2014年に起きたセウォル号沈没惨事当時、現場の救助勢力に対する指揮・統制をまともに行わず、乗客を死に至らしめた容疑で裁判にかけられたキム・ソッキュン元海洋警察庁長などに、韓国最高裁(大法院)が無罪を確定した。判決理由は「予見するのが難しかったため」だった。セウォル号の事故現場の状況が十分に知られておらず、このため、海洋警察指揮部が船内で乗客が待機中であることを把握するのが難しかったということだ。梨泰院(イテウォン)雑踏事故惨事へのずさんな対応疑惑で検察の調査を受けているソウル警察庁のキム・グァンホ庁長など警察上層部も「事故を予測できなかった」という主張を展開している。今回の判決で、梨泰院惨事を防げなかった警察と公務員上層部に対する処罰も難しくなるのではないかという懸念が高まっている。
2日、最高裁が確定したセウォル号惨事に対する海洋警察指揮部の「無罪判決」の根拠は、大きく分けて2つ。裁判所は、セウォル号の船長が「退船命令を下さなかった」という内容を海洋警察にしっかり伝えず脱出し、海洋警察指揮部が大規模な人命被害の可能性を認知することが難しかったと判断した。さらに、現場に出動した警備艇「123艇」など、救助勢力が具体的な現場状況を報告しておらず、与えられた情報だけでは「救助されている」と誤って判断した可能性があるとみた。
事実上、階級が高く、現場の把握能力が低いほど、業務上過失に対する刑事責任が軽くなったわけだ。実際、セウォル号救助の失敗の責任を問われて起訴された海洋警察は計12人だったが、「有罪」を言い渡されたのは、当時現場の指揮官だった123艇長のキム・ギョンイル氏だけだ。安全管理と救助の方向を決める指揮部は全員罪を免れ、現場責任者だけが法的責任を負ったかたちだ。
検察はキム元海洋警察庁長など海洋警察指揮部を、懲役刑が確定したキム・ギョンイル元木浦海洋警察署123艇長と同じ疑惑で処罰しなければならないとし、「過失犯の共同正犯」論理を展開したが、裁判所はそれを受け入れなかった。過失犯の共同正犯とは、共謀しなかったとしても数人の過失が積み重なって被害が発生したとすれば皆を共犯として認めなければならないという論理だ。聖水大橋崩壊事故(1994年)、三豊百貨店崩壊事故(1995年)の際、建設会社の関係者、公務員などが過失致死傷罪の共同正犯として有罪を言い渡された。梨泰院惨事を捜査した警察特別捜査本部もやはり捜査初期から共同正犯の法理を構成していると明らかにした。
このため「海洋警察指揮部を共同正犯とはみられない」という裁判所の判断が、梨泰院惨事に関連する警察上層部を捜査中の検察の決定に影響を及ぼすのではないかという懸念の声があがっている。警察特別捜査本部は1月、キム・グァンホ・ソウル警察庁長などを検察に送致したが、検察は「補強捜査」を理由に今まで起訴の可否を決められずにいる。
これまで梨泰院惨事のずさんな対応責任を問われ、業務上過失致死傷の疑いで起訴された警察などの公務員は、イ・イムジェ前龍山警察署長、ソン・ビョンジュ前龍山署112状況室長、パク・ヒヨン龍山区長など7人のみ。「上層部」はまだ誰も起訴されていない。
今回の判決論理どおりなら、ユン・ヒグン警察庁長やキム・グァンホ庁長のような総責任者どころか、起訴されたイ前署長すらも処罰を免れる可能性があるとみられている。イ前龍山署長は「惨事発生の事実について適時に報告を受けておらず、無線の内容がよく聞こえなかった」として容疑を否認している。
民主社会のための弁護士会で構成した「セウォル号国民告訴告発代理人団」団長のイ・ジョンイル弁護士は、ハンギョレに対し「大規模災害の状況では、各救助現場から入ってくる情報を収集して判断し指示・調整する指揮部の役割が重要だが、裁判所は、与えられた情報が少なく把握が難しかったという言い訳を免責の根拠に受け入れた」とし、「梨泰院惨事などにもこの判決が一種の準拠とされ、指揮部が処罰を免れる可能性もある」と語った。