[万里ジェにて(訳注:ハンギョレ新聞社本社所在地のこと)]
■パク・ヨンヒョン
1.ドイツの進歩的時事週刊誌<シュピーゲル>は‘ドイツ民主主義の支援艦砲’というニックネームを持っているという。軍事用語が借用されたが十分に噛みしめてみれば本当に美しいニックネームだ。
2.ドイツでモナコのキャロライン王妃の私生活写真をパパラッチ式に報道した報道機関が訴訟を提起されたことがある。ドイツ連邦憲法裁判所は言論の手をあげた。
“言論の役割が世論形成にあるからと言って、単純な娯楽記事を憲法上保障された言論自由の対象から除外してはならない。世論形成は娯楽の対称点に立つものではない。娯楽性記事も世論の形成に寄与することができる。ある状況ではそのような記事はひたすら事実だけを扱った情報性記事より一層持続的に世論形成を促進したり影響を及ぼすこともある”
この決定が正しい正しくないを問い詰めようとするものではない。その中に込められている言論の本質に対する評価に注目しようとするだけだ。順次、ニュースが映像化されてきている。芸能ニュースが大衆の耳目を惹きつける。グラフィックは華麗になり文体は柔らかくなる。しかし、変わらないことは「言論の役割が世論形成にある」ということであり、「世論形成を促進したり、それに影響を及ぼす」ことが言論の価値基準だという点だ。
言論の起源を考えてみる。原始の原野で我々の祖先は気がかりだったことだろう。あの山の向こう側にはどんな世の中が展がっているのだろうか? それは単にそこにどんな花が咲いていて市内のお喋りがどれほど違うのかという好奇心だけではなかっただろう。自身の人生をさらに潤沢にする、あるいは危険に陥れる要因がそこにないだろうかと思う気がかりであっただろう。だから、そのような信頼できる情報を入手し伝えてくれる人を賞賛したことだろう。
近代の言論は17世紀の英国の酒場やコーヒーハウスから始まったという説がある。くたびれた装いの旅行者や船員がビールの杯を傾けながら世相を嘆いたり為政者をののしり、片隅に置かれたノートにそのような話を書いたりしただろう。一種の公論が形成される初期の場だった。いずれにせよ為政者たちはこういう現象を喜ばなかった筈だ。これに対抗し「真実を語ることは反逆罪に該当らない」という論理が登場したという。当時、英国の慣習法は「真実に近いほど大きな反逆罪」としていた。真実であればあるほど、為政者らにとってはより大きな危険となるからだった。(<ジャーナリズムの基本要素>)
3.現政権になり言論市場が揺れ動いている。公衆波をはじめとする放送会社掌握と朝鮮・中央・東亜の総合編成チャンネル進出の環境整備が真っ最中だ。言論地形に寒冷前線のようにかぶさってくる影は批判的独立言論の肩をより一層すぼませている。
日刊新聞や時事週刊誌などの印刷媒体は、読者の目から遠ざかる危機に瀕している。韓国リサーチ(HRC)の調査で総合日刊紙(上位10ヶ)の合計閲読率は2003年52.3から2009年40.8に落ち、時事週刊誌(上位9ヶ)は同期間に10から5.9に下がった。
←<ハンギョレ21>年度別週当り平均発行部数推移(※イメージをクリックすれば大きく見ることができます)進歩言論は今や内外の試練に抗し道を探しに出なければならない時であることを直感する。<ハンギョレ21>はこの灰色の混沌の中で自身の座標を確認することで新たな出発を準備しようと思う。
去る11月18日<ハンギョレ21>は実発行部数を公開的に検証を受ける韓国ABC協会に加入した。申告した発行部数は週当り6万9408部(2009年7~9月平均)だ。併せてこの紙面を通じ創刊以後の<ハンギョレ21>の発行部数変化推移を公開する(グラフ参照)。
グラフに見る曲線は他の見方をすれば実にエロチックだ。韓国の読者大衆が進歩的時事週刊誌に贈ってきた愛情の曲線であるためだ。創刊直後に急上昇した曲線は1990年代末から急激に低くなる。ある人はインターネットが本格的に活性化した時期と重なると解釈し、またある人は相対的に進歩的な政権の登場との関連を主張する。2つとも核心を突いているだろう。言うなれば媒体環境の急変と進歩的談論に対する需要変化だ。だが明らかなことはその愛情の曲線が決して切れずに続いているという点だ。そして昨年からは頭をそっと持ち上げているという点だ。美しい微笑であり断固たる表情のようだ。これもまた核心と結びつくだろう。今日もその意味を十分に噛みしめている。
←広告・販売収入比率(※イメージをクリックすれば大きく見ることができます)4.全世界言論市場の現実は権力、中でも資本権力による言論掌握が日々拡張されていることを実感させる。巨大メディアグループが新聞と放送を通じ瓜二つの資本の論理をばらまきまくっている米国はその典型を見せる。こういう構造では独立的な世論形成という言論本来の役割が障壁にぶつかるほかはない。
これは我が国にも通用する真実だ。メディア経営研究所が昨年11月に出した報道資料によれば、全国紙8ヶ所,経済紙5ヶ所,地域日刊紙45ヶ所,スポーツ新聞4ヶ所,英字新聞2ヶ所を分析した結果、広告収益と購読収益の比率が76.3%対23.7%に達した。広告主が言論の生存鍵を握っているのは今に始まったことではない。
だが<ハンギョレ21>は希望を捨てない。今年<ハンギョレ21>は広告収益と販売収益の比率を30.8%対69.2%まで下げた。読者の皆さんの愛情がその後にある。
5.今日のこの全ての告白は、明るい明日をむかえるための決意の表現だ。すべての記者が報道機関の入社試験場に入る時、胸が躍るように再確認する夢、すべての権力から自由な言論の夢を再び手繰り上げようとする所作だ。進歩言論の危機の中で、真に独立的な批判言論として新たな道を切り開くために読者の皆さんと疎通するためだ。
市民として、その社会に対する正確な情報を持ち、その社会を醸成することに参加するようにするのが言論の役割だとすれば、そのような言論を作っていくことにより、その社会に対する正確な情報を得て、その社会を醸成することに参加するのが市民の役割ではないだろうか。その連携のもとで<ハンギョレ21>は真実だけを語るために孤軍奮闘することを今一度確認する。そして<シュピーゲル>のように美しいニックネームをささやく人々を待つ。
<ハンギョレ21>編集長パク・ヨンヒョンpiao@hani.co.kr
http://h21.hani.co.kr/arti/society/society_general/26160.html