教育当局の「遠隔授業ニューノーマル」に物議
20%に制限されている遠隔授業の規制をなくす
実習・実技・実験授業の学生は不満
「紙の鍵盤で演奏…これでも大学か」
10年前に撮った講義映像をアップしたり
携帯電話で録画した映像を使用することも
教える側と学習者の相互作用もない
2学期が始まった後も144校が「非対面」
教員たちは「深化課程についてこられるか心配」
学生たちは「授業選択権の保障」を要求
韓国教育部は、9日に開かれた社会関係長官会議で「デジタル基盤の高等教育革新支援策」を発表した。今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため準備なしに迎えた「遠隔授業」を、今後は大学の学事運営の「ニューノーマル」(新しい標準)として確立するという趣旨だ。しかし、このような教育当局の抱負とは違って、大学生の間では遠隔授業の質に対する不満が高まっている。1学期を通して講義室で授業を受けることができなかった大学生の大半は「教育というよりはただの授業の真似にすぎなかった」「これを教育と呼べるかどうか分からない」と指摘する。
今年上半期にすべての学校が閉校せざるを得なくなると、政府は幼・小・中等教育分野に対してオンライン上の始業、登校授業の再開など、多様な対策をあわただしく打ち出した。しかし、大学に対しては「遠隔授業全面許容」だけが唯一の措置だった。忘れられそうになった高等教育分野の実態は、学生から「授業料返還」要求の声が上がったことでようやく関心を集めた。
この日、教育部が発表した「デジタル基盤の高等教育革新支援策」は、COVID-19で一時的に緩和した遠隔授業関連の規制の完全撤廃を推進するということが核となっている。下半期に総単位の20%以内となっていた「遠隔授業運営基準指針」をなくし、各大学が学則を通じて自主的に定めることができるようにする方針だ。教育部は同日、オンライン会議を開き、各大学の総長に対して遠隔授業に関する内容について案内した。1学期に続き2学期の開講後も当分の間は全面的に「非対面授業」を行う大学は144校にのぼることが、集計の結果分かった。ハンギョレは、今年1学期に遠隔授業を受けた大学生たちの話を聞いてみた。
■ 紙の鍵盤でピアノの授業
「遠隔授業」に対する大学生の不満は、特に実習・実験・実技など対面授業の状況でのみ効果が期待できる科目に集中していた。相対的に高い授業料を払う芸術系列の大学生たちは、学校の実習室さえ出入りできず、文字どおり直撃を受けた。芸術大学生ネットワークのシン・ミンジュン執行委員長は「美術学部の場合は家で自分が描いた絵を写真に撮り、音楽学部の場合は演奏などを録音して教授に送る方式だった」と話した。シン委員長は「やっとリアルタイムの授業になっても、教授は出席だけ確認して自分の作業をしに席を外すことがよくあった」と付け加えた。実習するスペースがない状況で、課題を完成するために私費を投じたることもあった。「教授が横160センチのキャンバスに油絵を描くよう課題を出しても、家では到底できない。結局、私設の作業室を確保してやるしかなかった」
芸術大学のように実習授業が多い教育大学でも驚くようなことが起こった。公州教育大学2年生のパク・コンジンさんは「音楽教育ではピアノの授業があるが、ほとんどの学生はピアノを直接弾くことができないので、各自紙に鍵盤を描いて弾いてみろと言われた」とし「音も出ないのにどうしろというんだ、と思った」と嘆いた。「セウォル号惨事」以降、小学校で生存水泳が義務化され、生存水泳の授業も受けなければならなかったが、ユーチューブで生存水泳の動画を検索し、課題を提出することで済まされた。
理工系もまた実験・実習授業の比重が高い。以前は科ごとに設けられた実験室で直接実験をしてその結果を提出したが、オンライン講義の状況では、ただ動画で教授が実験する様子を見た後、課題を出すことしかできなかったという。家で課題をする基本プログラムもまともに提供されなかったケースもあった。京畿道のある短期大学機械工学科1年生のノ・ギョンデさんは、1学期に全部で10科目を受講した。このうち機械設計プログラムを扱う2科目が100%実習科目だった。ノさんは「幸い、1科目は学生向けのプログラムがあったが、もう一つの科目は教授が60日限定の体験版プログラムをくれた。60日以内に課題を完成できなかった学生は、課題を提出することもできなかった」と話した。
財政が豊かでない地方大学の場合、オンライン講義を体系的に管理する学習管理システム(LMS)も備えられておらず、私設のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用して講義動画を掲載するなどの事態が起きた。大学では別途の支援をせず、教授や講師がマイクやカメラなどを自費で購入してオンライン講義を準備するケースも多かった。
■無料のユーチューブの講義の方がまし?
実習・実験・実技授業と違い、理論授業は相対的に良かったのではないかという質問に対し、大学生たちは「それすらも対面授業との質的な面で差が大きかった」と口をそろえた。テレビ会議アプリでリアルタイムで講義を進めたり、事前に録画しておいた講義動画をアップロードする場合がほとんどだったが、教える側と学習者、または学習者同士の間で必要な相互作用はほとんど期待できなかったという。京畿道地域のある大学生は、「印刷した紙に手で文字を書きながら説明するのを携帯電話で録画してアップするなど、誠意のない教授もいた」と話した。
特に、教授によって遠隔授業の力量の差が大きいことへの不満が大きかった。ソウル市内の私立大学の学生は「一部の教授は10年前に撮った講義の動画をそのまま用いていた。背景知識のない低学年生が『何を言っているのか聞き取れない』と授業をあきらめるケースも多かった」と話した。学生の間で「これなら無料でユーチューブの講義を見る方がいい」という自嘲ぎみのため息が出るのも、このような背景からだ。一部では、遠隔授業が始まってからしばらく授業を行わず、期末試験直前になって授業をまとめて行ったという事例もあった。
教育者の立場からも、この1学期は大変な時期だった。授業の企画や運営、評価など、オンライン講義の全般的な責任が教育者各自に任せられたからだ。教育当局や大学当局が適切な時期に指針を下さなかったため、不確実性が増したという点もある。培材大学のカン・ミョンスク教授(教育学)は「オンライン講義のシステムや原則に対する大学構成員の議論が全くない状態で、予測不可能な大学の指針に従わなければならなかったのが最大の問題だった」と述べた。当初は対面で試験を行うことになっていたものの、感染症の流行を受け、一夜にしていきなりオンライン試験へと切り替わり、これによって相対評価の方針を絶対評価へと変えなければならないこともあった。カン教授は「前学期に授業は進み試験もしたが、はたして授業内容がきちんと伝わったのか、学生たちが今後の深化課程についてこられるのか、心配だ」と述べた。
全国大学学生会ネットワークのチョン・ダヒョン共同議長は「対面なのか非対面なのかを決める過程で、授業を聞く学生たちの意見集約が行われていない」とし、学生たちの授業選択権を保障すべきだと指摘した。イ・へジさん(梨花女子大学史学科4年生)は、「学期ごとに行われる受講申請競争、60~70人が押し寄せてぎゅうぎゅうの講義室、そこで行われる単純な知識伝達型の授業、就職率だけを目標と成果とする大学本部など、大学教育に対する不満が新型コロナをきっかけに増幅しているようだ」と話した。