「大統領府(現在は「龍山(ヨンサン)大統領室」)の本当の主は警護処」という話は以前からあった。大統領室の職員は1000人ほどいるが、このうち警護処の職員が半数を超え、大統領府関連の建物や施設のほとんどを警護処が管理する。大統領が変わると、首席・秘書官はもちろん、末端の事務職員、さらに食堂や清掃担当の職員まで変わるが、警護処の職員は変わらない。そのため、警護処の実力者は大統領と一緒に入ってきた警護処長ではなく、政権が変わっても大統領室から離れない警護処出身の次長である場合が多い。
警護は「ただの一度の失敗」も許されない。警護処の影響力が強いのも、これに端を発する。大統領府の多くの機関は警護処としょっちゅうぶつかった。警護処は無条件に要請を拒否することが多く、大統領でさえどうすることもできないことがしばしばある。特に「大統領のスケジュール」は極秘事項だ。2008年3月に李明博(イ・ミョンバク)大統領は仁川(インチョン)で開かれたプロ野球の開幕戦で始球する予定だったが、ある新聞がこれを報じると、警護上の問題で取り消しになった。その記事はスポーツ部の記者が書いたが、事情を知らなかったその新聞の大統領府の出入り記者が、1週間出入り禁止になったこともあった。
多くの大統領が就任時には「国民とともに」と言って民間人との接触を頻繁に行うと言及するが、すぐに「警護上」の理由で口先だけの言葉になってしまう。大統領府の出入り記者をしていた時、警護処が事あるごとに「警護」を前面に出すのは、もしかしたら自分たちの地位確立のためではないかと疑うことも多かった。警護処長は国外はもちろん、国内でも大統領の公式行事に同行するなど、常に同行する。したがって、大統領が信頼できない、または不快に感じる人物がそのポストに就くことはありえない。警護処長は大統領の「秘密」を最も多く知っている。あえて「機嫌伺いの警護」を前面に出さなくても、動線だけでなく気分まで読み取るようになる。
しかし、韓国の警護処長(室長)の歴史は美しくはない。李承晩(イ・スンマン)大統領の時代には「景武台(キョンムデ)警察署」(約400人)があった。「警護室」という名称も「警察が大統領を護衛する」という意味から出てきた言葉だ。1960年の4・19革命の際、市民に向けて発砲命令を下した景武台警察のクァク・ヨンジュ署長は死刑になった。現在の警護室の構造は、5・16クーデター後の朴正煕(パク・チョンヒ)の時代に構築されたものだ。盧泰愚(ノ・テウ)政権の時代まで軍人(将軍)出身が警護室長を担当した。ホン・ジョンチョル、パク・チョンギュ、チャ・ジチョルは5・16クーデター勢力だ。チョン・ドンホ、チャン・セドン、アン・ヒョンテ、イ・ヒョヌ、チェ・ソンニプは1979年の12・12クーデターの勢力であり、全員が(全斗煥の率いる)ハナ会(一心会)の出身だ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の警護処長出身であるキム・ヨンヒョン前国防部長官とパク・チョンジュン現警護処長は、「12・3内乱」に直接的・間接的に関与している。現在、尹大統領の逮捕状の執行を妨害しているパク・チョンジュン警護処長は20人目の警護処長(室長)だ。20人の半数である10人が「クーデター・内乱」に関連しているということだ。
尹大統領は、自身の沖岩高校の先輩である元警護処長のキム・ヨンヒョン前国防部長官と多くの時間を過ごし、戒厳についても話していたのだろう。警護処長が国防部長官に異動する「奇異な人事」も、いま思えば戒厳を準備したものだと解釈せざるをえない。パク・チョンジュン警護処長は警察出身だが、すでに2011年に警察を離れ、セヌリ党の候補として総選挙に2回出馬した「初の政治家出身の警護処長」だ。裁判所が発行した逮捕状を拒否し、陣地戦を展開している。信念だと自分も考えているのだろうが、後で法的な処罰を受けるとしても自分の陣営から離れない「政治的選択」をしたのだ。表向きは「職務遺棄」を理由にして、あたかも滅私奉公をしているかのように語るが、「大統領を守る」として漢南洞(ハンナムドン)の官邸前に集まった大邱・慶尚北道出身者を中心とする与党「国民の力」の議員たちと何が違うのか。内乱前日である先月2日に行われた大統領最後の公式行事は、パク処長が出馬した忠清南道公州(コンジュ)への訪問(2016年には世宗から出馬)だった。だが、警護処の一般職員がなぜ「『政治家』警護処長の利権的選択」に振り回されなければならないのか。
この事態が収束した後には、根本的な問題を検討することになるだろう。現在の大統領室の構造は、秘書室長‐国家安保室長‐警護処長の三角構図だ。大統領以外には警護処の指揮・運営・人事に対する権限がない。キム・ヨンヒョン前国防部長官は警護処長時代に、大統領の警護区域内の軍警指揮権を警護処が持つという超法規的な施行令の立法を試みたこともあった。権威主義国家であるほど警護処の力は強い。政界では一様に「帝王的大統領の権限」を分散すべきだと主張する。その最初が、警護処を大統領から分離することだ。尹錫悦大統領のような希代の大統領は今後出てこないだろうが、キム・ヨンヒョンやパク・チョンジュンのような警護処長は、いつでも出てくる可能性のある構造だ。武器を持つ警護処は、警察庁の傘下など重複的な指揮のもとに置かれなければならない。
パク・チョンジュン警護処長は5日、「『警護処が個人の私兵に転落した』『警護処を解体しなければならない』という主張はなげかわしい」と述べた。警護処を「尹錫悦の私兵」に転落させ、解体を早めている張本人がパク・チョンジュン警護処長だ。
クォン・テホ|論説委員室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )