プ・スンチャン元国防部報道官が3日に出版した『権力と安保ー文在寅政権の国防秘史と天供疑惑』は、報道官在任時代の日記をまとめた形で書かれている。プ氏は著書で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権引継ぎ委員会の大統領室移転の強引な推進に威圧感を感じたと書いた。易術人の天供(チョンゴン)がソウル市漢南洞(ハンナムドン)の陸軍参謀総長を訪問したという伝言が書かれていることで注目を集めた同書には、文在寅(ムン・ジェイン)政権の南北関係の管理に対する批判も盛り込まれている。
尹大統領当選後、政権引継ぎ委が国防部を訪問し、大統領室の龍山(ヨンサン)への移転を通知した昨年3月15日には、「安保の観点から国防部、合同参謀本部、大統領執務室を一カ所に集めたのは危険性の負担が大きい」と書いた。当時「1週間以内に荷物を出せ」という引継ぎ委の通知に、国防部は「引っ越し準備に時間がかかるので2カ月ほど時間が欲しい」と要請した。ソ・ウク長官がキム・マンギ国防政策室長(予備役陸軍少将)に「引継ぎ委にいる同期の予備役の将軍を通して説得するように」と指示したが、引継ぎ委は何の反応もなかったという。プ氏は「引継ぎ委は何の協議もせず、ただ一方通行で強引に進める威圧感が恐ろしくすら感じられた」と明らかにした。
尹大統領就任1カ月前の昨年4月10日には、「警護処長の有力候補に挙げられているキム・ヨンヒョン将軍は恨(ハン)の多い人だ」とし、「大統領警護処、国防部、合同参謀本部が同居している状況なので、第2のチャ・ジチョル(朴正煕政権の大統領警護室長。朴正煕暗殺のときに共に狙撃され死亡した)が出る可能性がある」という憂慮も書いた。
尹大統領夫妻に対する批判も書かれている。大統領選挙運動真っ最中の2021年11月5日の日記で「尹錫悦候補は共感能力がゼロ」と書き、キム・ゴンヒ女史の学位論文盗用問題を取り上げ「何より、当選した場合、夫人であるキム・ゴンヒをファーストレディとして受け入れるのは難しい」と書いた。
文在寅政権の最後の国防部報道官だったプ氏は、在任中に南北・韓米関係の事案で国防部が独自の立場を示すことがなかなかできず、もどかしかったと書いた。代表的な事例として、2021年3月16日、北朝鮮のキム・ヨジョン労働党副部長が韓米合同演習を非難した談話への対応を挙げた。同年3月8日に韓米合同演習が始まると、キム副部長はこれを「共和国を狙った侵略的な戦争演習」だとし、「『レッドライン』(越えてはならない一線)を越える愚かな選択」だと非難した。プ氏はこれについて「保守政権なら応答は簡単だっただろうが、現政権ではかなり抑えなければならないため、まず国防部と安保室がやり取りをして立場を調整したが、その都度単語や文言が変更された」と書いた。さらに「もちろんやり取りは重要だ。しかし、やり取りというよりは安保室が一方的に文言を調整する。ある程度は国防部の意見が反映されなければならないのに、そうならない」と記録した。当時「キム・ヨジョン談話について国防部は懸念を表明する予定だったが、最後にその意見が完全に消された」と書いた。
大統領選挙前日の昨年3月8日、北方限界線(NLL)を越えた北朝鮮船舶を軍が拿捕した際、「上層部」は迅速な送還を要求したという。プ氏は「誰かは明らかにすることはできないが、上層部では『なぜ拿捕したんだ』と怒りをあらわにする人もいたという。呆れた」と書いた。当時、軍は手続きどおり合同審問調査を進めようとしたが、「上から『早く送還してはどうか』という意見を国防部に送ってきた」という。マスコミに知らせるショートメールは当初「漂流中の北朝鮮船舶を韓国軍が救助した」という内容で出たが、「拿捕」という表現を入れるべきだというプ氏の主張で、最終的には「漂流」がはずれ「救助」が「拿捕」に変更されたという。
彼は南北関係に対する保守メディアの否定的な報道にも問題意識を示した。2021年8月3日、キム・ヨジョン副部長の韓米合同演習中止要求に関して「まるで国防部、統一部が衝突しているような記事で埋め尽くされた」という。「統一部は当然、南北関係改善を優先し、国防部は対備態勢と訓練に重点を置く。(マスコミが)これを知らないはずがないのに、まるで統一部と国防部が深刻な対立状態にあるかのように報道した」と批判した。
文在寅大統領が2021年の年頭記者会見で「韓米合同演習も南北軍事共同委で協議が可能だ」と述べると、記者たちが「合同演習を北朝鮮と協議するとはどういうことだ」と問うたことも批判した。彼は「韓米合同演習の南北協議は、9・19軍事合意だけでなく、軍事的衝突や緊張の緩和の一環である信頼構築措置で、欧州の東西冷戦がピークに達していた1970年代のヘルシンキプロセスを基盤としている。朝鮮半島の平和構築は軍事的信頼構築から始めなければならないという事実を忘れたとき、朝鮮半島の平和はただの水面上のかげろうになるのではないか」と書いた。
プ氏はまた、トランプ政権時代に派遣されたロバート・エイブラムス在韓米軍司令官を「傲慢な人」と評価した。2021年3月、韓米国防長官会談に同席したエイブラムス司令官は、戦時作戦統制権返還に関して「まず(韓国軍の)主要な能力を構築せよ」と述べたという。プ氏はエイブラムス司令官のこの発言を「暴言」だとし、「米国は戦作権返還の意志がないということを感じた」「(エイブラムス司令官は)同盟に対する配慮は見られず、傲慢さに満ちているという印象を受けた」と書いた。