新型コロナウイルスで経営が悪化した日本航空会社のANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)の社員300人が、当面のあいだ家電量販店のノジマで働くことになる。航空会社と雇用契約はそのまま維持し、他の企業にしばらく派遣される。ノジマは航空会社の職員を対象に1週間の研修を行ってから、営業店の販売担当やコールセンター業務を任せる計画だ。
これら二社からノジマへの出向に同意した社員が対象で、出向先でも手当を含む給与は現在の水準を維持する。給与はノジマが支給するが、本来の給与を下回る場合は、航空会社が差額を補填することにした。契約期間はまず6カ月で、さらに延長することもできる。ホテル業界の東横インの社員300人も、ノジマで働く案について話し合っている。人材派遣専門会社のパソナグループは今月から航空や旅行、ホテル業界などから出向者を募集する予定だ。
最近日本では、新型コロナで業績が悪化した企業の社員を対象に、解雇などリストラを避ける代わりに、人手が足りない企業に派遣する「出向」制度が広がっていると、日本経済新聞が1日付で報じた。新型コロナによるソーシャル・ディスタンシングで人々が自宅に留まる時間が長くなるにつれ、航空や宿泊、外食業界などは経営が悪化したのに対し、電子業界などは業績が好転し、企業間で「雇用シェア」の協議が行われている。経営が悪化した企業は人件費を減らし、従業員は仕事を守ることができる一方、人手不足の企業も検証された人材を即戦力として活用できる。
同制度を人材確保の機会に利用する企業もある。日本最大の流通会社であるイオンは居酒屋大手のチムニーから今月まで45人を受け入れたが、このうち10人がイオンへの転籍を決めた。
日本では急激な円高で不況に見舞われた1980年代後半~1990年代からこの制度が本格的に始まった。ただし、企業内では他社に出向されることを“左遷”と捉える場合が多く、本人の希望とは裏腹にリストラを避けるために無理やり出向を命じられるケースもあり、物議を醸してもいる。給与が減る事例もある。同制度によると、もともと働いていた会社の雇用関係は維持されるが、給与や就業規則は契約によって異なるからだ。毎日新聞は「コロナ禍の長期化で出向が拡大するものとみられる」とし、「政府は労働者の労働条件、働く場所が変わることで生じる心理的な問題などをよく調べる必要がある」と指摘した。