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[レビュー] 蚊がいなければチョコレートもない?

登録:2022-08-21 21:22 修正:2022-08-23 13:55
『蚊が私たちにしてくれたことって何?』フラウケ・フィッシャー、ヒルケ・オーバーハンスベルク著//ハンギョレ新聞社

 「ウィーン」

 

 夏の夜、耳元を飛ぶ蚊の羽音は迷惑だ。顔、首、腕、音のするところを追ってパチンと打つ。それでも「ウィーン」の音が続くと、ついには身を起こさなければならなくなる。蚊の命の価値なんて考えているヒマはない。蚊の前でも「生命の尊厳」を語る人がいたら聞いてみたい。「(それで、)蚊が私たちにしてくれたことって何?」

 ドイツの生物学者フラウケ・フィッシャーと経済学者ヒルケ・オーバーハンスベルクが「蚊」に関する例え話で生物の多様性を語る新刊が出た。私たちが些細な存在と思う生物でさえ、それぞれの生態系で重要な役割を果たしており、それによって私たちの身の周りを黙々と維持しているなら、切迫した危機に瀕した生態系を今のまま放っておいて良いのかという質問を投じる本だ。

 たとえば、「チョコレート」を考えてみよう。老若男女を問わず誰もが好きなおやつのチョコレートの原料はカカオだ。カカオの花は他の花とは異なり、きわめて小さな授粉者(花粉媒介者)が必要だ。花の構造が複雑で小さすぎるので、3ミリ未満の授粉者がいなければならない。では、蜂に代わって誰がこの花の授粉者になるのだろう。それが糠蚊(ヌカカ)だ。著者は言う。「糠蚊がいなければ、私たちはチョコレートも食べられない!生物の多様性を守るのに、これより強力な理由があるだろうか?」

 

 地球上の大絶滅は過去に5回もあった。大絶滅を除けば、自然の絶滅率は100万分の1の水準だ。1年に100万種のうち1種だけが絶滅するという意味だ。今存在すると推定される800万種のうち、200万種が絶滅の危機に瀕している。著者は、絶滅する種がもう少し増えただけでも、生態系があっという間に劇的に崩れる生物絶滅の「ティッピングポイント」が今だと言う。

 今、私たちはどうすればいいのか。「生命の尊厳」という道徳律が皆に通じるわけではない。それなら「私たちが追求してやまない経済的必要性」を語る時だ。自然に価格票をつけるなんてと思われるだろうが、生物多様性がもたらす「生態系サービス」に価格票をつけ、この経済的価値を守るために努力しなければならない。例えば、熱帯の海岸地域の湿地のような森の生態系「マングローブ」は、2017年にハリケーン「Oma」が米国のフロリダ海岸を襲った時、1.5億円相当の物質的被害を防いだ。このマングローブは今、エビ養殖場、港湾、燃料などに利用され壊されている。問題は簡単ではない。地表の約2%に過ぎないが、世界の生物種の約50%が棲む「熱帯雨林」は、生物多様性のために守らなければならないものの筆頭だ。しかし熱帯雨林を持つ国家は、世界中の人々のために開発を放棄しなければならない状況に置かれている。生物多様性の保護をめぐる負担と恩恵が公正に分配されないジレンマ、完全ではなくとも解決の糸口がこの本には含まれている。

ソン・ゴウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://h21.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/52451.html韓国語原文入力:2022-08-20 10:43
訳J.S

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