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「法相の娘の疑惑、ペナルティがなければ正義もない」在米韓国人保護者らの憤り

登録:2022-06-11 06:25 修正:2022-06-11 09:05
シリコンバレー近くに住む韓国人保護者らの声//ハンギョレ新聞社

論文、出版、ボランティア団体の設立、アプリ制作企画、美術展示会…。国際学校に通うハン・ドンフン法務部長官の娘は、華麗な「スペック」(資格や活動経歴など入試や就職で有利になる要素)を積み上げている。だが、その裏面には論文盗用・代筆疑惑が潜んでおり、疑惑はケニアをはじめとする第3世界の青年たちの知的搾取産業にまでつながる。ハン長官の娘は、研究倫理を乱すハゲタカジャーナル(高額な掲載料を取り、正当性や質が保証されない論文を掲載する学術誌)を活用し、米国の入試専門家である母方の伯母のC氏(49)の娘たちと共にスペックの「助け合い」を行ってきた。

本紙は今月1日から9日まで、C氏が活動したカリフォルニア州サンノゼなどシリコンバレー近隣を訪れ、保護者や学生、入試コンサルタントなど22人をインタビューした。ここはハン長官の娘と「スペック共同体」を形成したC氏の娘たちが高校に通い、米国の名門大学に向けたアジア人生徒たちが激しい入試競争を繰り広げる所だ。米国の大学入試を経験した彼らは、手段を選ばないチャンス獲得に怒り、世の中のすべてのスタートラインが同じでないとしても最低限のルールは守るべきだと語った。

本紙は企画連載「エリートに進む彼らだけのリーグ」で、米国の名門大学という学閥を子どもに継がせる過程で韓国社会のエリートたちが動員する「グローバルスペック産業」の実態と、これを批判する声を、3回にわたって報道する。

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エリートに進む彼らだけのリーグ//ハンギョレ新聞社

 「娘は1年半をかけて論文を準備しましたが、結局完成できませんでした」

 今月2日(現地時間)、米カリフォルニア州サンノゼで会ったチョン・ミソンさん(仮名・48)の娘(20)は、11~12年生(高校2~3年生)の時、複数の教授に数十通の電子メールを送った末、生物学研究室のインターンになり、論文の作成に多くの時間を費やした。良い大学に入学するためには運動や美術、ボランティア活動、リーダーシップ活動などをしなければならなかったが、論文のためにすべて諦めた。にもかかわらず、出版できなかった。 「一生懸命実験に取り組みましたが、データが不十分だったようです。論文は完成したけれど結局パブリケーション(出版)はできませんでした。簡単なことではありませんから」

 しかし、チョンさんはその1年6カ月の時間を「失敗」とは思わない。「大変でしたが、やりがいを感じていましたし、今大学でも似たような作業をしているので、無駄だとは思いません」。だが、ハン・ドンフン法務部長官の娘の論文代筆疑惑報道を見て、怒りが込み上げてきた。「パブリケーションは米国で良い大学に入る子たちだけの重要なスペックなんです。なのに、他人の文を盗用したり、誰かを雇用して論文を書いたみたいですよね。音楽や運動は代わりにできないから、こんなやり方で子どもに大きなスペックを簡単に作ってあげたんでしょう。ペナルティ(不利益)もなくうやむやにされたら、この世に正義というものがあると言えるでしょうか」

 本紙の取材陣が会った在米韓国人保護者たちが、ハン長官の娘のスペック疑惑を見て感じたのは、挫折感だった。サンノゼは米国でも指折りの富裕層の街で、上位20%の年平均世帯所得は36万1269ドル(約4800万円)に達する。グーグルやテスラ、アップルなど有名なIT企業が集まったシリコンバレー近くにあり、高い年俸を誇るエンジニアたちが集まって暮らしているからだ。だが、彼らでもついていけない、あるいはついていってはならない「彼らだけの世界」が明らかになった。

 「もはや特権層がお金で学歴を買うのも能力だと考えるということでしょう」。2日、米カリフォルニア州クパチーノで会った韓国人保護者のシン・スジンさん(仮名・45)はこう語った。シンさんの息子は11年生(高校2年生)だ。「米国は自分の富とネットワークをもとに成し遂げたことはすべて認めてくれます。それを子どものために使ってもよしとされる。ところが、(ハン長官の娘は)他人の力で偽物のスペックを作り上げたと疑われる状況じゃないですか。私は80をやっても60しか出てこないのに、同じ80をやった誰かが他人の手を借りてそれを200にするなら、それは大きな問題です」

 今月1日、サンノゼで会ったイ・ウンギョンさん(52)は、3人の子どもを育てながら経験した課外活動の難しさを説明した。「末の娘が病院でボランティア活動をする時、12人募集だったのに200人が殺到しました。それだけクレジット(活動歴)を作るのが(米国では)難しいのです。 実は勉強が一番簡単です」。それでもクレジットにしがみつく理由がある。「知人の子どもは4年間ずっとGPA(学業成績)がすべてAだったにもかかわらず、UC(University of California)系列の大学に全部落ちました。死ぬほど勉強したのに、クレジットが足りなかったのです」。イさんもエンジニアの夫がアプリケーションを開発し、子どもがそれに参加したように名前を上げてみようかとも考えた。「誘惑があります。ところが夫が『長い目で見て教育上良くない』と反対しました。私も子どもには一言も言いませんでした。反則をするか、お金を使えば本当に簡単に作れるのがクレジットです。自らの力で誠実に作るのは難しいですけどね」

 韓国人保護者のミン・ジユさん(仮名・46)は子どもが3人いるが、2人は高校生、1人は小学生だ。ミンさんはクレジットのために「本当にあらゆることをしている」と話した。「学校が終わったら、まず水泳を2時間、楽器を2時間。夕方には文を書いて絵も描いて宿題もします。リーダーシップ活動もしなければなりません。必須ではないけど、普通10年生や11年生の時には大学課程の授業を受けます。難しくて勉強量もとても多いけど、大学レベルの授業を受けていることを(大学入学のときに)見せるためには、やらなきゃなりません。また、その授業は後に大学で単位として認めてくれるので、授業料の節約のためにもそうしています」

 米国ではこのような努力が公正に評価されるとミンさんは信じてきた。だが、入試専門家C氏が主導したハン長官の娘といとこたちの「スペック共同体」疑惑報道を見て、その信頼が揺らぎ始めた。「(代筆や盗用、スペックの助け合いなど)問題を掘り下げれば、芋づる式に次々と出てきそうです。そういうのがこれまでもあったわけです。自分たちだけの秘密にして口外しなかっただけで」

 韓国人保護者たちは、この問題をそのまま見過ごすわけにはいかないと考えた。 問題視しなければ同じことが繰り返されるという懸念のためだ。11年生と8年生の子どもを持つ40代半ばのヒョン・ウンジュさん(仮名)は最近、小学生の子を持つ友人の話に衝撃を受けた。「友人がC氏の推進力と組織力、スキルなどがすごいと褒めていました。自分の娘たちをアイビーリーグの大学に進学させたからロールモデルのように思っているんです。どんな形であれ、ペナルティが与えられなければ、こういうことはなくならないと思います」。米国に住む韓国人たちは16日、ハン長官の娘の「虚偽スペック疑惑」を組織犯罪とみなし、ハン長官側の釈明を一つひとつ批判する立場表明文を世界最大規模の民間請願プラットフォーム「チェンジ」(change.org)に載せた。これは9日午後5時まで1万1486人の推薦を集めた。

サンノゼ・クパチーノ/キム・ジウン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1046467.html韓国語原文入力2022-06-10 23:58
訳H.J

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