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[記者手帳]保守メディアが騒ぐ電力大乱危機説…「原発のおかげ」は事実無根

登録:2021-07-27 00:00 修正:2021-07-27 07:30
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 

キム・ジョンスのエネルギーと地球//ハンギョレ新聞社
多くの人々を不安にさせたメディア発の「電力大乱」「ブラックアウト(大停電)危機」の騒動は、今週に入り少し静かになったようだ。電力需給危機説の拡散の先頭に立ったメディアは、原発が動員されたおかげで峠を越したと主張し、脱原発を危機の根源だと指摘している。本当にそうなのだろうか。国民は、彼らが望む通りに「危うく大変なことになるところだった」と胸をなで下ろし、原発に特別なありがたみを感じなければならないのだろうか。そのような必要はない。原発の動員とは関係なく、電力需給の危機自体が存在しなかったからだ。

 「三人成虎(3人いれば存在しないトラも作られる…嘘や噂でも多くの人が話題にすれば皆がそれを信じてしまうという意味)」というように、先週の電力需給危機説は、保守・経済メディアが口をそろえて描いたトラに過ぎなかった。その過程では、ソウルのある新型コロナ選別診療所が暴雨による漏電の危険のために運営を中断したことが、電力供給の中断を懸念した措置だと歪曲され、一部のメディアは、停電が来ることに備え冷蔵庫を空け避難するホテルを探すという住民まで登場させたりした。

 これらのメディアが幽霊のような危機説で国民を不安にさせた理由は、脱原発への批判の先頭に立ってきたある原子力工学者がよく表現している。ソウル大学原子核工学科のチュ・ハンギュ教授は26日、ある新聞に掲載されたインタビューで、「電力需給への不安は今日で終わることではないので、原発政策についての真剣な見直しが必要だ」と語った。脱原発政策を見直せという要求だ。

 保守・経済メディアが電力需給危機説の根拠にしたのは、「電力供給予備率10%」が破られる懸念があるということだった。供給予備率は、供給可能な電力量から実際の需要を引いた供給予備力を需要で割った百分率だ。電力需要が予期せず急増したり、発電機の故障などにより発電量が急に減る場合にも、電力を安定的に供給するために維持しなければならない余裕分であるわけだ。朝鮮日報は「ブラックアウト(大停電)に備えるためには、常に電力予備率は10%以上を維持しなければならない」とし、「供給予備率10%」を大停電が起こるリスクを避けるために守らなければならない基準線であるかのように報道した。しかし、彼らがたきつけた危機説の開始点である「供給予備率基準」からして、根拠がなかったのだ。

 韓国電力取引所が電気事業法に基づいて作った電力市場運営規則は、予備率ではなく予備力を基準に電力の需給状況を管理するようにしている。規則は、予備力が5.5ギガワット(GW)未満に低下する時点から、電力需給警報の発令のための準備段階に入るよう定めている。予備力が5.5GW以上であれば安定圏とみなすというのが、電力取引所の説明だ。予備力5.5GWを予備率に代えると、今年の夏の最大電力需要見通しである94.4GWに適用しても5.8%台だ。保守・経済メディアが掲げる10%よりはるかに下だ。

 実際、先週の電力需給実績は、一部のメディアが主張する予備率10%の基準を適用しても、非常状況からかけ離れていた。先週、時間平均で供給予備力が最も少なかった23日午後5時でも、予備力は9.946GWを記録した。予備率では11.1%だった。予備力を5分単位で細分化すると、23日午後4時55分に9.116GWまで落ちたが、この時の予備率も10.08%を記録し、10%未満には下がらなかった。先週、電力供給を始めた新月城(シンウォルソン)1号機、新古里(シンゴリ)4号機、月城3号機などの原発3基の設備容量は合計3.1GWだ。これらの原発がなくても供給予備力は6GWを越えており、安定圏から外れる心配はなかった。

 一部では、韓国の供給予備力の5.5GW基準が極めて低いのではないかという懸念もある。しかし、韓国の基準は似たような条件の他の国に比べ、むしろ厳格な方だ。日本の経済産業省の資源エネルギー庁が5月25日に作成した報告資料『2021年度夏季及び冬季電力需給見通しと対策について』によると、日本は予備率3%を安定的な供給に必要な最小予備率とみなしている。予備率が3%を下回る場合、「ひっ迫警報」を発令して消費者に節電を要請し、そのように対応した後でも1%を下回る懸念があれば、計画停電などを検討するということだ。

 米国のテキサスも韓国と比較できる所だ。連邦政府の規制を受けないという風土のため、周囲の州と電力網を連携しておらず、電力網をみると韓国と似た島のような構造だからだ。さらに、設備容量も107GWで、韓国(133GW)に似た水準だ。3段階に区分されたテキサス州の電力当局の非常段階は、予備力2.3GWから始まる。

 テキサスの電力非常段階の基準となる予備力は、運転中の発電機で確保しなければならない「運転予備力」だというのが専門家らの説明だ。需要が急増する非常状況において緊急に対応できるよう、運転中の一部の発電機を100%の出力で動かさず余裕を残しておくという概念だ。韓国の電力市場の運営規則において、これに似た概念で維持しなければならない予備力は、周波数制御予備力の0.7GWに1次・2次予備力の2.4GWを加えた3.1GWだ。韓国は、さらに余裕があるよう予備力を確保するようにしているわけだ。

 産業部は、先月末に発表した「夏季電力需給見込みおよび対策」で、今年の夏季の最大電力需要は8月第2週に生じると見通した。供給能力が99.2GWの状況で、最大電力需要が94.4GWに到達し、供給予備力は4.8GWにまで減ることがあり得るということだ。先週のようにその場合でも、電力危機説が再び提起されるのだろうか。4.8GWは電力需給警報の「準備」段階にあたる基準だが、電力取引所は、実際には準備段階にまで進む可能性は高くないと説明してきた。

 このような説明は、民間の専門家らの判断とも一致する。需給警報の準備段階に入る前に発電機の出力拡大やエネルギー貯蔵装置(ESS)の充電・放電時間の調節、デマンドレスポンス(DR)資源の動員などを通じ、7GWほどの追加供給が可能だというのが、その根拠だ。弘益大学電子電気工学部のチョン・ヨンファン教授は「予備力を維持するのは、結局はすべてお金」であり、「韓国の非常状況の準備基準である供給予備力の5.5GWでさえ、一部で懸念されるような不足ではなく、むしろ多すぎるとみなせる」と述べた。

キム・ジョンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/1005165.html韓国語原文入力:2021-07-26 15:46
訳M.S

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