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重大災害を認識させた下請け労働者の死…その悲劇の責任者が罰せられないとは=韓国

登録:2023-12-08 08:31 修正:2023-12-08 08:57
故キム・ヨンギュンさんの母親のキム・ミスクさん(キム・ヨンギュン財団代表)が7日午前、ソウル瑞草区の最高裁前での記者会見で最高裁判決に対する立場を発表した後、最高裁に向かって叫んでいる=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社

 「上告をすべて棄却する」

 7日午前、10文字の短い宣告が終わると、最高裁1号法廷にはため息とすすり泣きが満ちあふれた。故キム・ヨンギュンさんの母親のキム・ミスクさんは、ぎゅっと握りしめていた両手を緩めて自身の胸ぐらをつかんだ。「どうして法廷はこうなんですか。力のない弱者をなぜ保護してくれないのですか」

 2018年12月に泰安(テアン)火力発電所で仕事中に亡くなった下請け労働者、キム・ヨンギュンさんの死の責任を問う最終審が7日に行われた。最高裁は、キム・ヨンギュンさんの死の責任を問われて起訴された元請け企業とその代表の無罪を確定した。

 キムさんの死は、この5年間で「職場での差別的な死を防ぐために元請け企業と最高経営者は責任を取るべきだ」という原則を韓国社会に植え付けた。しかし肝心なキムさん自身の死に対しては、元請けの責任は問えなかった。この日の判決後、防護員に制止されながら法廷を出ようとしていたキム・ミスクさんは、ついに法廷の入口にぺたりと座り込んでしまった。脇を支えられて法廷を出た後、キム・ミスクさんはつぶやいた。「見てなさい。ここで負けても他のところで勝つから」

 最高裁2部(主審:イ・ドンウォン最高裁判事)はこの日、泰安火力発電所で働いていた下請け労働者のキム・ヨンギュンさんを死亡させた疑い(産業安全保健法違反、業務上過失致死など)などで起訴された元請け・下請け企業とそれらの幹部や職員(職責は当時)13人に対して、検事による上告を棄却し、原審を確定した。これにより、元請け企業の韓国西部発電と、当時の代表だったキム・ビョンスク代表取締役は無罪が確定した。最高裁が有罪を認めたのは、元請け企業の安全に関する実務者、下請け企業およびその代表取締役と実務者たちだ。彼らですら執行猶予や罰金刑で済まされた。下請け企業の韓国発電技術のペク・ナムホ代表取締役は禁錮1年、執行猶予2年、韓国発電技術泰安事業所のイ・グンチョン所長は懲役1年2カ月、執行猶予2年。実刑を言い渡された被告はいない。

 泰安火力発電所で下請け企業である韓国発電技術に所属し、石炭取り扱い設備の運転員として働いていたキム・ヨンギュンさんは、2018年12月10日午後10時35分~10時55分(推定)ごろ、石炭運送用ベルトコンベアに挟まれ亡くなった。キムさんは一人で落炭除去作業をおこなっていた。当時、ベルトコンベアの安全カバーは開いており、「2人1組」と規定していた作業マニュアルも守られていなかった。夜間勤務であるにもかかわらずベルトコンベア脇の通路付近の照明は消えており、非常停止装置にも不良があった。このような死の経過と原因は裁判所も認めている。仕事場のあちこちに危険が散らばっていたのだ。

 キム・ヨンギュンさんの死は数多くの労災死亡事故の一つとして埋もれることなく、「危険の外注化」という重大災害の根本問題を水面上に浮かび上がらせた。市民社会団体による問題提起と母親のキム・ミスクさんの粘り強い闘争が力となった。キム・ヨンギュンさんの死の4カ月後の2019年4月には、首相室の下に特別調査委員会(特調委、委員長:キム・ジヒョン元最高裁判事)が設置され、真相調査と対策作りが開始された。

 特調委が同年8月に調査結果を発表した際に、事故の根本原因として指摘したのが「元請け・下請け構造」だ。発電所はコスト節減のために、別の業務との「連続工程」である石炭取り扱い作業を無理やり分離して下請け企業に任せた。この過程で下請け労働者は事実上元請け企業の支配下にありながら、安全に働く権利から疎外されたということだ。特調委は発電所の非正規労働者の正規労働者化、安全管理体系構築の事業主への義務付けなど、22の改善策を政府に勧告した。政府は特調委の勧告を受け入れたが、勧告の最も重要な内容である発電企業の非正規労働者の正規労働者化は今も実現していない。閉廷後、同じく非正規労働者でキムさんの同僚だったイ・テソンさんは、「ヨンギュン、本当にすまない。すまない。死ぬほど闘ったのに、ここまでみたいだ」と泣きながら語った。

 ただ、キムさんの死をきっかけとして、事業所の安全に対する責任を明確化する方向へと法が改正され、新たに作られもした。元請けの責任を強化することを内容とする改正産業安全保健法は、キム・ヨンギュンさんの死の17日後の12月27日に国会で可決された。「キム・ヨンギュン法」だ。元請けの事業所で働く下請け労働者に対しては、元請け企業が無条件に安全保健措置を取ることを義務づけたのだ。2021年には、元請け企業の「経営責任者」に重大災害の予防責任を負わせ、違反すれば処罰することを内容とする重大災害処罰法も制定された。重大災害処罰法案を可決させるために、母親のキム・ミスクさんは2020年12月に29日間にわたってハンストを決行した。

 キム・ヨンギュンさんによって世の中は変わったが、肝心のキムさん自身は実質的に下請け労働者の安全を左右する元請け企業の経営責任者の責任を問うことに失敗したかたちだ。この日確定した二審判決は「(元請け企業の代表が)運転員の作業のやり方の危険性を具体的に認識することは困難だ」などの理由で、キム・ビョンスク代表を無罪とした。危険な職場が問題だったということは認めつつも、それに対する責任は、危険の根本的な背景である元請け・下請け構造を解消したり、安全な設備を構築することのできる元請け企業の代表にはなく、責任があるのは現場の実務者だけだ、という論理だ。キム・ヨンギュンさんの遺族の代理人を務めたパク・タヘ弁護士(法律事務所「コルン」)は判決直後の記者会見で、「本日の最高裁判決は、意思決定者の責任を非常に狭く解釈した裁判所の失敗」だと語った。

 この5年間にわたって重大災害の被害者たちのそばで共に声をあげてきた母親のキム・ミスクさんは、再び挫折する代わりに謝罪し、誓った。「今は最高裁の不当な判決によって負けたように見えるかもしれませんが、後の歴史はキム・ビョンスク社長が間違っていると判断すると信じています。国民のみなさまにも申し訳ありません。力がないということほど悲惨なことはありません。これからは別の道で人を救えるように努力していきます」

 「私、キム・ヨンギュンは火力発電所で石炭設備を運転する非正規労働者です」と記されたプラカードを手にした写真を残して世を去ったキム・ヨンギュンさんの5周忌が、目前に迫っている。

キム・ヘジョン、チャン・ヒョヌン、イ・ジヘ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/1119540.html韓国語原文入力:2023-12-07 20:43
訳D.K

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