米国の完成車メーカーのフォードが、35億ドル規模の電気自動車(EV)のバッテリー工場の建設計画を近く発表すると報じられ、「インフレ抑制法」(IRA)の恩恵を受ける韓国のバッテリーメーカーが米国市場を独占するという予想に亀裂が入り始めた。フォードの協力会社として挙げられた企業が、世界第1位のバッテリーメーカーである中国のCATLであるためだ。昨年のIRA発効後、中国のバッテリーメーカーと米国内で事業を推進する完成車メーカーはフォードが初めて。
ロイターなどの外信は10日(現地時間)、匿名の消息筋の話を引用し、フォードが中国のCATLと35億ドル規模のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーの工場建設をまもなく発表する計画だと報道した。工場はミシガン州マーシャル地域に位置し、従業員2500人が雇用される見込み。フォードはブルームバーグに「CATLの技術に基づくバッテリーを検討しており、北米で生産する計画」だと明らかにした。ただし、工場設立についての具体的な内容は出てこなかった。
CATLは、中国政府の支援を背景に、2022年には世界市場で37%(バッテリー容量基準)を占め、世界第1位に浮上した。2位のLGエナジーソリューション(13.6%)の2倍にあたる。CATLは昨年12月にドイツで工場操業を始めるなど、国外市場への進出にも速度を上げている。
新しいバッテリー工場は、フォードが工場と生産設備を100%所有し、CATLが工場を運営する方式によって協力する可能性が高い。両社が相互に株式を保有する合弁形式を避けることによってIRAの恩恵を受けるためだ。中国はIRAに明記された海外懸念団体(foreign entity of concern)に含まれており、中国のバッテリーメーカーは米国の現地生産などの条件を満たしていても、補助金を得ることはできない。フォードが所有と運営を区別する方式で協力すれば補助金の恩恵を受けられるという結論を下したものとみられる。
IRAにともなう補助金を得られなくても、州政府のインセンティブを通じて価格競争力を持つことができると判断した可能性もある。州政府は、連邦政府の政策の方向に多少反していたとしても、雇用などで利益になれば、それに応じた措置を取ることもある。実際、ミシガン州は州内にバッテリー素材工場を作ることにした中国に拠点を置くバッテリーメーカー「国軒高科」に、約1兆ウォン(約1000億円)のインセンティブを支給することを決めたことがある。
専門家らは、韓国のバッテリーメーカーや素材企業などが米国市場を独占できるという見方には慎重でなければならないと助言する。ポスコ研究院のパク・ジェボム首席研究員は「昨年12月にホワイトハウスで発表されたIRAのガイドラインをみると、主要な規定が変わることがありうると言及した箇所があり、3月末に予想される最終案が出てくるまではどの項目についても変化の可能性がある」とし、「法案が扱う範囲は広く、利害関係が激しいため、今後の規定の適用や補助金の執行過程でも論議が続くと予想される。韓国メーカーも安心せず、推移をよく見守らなければならない」と述べた。