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[コラム]大統領の率直な声を聞きたい

登録:2018-12-12 08:39 修正:2018-12-12 10:38
文在寅大統領//ハンギョレ新聞社

 昨年8月17日の文在寅(ムン・ジェイン)大統領就任100日目の記者会見は、いろいろな面で関心を引いた。 前任の朴槿恵(パク・クネ)大統領が就任10カ月目に(大統領当選日からすれば1年も過ぎて)初めて記者会見を行なったのに対し、文大統領は3カ月余りで最初の記者会見を持ったのがまず比較対象となった。 朴大統領の最初の記者会見では、あの有名な「統一は大当たり」という準備された、しかし真正性のない発言が出てきた。業務後は何をするかという質問には「報告書をたくさん読み、長官や首席と随時通話する」と答えた。 あらかじめ調整された質問と返答だった。チェ・スンシル国政壟断事件が明るみに出た後、大統領に電話をかけることのできる長官や首席はただの一人もいなかったという事実が明らかになった。

 それに比べれば文大統領の記者会見は、事前の脚本なしで自由に質疑応答がなされるという評が聞かれた。今年1月、文大統領の新年記者会見が終わった後、ワシントンポストのエナ・パイフィールド東京支局長はツイッターに「75分間の記者会見には驚いた。 前政権やホワイトハウスと違い、皆に質問の機会が開かれていて、事前に質問を調整しない」という文を載せた。就任後1年以上文大統領の高い支持率が持続できたのには、彼の品性と疎通の意志に対する国民の評価が少なからず作用しただろう。

 記者会見はどの大統領にとっても政治的負担だ。 バラク・オバマ大統領のホワイトハウス首席顧問を務めたデイヴィッド・アクセルロッドは記者会見について「正直言って大統領のメッセージを国民に伝達する良い機会とみるよりも、義務感で受け入れた。 記者たちの質問はしばしば全く意図しない方向に会見を引っ張っていった」と話した。 誰よりもマスコミに開かれているという評を受けた“オバマ・ホワイトハウス”にしてそれほどなのだから、トランプ大統領が新聞・放送に露骨な敵対感を表わしたり、朴槿恵大統領が1年に一度も記者らと会わなかったのを責めてばかりはいられない。 ただし、国民と疎通しなければならないという“義務感”が、大統領を民心と乖離しないようにする潤滑油の役割をするのは確かだ。

 しばらく前に文在寅大統領の国外歴訪中、大統領専用機内で記者懇談会を開いたのが論議になった。 歴訪中だから外交事案の質問だけ受けるとしたのだが、保守メディアは「不都合で不快な質問を封じ込める一方通行」「疎通でなく不通」と非難した。 国民との疎通が必ずしも記者会見である必要はない。 しかも日増しにマスコミの地位と影響力は落ちている。 昨年の米国ギャラップの世論調査を見れば、言論の公正さを信じると答えた人は米国民の32%だけだった。 歴代最低数値だ。 おそらく韓国ではそれ以上であろう。 状況がこうなのだから、韓国でも米国でも大統領が必ずしも新聞・放送との記者会見に戦々恐々とする理由は別にない。 少数の記者たちだけが参加する大統領の機内会見で「なぜ質問範囲を制限するのか」と問い質すのは、多くの国民から見ればそれほど核心的なことではない。

 それでも国民が知りたいと思っている点に関して、大統領の声を直接聞くのは重要なことだ。現在のような記者会見は、1960年代米国でテレビ時代の到来、そしてジョン・F・ケネディのような若くて魅力的な大統領の出現とともに始まった。 1930年代の大恐慌時代にフランクリン・ルーズベルトは俗に「炉端の打ち解け話」と呼ばれるラジオ演説で国民に親しく語りかけた。 1980年代ロナルド・レーガンはこのラジオ演説を復活させ、国民の心をとらえた。記者会見にしろラジオ演説にしろ、または金大中(キム・デジュン)大統領以降定形化された「国民との対話」にしろ、重要なのは国民が核心懸案を直接尋ねて大統領の返答を聞くことだ。 大統領府広報首席や広報官を通して、または視覚的なデジタル資料で伝える大統領の「お言葉」は、干からびた花と同じでいくら整えて美しく飾っても感動を呼び起こしにくい。

パク・チャンス論説委員室長//ハンギョレ新聞社

 文大統領は今年5月「就任1年の記者会見」をしなかった。 4月に劇的に板門店(パンムンジョム)南北首脳会談を行ない、6月には朝米首脳会談を控えて朝鮮半島情勢が薄氷を踏むような時期だったので、記者会見がないのを誰も意に介さなかった。 だが、今は違う。 支持率は50%の線を行き来して、今後経済状況はどうなるのか多くの人が心配している。 ろうそくの広場に共に立っていた勢力は分化し、ろうそくの精神に逆らう反動の動きは明確になりつつある。 このような時期に、働き口が増えなくて失望している若者に、ろうそく集会で提起された社会変化の要求を今どのように実現しつつあるのか尋ねる会社員に、大統領府がスタート初期の緊張と初心を大事に保っているのかと鋭利なまなざしを送る人々に、大統領はどんな話をするだろうか。 今、大統領の声を直接聞きたいと思うのはそのような理由からだ。

パク・チャンス論説委員室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/873816.html 韓国語原文入力:2018-12-10 17:44
訳A.K

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