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強制動員裁判、前例なき判決日程変更…「法廷の平穏」それほど重要だったのか

登録:2021-06-09 03:31 修正:2021-06-09 08:38
日本による強制動員の被害者と遺族が損害賠償請求訴訟の一審で敗訴した7日午後、ソウル中央地裁で、被害者の息子イム・チョルホさん(左)と日帝強制労役被害者会のチャン・ドックァン事務総長、カン・ギル弁護士が判決後に感想を述べている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 裁判所による突然の期日変更に、訴訟の原告たちは混乱した表情を隠せなかった。地方に住む原告は出廷できず、京畿道議政府(ウィジョンブ)に住むチョン・ヨンスさん(71)も、危うく裁判所に来られないところだった。今月7日午前、強制動員被害者による損害賠償請求訴訟を審理中だったソウル中央地裁民事34部(キム・ヤンホ裁判長)は、判決期日を3日も繰り上げ、その日午後2時に言い渡すと発表した。これまでの日帝強制動員被害者訴訟の中で最大規模となる同事件の、当初予定されていた判決期日は今月10日だった。日程繰り上げは、判決をわずか数時間後に控えた7日午前に、突如として訴訟代理人に通知されたという。

 判決の1時間半前に知らせを受け、議政府からソウル瑞草区(ソチョグ)のソウル中央地裁まで急きょ駆けつけたチョンさんは、判決後も裁判所を離れられず、しばらく周辺をうろうろしていた。「これが裁判ですか」とチョンさんは憤った。「うちの父は、三菱炭鉱で、食べられるのは握り飯ひとつで、死ぬほど苦労して、やっとのことで生きて韓国に帰って来たんです。でも韓国に帰って来てから程なくして亡くなってしまいました。日本の残忍さはとても言葉では言い尽くせませんが…」。判決期日を突如変更した裁判所はこの日、「原告の訴えをすべて却下(訴訟が手続き的要件を満たしていないとし、それ以上審理せずに終結すること)する」と判決した。被害者が事実上敗訴したのだ。

 判決期日が繰り上げられるのは異例だ。様々な事情で判決期日が延びることはしばしばあるが、繰り上げられることはめったにないと判事たちは口をそろえる。判決を早めに書いておかねばならず、過密な裁判日程から空いている時間を見つけ出すのも容易ではないからだ。裁判期日を突如変更すれば、原告と被告、弁護士などの訴訟の各当事者や代理人の日程もこじれざるを得ない。高裁のある部長判事は「重要事件では、憶測を呼ぶことを懸念して期日延期にも気を使う」とし「(この事件のように)重要事件の期日を繰り上げるケースは見たことがない」と述べた。10年の経歴を持つ在京地裁のある判事も「判決期日を繰り上げた事例は初めて見る」と首をかしげた。

 担当法廷は、判決期日を繰り上げた理由として「法廷の平穏と安定」を挙げた。決まっていた日に判決を言い渡せば原告たちが却下判決に反発し、「法廷の平穏と安定」が損なわれる可能性があるため、判決日を当日午前に突如変更することで、原告のかなりの数が法廷に出席できないようにする、という意味にしか解釈できない言い分だ。判決期日の変更に対する非難を予想したかのように、担当法廷は最高裁の判例を3つ提示し、「判決期日の変更は、当事者に告知しなくても違法ではない」と付け加えた。法的に何の問題もないという意味だ。

 しかし、法的に問題がないからといって、批判を避けて通れるわけではない。同法廷のこのような選択には、長きにわたって裁判所の判決を待ってきた強制動員被害者に対する尊重が見られないからだ。訴訟当事者より「静かな法廷」の方が重要だという同法廷の判決を、強制動員被害者とその家族は6年間待った。この訴訟は2015年5月22日に起こされているが、数年にわたり日本企業が訴訟に応じなかったため、最初の口頭弁論が行われたのは先月28日だ。

 一審判決は、同法廷のゲリラ的な判決日程の変更により、予想より早く、空しい結末を迎えた。最高裁全員合議体の2018年の判決を受け、原告勝訴の判決が出ると期待していた強制動員の被害者たちは、裁判所の外で「却下判決を下すために判決期日を繰り上げたのか」と叫んだ。この日、裁判所で会ったある訴訟関係者は記者に対し「こんなことがあっていいのか」と問うた。彼らは法廷だけで闘っているのではなかった。裁判所の外に出て来る彼らの上には、気の早い夏の暑さがあふれていた。

シン・ミンジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/998541.html韓国語原文入力:2021-06-08 19:09
訳D.K

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