ソウル市のパク・ウォンスン市長が死去し、今後9カ月間、ソウル市の行政は副市長による権限代行体制で運営される。しかし、突然の市長不在により、パク市長が任命した政策補佐官らが当然退職(自動退職)の手続きを踏んで退くことになり、「不平等の解消」に焦点を合わせたパク市長の政策推進動力が低下しかねないという懸念の声もあがっている。パク市長の民選7期の任期は2022年6月30日までで、4年任期の半分の約2年が残っていた。
地方自治法によると、地方自治体の首長が欠位した場合、副市長など副団体長がその権限を代行することになっている。ソウル市の場合、ソ・ジョンヒョプ行政第1副市長がその役割を担う。35回(1991年)行政考試出身のソ副市長は、パク市長の就任後、行政課長や市長秘書室長、市民コミュニケーション企画官、文化本部長などの主要ポストを歴任した。パク市長の市政哲学をよく理解する人物と知られている。ソ副市長が長い行政経験をもとにソウル市政を担っていけると見られるが、権限代行として限界があり、民選市長のような政治力を期待することは難しいという見通しも示されている。
特に、パク市長が3期目の任期中に力を入れていた「不平等の解消」や「ソウル型K防疫モデル」の構築など、主な政策を滞りなく維持していくことも、ソ副市長の課題だ。不平等の解消がこの時代の時代精神だと考えたパク市長は、最近は4大保険の適用を受けられない1400万人の非正規労働者のための「全国民雇用保険」の推進を強調してきた。また、今月初めからは江南地域の開発を通じて発生した公共寄与金を管轄自治区で使うようにした「国土計画法施行令」を批判し、「開発利益の広域化」も主張した。障害者たちにリハビリ・医療サービスを提供することで、社会復帰を支援する「障害者公共リハビリ病院」の建設も、地方自治体では初めて進められていた。
コロナ禍の中、ソウル市は積極的な検査や感染症対応体系を従来の4段階から7段階へと細分化する政策で、ソウル型K防疫標準モデルを先導したという評価を受けた。感染症予防のための公共医療スタッフとインフラを拡充するため、パク市長は地方政府初の感染病研究センターと公共医科大学の設立も推進していた。死亡前日の8日、パク市長は都市ビルや輸送、都市の森、新再生可能エネルギー、資源循環の5大分野で「ソウル型グリーン・ニューディール」を推進し、30年後に炭素排出ゼロ都市に生まれ変わるとの計画を直接発表した。
住宅供給量を増やすためにはグリーンベルトを解除すべきという世論の圧力に対抗してグリーンベルトを保全しながら住宅供給を拡大するという政策方針も、維持されるか疑問だ。パク市長は最近、グリーンベルトを保存し、市街地を直接買い入れる方法で住宅供給を拡大する方法を指示したという。このような方法は、グリーンベルトを解除して住宅を建てるよりも手続きや費用問題が複雑にならざるを得ない状況だ。
政策補佐官たちの空白も、市政の運営への支障を懸念する理由の一つだ。同日、パク市長が起用したコ・ハンソク秘書室長やチャン・フン疎通戦略室長、チェ・ビョンチョン民生政策補佐官など地方別定職公務員27人は「勤務期間が任用権者の任期満了日を越えることはできない」という関連法令により、退職手続きを踏むことになった。パク市長の政策を作り、諮問してきた主要幹部が市政を離れることで、政策推進の動力が低下せざるを得ない状況だ。
しかし、ソウル市の立場は確固不動だ。主要部処の職員らは同日、口をそろえて、「パク市長が熱意を持って推進した都市再生や無償給食、町づくりなどの政策が滞りなく進められなければならない」と話した。ソ副市長も同日のブリーフィングで「ソウルの市政は安全と福祉を最優先とするパク・ウォンスン市長の市政哲学に基づき、中断なくしっかりと続けられなければならない」と述べた。
ソウル市庁舎は同日、一日中寂寞感が漂っていた。主要幹部らの執務室がある6階の通路は出入りが統制され、市庁の職員らは「故人に対する礼儀」だとして、言葉を慎む雰囲気だった。パク市長の死亡ニュースを取り上げたニュースを見て、深いため息を吐く職員もいた。
市庁周辺でパク市長を追悼しようとする市民の姿もあった。Pさん(78)は「悔しくて悲痛な気持ちで追悼に来たが、まだ焼香所が設置されておらず、待っている。長い間いい仕事をしてきた方がなぜこんなに空しく亡くなったのか、わからない」として、目に涙を浮かべた。