「遅れたと思うのが本当に遅すぎた」。バラエティ番組「無限挑戦」で、芸能人のパク・ミョンスさんが言った言葉だ。そしてパクさんは、「とても遅れているから今すぐ始めるべきだ」と言った。既存の格言をひねったこの言葉は、「遅れたと思った時がもっとも早い時」という白々しい慰めより「遅れたと思った時は遅れる時間さえない」という現実的な助言の方が共感されるから、今も多くの人に使われているのだろう。
近ごろ、検察の内外で「本当に遅すぎた」と言われていることが一つある。キム・ゴンヒ女史の名が取りざたされている「ドイツモーターズ株価操作事件」の捜査だ。2020年4月のチェ・ガンウク前議員の告発で捜査が始まり、検察は2021年12月にドイツモーターズのクォン・オス元会長らを起訴した。検察はキム女史にも出頭を求めたが、キム女史は拒否したという。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「国民の力」の大統領候補に選出され、当選したことで、キム女史を呼出しての取り調べは延期され続けてきた。告発から4年が過ぎ、一審判決からも1年4カ月が過ぎたが、現在もキム女史の取り調べや処分の話はさっぱり聞かない。事件は超長期未解決の沼に陥っている。検察は、控訴審の判決を見てからキム女史の捜査を本格的に再開するとの立場だった。検察としても、公訴時効や他の「出資者」の容疑を認めるかなど、考慮すべきことが多いだろう。しかし、ことさらキム女史については長考に長考を重ねている格好だ。
検察は、「蔚山(ウルサン)市長選挙介入事件」に対しては、一審判決直後に高等検察庁の再捜査手続きを経て直ちに再捜査に着手した。「共に民主党」のイ・ジェミョン代表の妻のキム・ヘギョン氏は、起訴は「法人カード関連公職選挙法違反事件」の共犯者の二審判決を待ってからではあったものの、取り調べはすでに早期に出頭させて終えていた。
捜査の長期化で、いつのまにか「ドイツモーターズ株価操作」は忘れられ、世間の耳目は「いつキム女史を出頭させるのか」に集中している。この2年間、検察は民主党大会の「現金封筒ばらまき疑惑」の捜査である程度の成果をあげたが、毎度キム女史の捜査と比較された。野党の総選挙での勝利で「検察捜査権完全はく奪・第二弾」が予告されている中、検察の政治的公正さが疑われているのだ。そのため、事件の処分はひとまず置くとしても、キム女史を出頭させなかった時の波乱が予想される状況に追い込まれている。今年初めの「ソウル中央地検のソン・ギョンホ地検長更迭説」と、先月の「唐突な検察人事」は、いずれもキム女史の捜査と結びつける解釈が支配的だった。検察はキム女史のせいで、前にも後ろにも進めない状況に追い込まれている。だから、検察の内部からは「大統領選挙が終わってすぐにキム女史に出頭を求めるべきだった」という、遅きに失した嘆きの声が漏れ聞こえてくる。
結局、検察はカレンダーに追われるかたちとなった。キム女史の「ブランドバッグ受け取り疑惑事件」をすみやかに捜査せよと指示したイ・ウォンソク検察総長(9月退任)の後任の人選がまもなく始まる。一部では、ドイツモーターズ株価操作事件に対する捜査指揮権のないイ総長が「ブランドバッグ迅速捜査」指示も兼ねてドイツモーターズ捜査チームにも催促するのではないかと解釈されている。ブランドバッグ事件も早ければ今月中に事実関係が整理されるものとみられる。ドイツモーターズ株価操作事件の控訴審の結審は来月初めだ。すでに遅れ過ぎているのだから、これ以上キム女史の取り調べを遅らせるわけにはいかない。