氏らは、ウォルツ補佐官やウォン副補佐官らについて、トランプ大統領の路線に忠実でない「ネオコン」だとして、更迭を要求してきた。MAGA勢力は、ウォン副補佐官が中国系で、夫人が中国との事業を展開し親中派の人脈を築いてきた点も攻撃してきた。
第2次トランプ政権の対北朝鮮政策を主導する中心人物と目されてきたウォン副補佐官が退任することで、トランプ大統領が関心を持っている北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との朝米首脳会談の再開などにどのような影響があるかにも関心が集まっている。ウォン副補佐官は第1次トランプ政権当時、国務省の北朝鮮政策特別副代表などを歴任し、朝米交渉の実務に深く関与した。マイク・ポンペオ国務長官が北朝鮮を訪問した際には随行員として平壌(ピョンヤン)を訪問し、北朝鮮と直接交渉したりもした。トランプ大統領はウォン氏を副補佐官に抜てきし、「ウォンは北朝鮮の指導者である金正恩と私の首脳会談交渉を助けた」と自ら紹介したこともある。ウォン副補佐官はハーバード大学のロースクールを出た弁護士出身で、第1次トランプ政権期には、マイク・ポンペオ国務長官やスティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表を補佐し、対北朝鮮交渉の実務を担当した。この過程で、韓国政府の外交・安全保障当局者との親密な関係と人脈も多く蓄積した。第2次トランプ政権に合流するまで、韓国のクーパンの親会社である「クーパンInc」に勤務していたこともある。
偶然にもウォン副補佐官は更迭される1週間前、米国のホワイトハウスで、韓国の国家安保室のキム・テヒョ第1次長と面会し、韓米関係の経済・安全保障の懸案について幅広く議論した。12・3非常戒厳後には姿を見せていなかったキム・テヒョ第1次長は、先月25日(現地時間)にワシントンを訪問し、ホワイトハウスでウォン副補佐官に会い、「政策協議」を行った事実を公開した。当時、国家安保室がワシントン特派員に配布した資料によると、二人は「韓国軍と在韓米軍の能力がよりいっそう強いシナジー効果を上げられるよう、協力案を模索していく」として、防衛産業や造船業での協力に向けて両国の国家安保室(NSC)が中心となって、政府全体のレベルでの協力を進めていくことにした。韓国軍と在韓米軍の役割調整の問題などの重大な安保事案から、現在進行中の関税交渉の重要懸案である造船業における協力まで議論したのだ。これをもとに、韓国と米国の国家安全保障会議(NSC)を中心とする造船業協力に関するワーキンググループも新設して稼働することにしたと、大統領室高官が明らかにした。弾劾された尹錫悦政権の大統領室の実力者であるキム・テヒョ次長に、米国とそのような協議を行う資格があるのかという「越権外交」批判がなされた。しかし今回、米国のNSCのウォルツ補佐官とウォン副補佐官がともに更迭されたことで、この議論の内容自体が履行されるかどうかも不透明になったとみられる。