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複雑化した在韓米軍の得失関係…「討論の扉」開くことの必要性

登録:2024-05-20 08:52 修正:2024-05-20 11:25
2022年12月、京畿道平沢市の烏山エアベースで在韓米軍宇宙軍創設式が開催されている=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 在韓米軍は聖域だ。少なくとも受け入れ国の韓国ではそうだ。4月の総選挙でもそれは疑いの余地なく確認さている。野党の比例代表の予備候補たちが、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)や韓米合同演習に反対したという理由で候補から外れたのだ。しかし、在韓米軍が根本から揺らぐ兆しが見られる。それも派遣国である米国でだ。11月の米大統領選挙での当選の可能性が排除できないドナルド・トランプ前大統領とその最重要参謀たちは、在韓米軍の存在そのものを問題視している。「豊かな韓国をなぜ我々が守らねばならないのか」として、それでも在韓米軍が必要なら防衛費分担金を大幅に引き上げるか、米国の戦略的利益である中国への対応のためのものへと転換すべきだとの主張が登場している。トランプ以外にも、「選択的孤立主義」と「米国第一主義」を好む世論が米国で強まり続けていることも看過できない問題だ。

 ならば、手遅れになる前に、韓国の視点から在韓米軍の得失関係を検討してみてはどうだろうか。国益を見つめる視点も多様であり、得失関係を数値化することも容易ではなく、未来は不確実でありつつも韓米同盟には様々な選択肢があるため、それを明確に究明するのは難しい。しかし韓国と米国では、在韓米軍に関する政策と戦略はもちろん、言説の違いもあまりにも大きい。このような非対称性を少しでも緩和するためには、韓国でも在韓米軍についての討論の扉を開く必要がある。

 韓米相互防衛条約の物理的な核心軸である在韓米軍の最大の得失関係は、大韓民国の安保と朝鮮半島の平和に及ぼす影響にある。在韓米軍は朝鮮戦争以来、北朝鮮に対する抑制力および停戦体制の維持・管理に最も重要な役割を果たしてきたという点で、安保上の実益があることは明らかだ。同時に、強力な在韓米軍の存在と世界最大規模の韓米合同演習は、朝鮮の核兵器開発の動機の一つとして作用しており、休戦体制の平和体制への転換にとって障害となってきた面もある。在韓米軍は「消極的平和」には寄与するが、「積極的平和」には至らないということだ。

 在韓米軍は、さらに重要な安保上の論争の種でもある。韓国の隣国である中国が大国となったことで、中国のけん制には韓米同盟の強化と在韓米軍が必要不可欠だとの認識が一方にある。しかしもう一方では、台湾などで米中の武力衝突が発生すれば、韓国が望まない戦争に巻き込まれる恐れがあるという懸念の声もある。実際に、21世紀の米国のすべての政権は在韓米軍の戦略的柔軟性を追求してきており、その傾向は米中戦略競争と台湾問題をめぐる対立とともに強まっている。そのため在韓米軍は、「脅威対応型」の性格だけでなく「脅威をもたらす」性格も持っている。

 経済的な観点からみても損益計算書が明確なわけではない。ただ、在韓米軍の経済的効果が低下していることだけは明らかだ。まず、1990年まではなかった防衛費分担金が「特別措置協定(SMA)」の名の下に1991年に新設され、その年に835億ウォンだったものが2023年には1兆2900億ウォンに高騰している。また土地供与、KATUSA支援、税と公共料金の減免などによる支援の規模も、年間2兆ウォンに迫る。また、かつて在韓米軍には韓国の国防費の節減効果があったが、最近は韓国の国防費、防衛費分担金ともに大幅に上がっている。

 では韓国、あるいは韓米関係からみた選択肢には、どのようなものがあるのだろうか。現状維持から韓米同盟の終結に至るまで、そのスペクトラムは広い。しかし現状維持は日増しに厳しくなっている。韓国が負担する防衛費分担金は大幅に増えており、特にトランプが再び政権の座につけば、応えきれない要求に直面する可能性がある。さらに重大な問題もある。大規模な在韓米軍を維持し続ければ、北朝鮮に対するものではなく中国に対するものへと変質する可能性が高いという点だ。これは米国の超党派的な要求であり流れだ。かといって、韓米同盟が終わりを告げる可能性はほとんどない。トランプや彼の参謀も、在韓米軍の撤退は口にしても、韓米同盟の解体は主張していないからだ。

 ジョー・バイデン大統領が再選された際の選択肢は明確なようにみえる。中国を標的とした在韓米軍の戦略的柔軟性の強化と、防衛費分担金の漸進的な引き上げに帰結する可能性が高い。一方、トランプが再び政権の座についた際には、韓国の抱えるジレンマは激しくなるとみられる。韓国が在韓米軍の存続にこだわればこだわるほど、トランプはそれをテコとして防衛費分担金の大幅な引き上げと、中国への対応を目的とするものへの転換を貫徹しようとするはずだからだ。一部はそれに対する代案として独自の核武装を主張しているが、それが賢明な選択肢となるかについては冷静な検討が必要だ。

 「在韓米軍なき、あるいは大幅に縮小した韓米同盟」も考えうる。通常戦力に当たる在韓米軍は撤退するか規模を縮小し、核の傘を含む米国の拡大抑止を骨子とする韓米同盟は維持する、という方策も選択肢になり得るということだ。もちろん、このような方策は、米国の拡大抑止に対する不信をさらに増大させる可能性がある。ただでさえ「米国はソウルのためにワシントンを犠牲にできるのか」という疑問が呈されている中で、在韓米軍まで去ってしまえば、拡大抑止をよりいっそう信じられなくなるというわけだ。このような疑問は、有事の際には米国人に大きな被害が発生してはじめて米国は報復する、という仮定にもとづいている。だがそれは、逆のケースを見過ごしたものだ。韓国にいる米国人が少ないほど、少なくとも韓国では自国民の被害が減らせるため、拡大抑止の実行の敷居が低くなりうるからだ。

 韓国が選択にむけて討論したり準備したりしたとしても、力を注ぐべきことはある。それは大きく分けて2つある。ひとつは、遅れに遅れている戦時作戦権の返還を速やかに実行することだ。もうひとつは、1990年以降で最悪へと突き進んでいる朝中ロとの関係の改善に取り組むことだ。韓国の自主国防の力量の強化と外交安保環境の改善を通じて、トランプ、あるいは米国の選択的孤立主義に伴うリスクを管理するとともに、韓国の選択肢を広げていかなければならないということだ。戦作権返還を進歩の議題だと勘違いして体質的な拒否感を示し、日米同盟に賭けてきた尹錫悦政権をはじめとする韓国保守は、目を覚ますべきだ。

チョン・ウクシク|ハンギョレ平和研究所所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1141159.html韓国語原文入力:2024-05-19 21:10
訳D.K

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