韓国警察がハン・ドンフン法務部長官の国会人事聴聞提出資料をユーチューブメディア「開かれた共感TV」の記者に渡したという理由で、「文化放送(MBC)」の記者の自宅などを家宅捜索した。この記者は昨年、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の「卑語発言」疑惑を報道した記者であり、「報復捜査」ではないかという疑念の声が高まる中、記者による高位公職者の検証資料の共有行為を問題視するのは「行き過ぎた捜査」だという指摘もある。
ソウル警察庁反腐敗・公共犯罪捜査隊は30日午前、関連資料確保のためにMBC記者のI氏(42)の個人の携帯電話を押収し、自宅と車を捜索したと発表した。国会事務処議案課にも強制捜査が入った。警察は、国会人事聴聞会のためにハン長官が国会に提出した資料がI記者などを経て外部に流出したものとみている。警察はソウル麻浦区上岩洞(サンアムドン)にあるMBC本社内のI氏の所属部署の事務室も家宅捜索しようとしたが、MBC側弁護士と共にI記者席周辺を確認するにとどまった。警察は「押収対象物がなく、本社から撤収した」と明らかにした。
同事件は4月、江西区(カンソグ)議会のキム・ミンソク議員(無所属)がハン長官の個人情報が含まれた文書を確保し、当該文書を自分に渡したS氏を個人情報保護法違反疑惑で告発したことで始まった。キム議員はS氏がハン長官の住民登録抄本や不動産売買契約書などを保管していたと主張した。警察はすでにS氏を家宅捜索しており、この過程でI記者とのつながりを確認し、家宅捜索に乗り出した。
警察はI記者がメッセンジャーで「開かれた共感TV」側に資料を渡し、この資料が当時同メディア所属だったS氏に渡ったとみている。キム・ハンギュ弁護士は「MBC内部で資料を共有したなら問題にならなかったかもしれないが、第3の会社と共有したため、問題になりうる」とし、「国会で資料を受け取るまでは正当な取材活動だが、この資料を第3者に渡す自由まであるとは考えられない」と説明した。
しかし、人事聴聞資料を個人情報保護法の保護対象にしたことは、様々な議論を呼ぶものとみられる。部長判事出身のある弁護士は「形式的に法違反に当たるが、個人情報保護法が想定する違反行為ではない」とし、「同法は個人情報を悪用することを処罰の対象にしている。マスコミは個人情報に基づいて取材を行う。マスコミの責務であるからだ」と語った。キム・ギジュン弁護士も「個人情報保護法は個人情報を管理、処理する者が個人情報を流出しないよう規制する法律」だとしたうえで、「公職者が(マスコミの検証を避けて)隠れる権利を与えた法律ではない」と話した。結局、「開かれた共感TV」や「ザ探査」などの活動を正当な言論活動とみなせるかどうかが争点になるものとみられる。
I記者は昨年、尹錫悦大統領の米国での卑語発言を報道し、与党「国民の力」によって尹大統領に対する名誉毀損容疑で告発されている状態だ。言論労組のMBC本部は立場表明文で「当記者が昨年9月、尹大統領の卑語・暴言波紋などを報道し、被告訴・被告発人だったことから、報復捜査の可能性も排除できない」とし、「今回の家宅捜索で尹錫悦政権のMBC弾圧が始まったとみて、決然と立ち向かう」と明らかにした。MBCも「政権の主要人物でなければ、公人に対する検証資料の流出などを理由に、果たしてこのような無理な手段を動員したか疑問だ」とし、「脅しに屈せず与えられた使命を黙々と、かつ正々堂々と果たしていく」という立場を表明した。