チャンゴン氏は中国最高の名門、北京大学の修士課程卒業生だ。市内で事務職の仕事をしていたある日、ふとしたことで自分の人生に懐疑を抱いた。国営企業で安定ばかりを追求していた父の世代と何が違うのか。未来に対する期待は高いが、もしも下に落ちてしまったらどうなるのか。
気持ちが焦った。結局、職場を辞めた。そして「盒馬」(フーマ)というアリババ系列の流通企業を訪問し、配達員になった。配置された配達センター内では、最低収入が保証される新規売場ではなく、仕事をした分だけ受け取る売場を選んだ。熟慮の末だった。「一番下まで落ちたので、今は焦る気持ちもない」
盒馬の配達員は月に休日が4~5日しかない。週1日だ。配達1件につき受け取るお金は体積・重量・距離を問わず無条件に7元(約110円)だ。すべての配達員が軽くて近くに届ける注文を好むが、順番通りなので運に任せるほかはない。チャンゴン氏の月収入は5000~6000元(約8~10万円)程度だ。同僚の中には9000元(約15万円)を稼ぐ配達員もいた。
配達用の電動スクーターは会社が提供する。仕事は楽ではなかった。先輩が付きそう見習い期間を終えて、一人で働くようになって4日目、配達3件がすべて時間に遅れた。最初の荷物は、配達システムがおかしな経路を教えたために遅れた。2番目の荷物は、あまりに寒くてスマートフォンのバッテリーがなくなり、時間を守れなかった。
3番目の荷物は、後方からハイビームで走ってきたBMW車といざこざを起こして転んだ。その日は絶望した。しかし、時間が経つにつれもう慣れた。贅肉も取れて、力も強くなった。重い荷物もてきぱきと運び、エレベーターのないアパートの階段もつかつかと上れるようになった。
“順調に歩んでいる”友人に会い、こんな話を打ち明けると、「なぜそんな仕事をしているのか。一度体験してみようということか、あるいはそこの人々を助けようとしているのか」と言われた。チャンゴン氏は笑った。「そこの人たちがどれほど楽しんでいるか知ってるかい?明け方から熱心に配達して、夕方に退勤して同僚とビールを飲み、風呂に入って…。月に9千元(約15万円)くらい稼いで、数年後に故郷へ帰れば家を建て、結婚して、小さな店だって開けるのに、誰が誰を助けるんだい」
同僚配達員の“知恵”は、むしろ中産層をあざ笑っていた。配達員は、事故を起こすならいっそ高級車に突っ込むべきで、一般車両に当たってはならないと話した。高級車を走らせる金持ちは寛大だが、平凡なサラリーマンは十数年も働いて買った車をとても大切にしているのでケチケチしているということだ。
ある客は、電話にも出ず、ドアをたたいても答えないので帰ってきたところ、子どものピアノレッスン中だったのだと文句を言った。ある人は寒い日にご苦労さまと言って暖かい飲み物を出してくれた。ある客は、耳の遠い母親が電話に出ないので心配で配達注文をし、チャンゴン氏が親切に応対すると、後になって配達センターにわざわざ電話をかけて称賛してくれた。
両親には結局正直には言えなかった。微信(ウィーチャット)の友だちの運動量順位で、息子が一番上に上がっているのを見ていぶかしがる母に「新しい職場が家から近く、毎日歩いて通勤しているから」と言い逃れた。友人には「何年かすれば君は社長になって、僕は君たちの家に配達に行くかも」と話した。
チャンゴン氏は、3カ月ほど勤めて配達の仕事を辞めた。そして24日、自分の経験を土台にした「北京大卒業生が配達員になることにした」というタイトルの文章をインターネットに載せ、大きな関心を集めた。各種メディアのインタビューも続いた。チャンゴン氏は「春節の連休が終われば、新しい仕事を探してみる」と話した。