ルワンダ南西部のニュングウェ熱帯雨林。西はキブ湖とコンゴ民主共和国、南はブルンジと接する。アフリカ大陸の真ん中において最もよく保存されている熱帯雨林の一つだ。チンパンジーなどの12種の霊長類をはじめ、多くの動物がひそむ森を横切る稜線は、ナイル川とコンゴ川の分水嶺を形成する。キブ湖に沿って北に向かえばヴィルンガ、絶滅危惧種のゴリラが生息するところだ。アフリカと言えば思い浮かべる密林がまさにこのようなところだ。
欧州にも「ジャングル」がある。英国と向かい合うフランスの町、カレー。英国に渡ろうとする移住民や難民たちがここに集まってくる。カレーの密林が形成されたのは1990年代後半。海峡の下のトンネルを通って、あるいはフェリーに乗って英国に渡ろうとする人々が集まってきたことから、フランス政府の要請を受けた赤十字社がカレーのサンガトという場所に臨時キャンプを作った。これを皮切りとしてテント村があちこちにでき、住民たちとの衝突が起きた。英国とフランスをつなぐユーロトンネルが移住民のせいで封鎖されたこともあった。人身売買組織に金を払い、冷凍コンテナに隠れてドーバー海峡を渡る途中で死んだ人々、ボートに乗って英国に到着した時に沿岸警備隊に捕まった人々…。フランス政府はテント村が大きくなるたびに強制撤去に乗り出すが、すぐに他の場所に新たなジャングルができる。
英国「難民処理費用」支給方針
海峡を挟んで向かい側のドーバーは、ジャングルを経て、あるいはより遠く東欧を通る様々なルートを通って集まってきた移住民の最初の寄着地だ。主にアフリカや中東の出身者が多いが、今はベトナムなどのアジア人の英国行きも増えている。随所に危険と落とし穴が潜んでいる国際密入国ルートは、口で言うのもはばかられる人権侵害の現場であり、違法な「人間取引産業」となっている。難民、亡命申請者、不法移住者、あるいは人身売買の被害者。このような区分は、実際には明確な境界線はない。
4月にドーバーを訪れた英国のボリス・ジョンソン首相は「不法移住者をルワンダに送る」という計画を発表した。英国から6500キロ離れたルワンダに1億2000万ポンド、190億円を超える金額を支払って移住者を引き渡すというものだった。5年にわたって試験的に運用するという「ルワンダ移送プログラム」の骨子は、英国に入ってきた人々をルワンダに送り、難民審査を受けさせるというものだ。ルワンダで永久的な難民としての地位を認めてもらい、そこに住み続けるか、でなければ他の国に改めて亡命を申請するか、2つに1つだ。
英国政府はルワンダに1億2000万ポンドを前払いする計画で、さらに多くの人々を「処理」すれば追加で支払う用意があると表明している。だがこの計画は、政府内からでさえ「移住者を阻む効果はほとんどないだろう」と懐疑的な声があがっている。
「違法」であろうがなかろうが、移住者たちは自分の生まれ育った国を離れて「より良い生活」を求めている人々だ。金を払って移住者たちを貧しい国に押し付ける行為そのものが不道徳だという批判があふれている。英国の裁判所は政府の肩を持ったが、欧州人権裁判所は14日、7人の亡命申請者を乗せてルワンダに向かおうとした英国の輸送機の離陸を「臨時措置」によって中止させた。英国政府は反発している。
英国内での批判は「ルワンダは果たして難民を送るに値する場所なのか」に集中している。アフリカ中東部に位置するルワンダはウガンダ、タンザニア、ブルンジ、コンゴ民主共和国に囲まれた内陸国だ。数値のみを見れば、ルワンダは依然として世界で最も立ち遅れた国の一つだ。人口1320万人のうち40%近くは貧困ライン以下の暮らしをしており、成人人口の30%は読み書きができない。
しかし、一国を数値で裁断するのは容易ではない。1人当たりの年間実質国内総生産(GDP)は2100ドルほどに過ぎないが、それでも2000年代からは毎年6~8%の経済成長を遂げており、腐敗も比較的少ない。国連開発計画(UNDP)の報告書によれば、1990年にはわずか33.4歳だった平均寿命は、2019年には69歳にまで伸びている。世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する「ジェンダー・ギャップ指数」で、ルワンダは北欧諸国に続き世界5~7位圏に名を連ねる。国会では女性議員の方が男性より多く、法律的・制度的な平等水準が非常に高い。
BBCは今年4月のルワンダについてのルポで「物事が効率的に作動しているように見える国、緑があふれ清潔な国、Wi-Fiがよく繋がる首都キガリ」に言及している。「だれもが税金を払おうとし、サービスは信頼でき、道路は安全だ」。ルワンダを旅行したか、あるいは滞在したことのある韓国人も「ルワンダは周囲の国とは違う」と口をそろえる。西欧人はこの国を「アフリカのスイス」と呼んだりもする。
しかし、その裏には恐怖政治を思い出させるものもある。「酒場で政治的な討論をすれば、誰かに黙らせられるだろう。一度でも妙なことを口走れば当局に報告される可能性が高い」。内戦を鎮圧したポール・カガメ大統領が2000年から長期にわたって政権を握り続けており、人権団体と野党を弾圧し、言論機関を統制下に置いているとの批判が多い。カガメ大統領は効率的な住民動員-監視体制を構築しており、ルワンダの光と陰はすべてその体制とつながっている。BBCが伝えたところによると、毎月最後の土曜日には村中の人々が集まって「ウムガンダ」という名の共同清掃を行う。ゴミは消え、道路はきれいになる。「強制する人はいないが、当局の指針に協力しなければ問題になることは誰もが知っている」
国際条約を無視したルワンダ移送計画
亡命申請者を安全が保障されていない第3国へと送るのは難民条約違反だ。欧州諸国はあたかも貧しい国から押し出されてやって来た人々を自分たちがすべて受け入れているかのように言うが、全世界の難民の85%は低開発国や開発途上国に留まっている。ルワンダも周辺のブルンジやコンゴ民主共和国などからやって来た15万人以上の難民を受け入れている。
英国政府が計画通りに移住者と難民をルワンダに送ることができるかは、まだ分からない。だが英国の「ルワンダ移送」計画は、西欧の二律背反を様々な側面において浮き彫りにした。英国の意識の高い人々が心配すべきなのは、ルワンダの人権状況だけでなく、英国政府の人権意識かもしれない。当初飛行機に乗せられルワンダに発つ予定だった何人かは「犯罪者扱いを受けている」と訴えた。ある男性は気絶し、その後、車椅子に乗せられて飛行機に搭乗されられており、手錠をかけられたり、バンの座席に手を縛られたまま空港に運ばれた人もいたという。英国の難民政策と人権水準の一断面だ。