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同性愛・難民ヘイト…「偽ニュース工場」の名はエステル

登録:2018-10-01 09:35 修正:2018-10-01 12:00
同性愛・難民ヘイト「偽ニュース工場」の名前はエステル//ハンギョレ新聞社

 今年上半期、済州島(チェジュド)を通じて入国したイエメン難民をめぐり韓国社会は巨大な論議に包まれた。世論は難民の受け入れ賛成と反対に分かれて対立した。この過程で「偽ニュース」が大量にばらまかれた。「スウェーデンで発生した性暴力の92%がイスラム難民によるものであり、被害者の半分が児童だ」「アフガン移民者の性犯罪率は内国人より79倍高い」「シリア難民が動物園でポニーを強姦した」など、確認されていない「偽ニュース」がさまざまな形態に変えられソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に広がった。難民に対する広範囲な恐怖と嫌悪を呼び起こしたきっかけだった。

 でたらめな話だが、これら偽ニュースには共通点があった。「海外マスコミに報道された事実」として根拠を提示したという点だ。しかし、「アフガン移民者の性犯罪率79倍」や「ポニーを強姦」などの出所はマスコミではない米国版「イルベ」(日刊ベスト保存所)ともいえるヘイトサイトだった。「スウェーデンで性暴力92%がイスラム難民」記事は、スウェーデン法務部傘下の犯罪予防委員会が出した公式資料を通じて根拠のない主張だと確認されている。

 このような偽ニュースを「衝撃的な真実」とし、国内に流布・拡散した者は誰だろうか。ハンギョレの確認の結果、この偽ニュースの発源地は「エステル祈祷運動」(以下エステル)という宗教団体のホームページの掲示板(告知事項)だった。エステルはイ・ヨンヒ代表(嘉泉大学グローバル経済学科教授)が2007年に作ったキリスト教右派運動団体だ。「北朝鮮救援統一韓国」を旗印に、超教派キリスト教運動を標榜する。

エステル祈祷運動のイ・ヨンヒ代表がイスラムヘイトの主張の根拠に上げた中南米のコミュニティサイトの偽ニュース。イスラム教団指導者であるイマームが「児童性的暴行はわが文化の一部」と主張したという内容だ=エステル祈祷運動ホームページよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 ハンギョレが確保したエステル会員名簿には7000人ほどが会員に登録されていた。エステルの関係者は「実際の会員は2000~3000人程度で、活動する人たちは数百人規模」と話した。「インターネットの世界が神の愛と福音を証明する通路になること」を志向し、着実に「インターネット使役者」と「メディア宣教師」を育てている。

 ハンギョレと会った複数のエステル内部者たちは「インターネット使役者とメディア宣教師の中心的な役割は、コメントをつけて偽ニュースを発信すること」だとし、「エステルは創立以来持続的に若者を集め、神の意志を伝える『コメント部隊』を養成し、イ・ヨンヒ代表をトップとする企画室で偽ニュースを作った」と話した。エステルは「明るいインターネット世界づくり運動本部」「韓国インターネット宣教ネットワーク」などインターネット関連団体を設立し、「フルタイムインターネット戦士」と命名した若者数十人に偽ニュースの配布などインターネット世論造成の作業をさせた。インターネット戦士として活動したあるエステルの関係者は「『メディア宣教』という名目で性的マイノリティの嫌悪、北朝鮮関連の安保危機強調、文在寅(ムン・ジェイン)・朴元淳(パク・ウォンスン)など特定の政治家関連の否定的な掲示物をインターネットに掲載した。特定記事にコメントを書き、『共感』『推薦』数を上げた」とし、「偽ニュースはイ・ヨンヒ代表がワントップとなって文章を作成し、“トップダウン方式”で必要な部分を抜粋して拡散させた」と話した。

 これを科学的に確認するため、ネットワーク分析を試みた。プロテスタント発信の偽ニュースがYouTubeで拡散される時、主に流通されるチャンネルやそれとともに登場する人物を探し、3段ネットワーク(偽ニュース・チャンネル・人物)を分析した結果、エステルの存在感が鮮明になった。キリスト教発信のヘイトニュースを最も盛んに伝える25人のうち、21人がエステルと直接・間接的に関連がある人物で、最近のキリスト教発信の偽ニュース22本が全てエステルとつながっていた。

 まず、3段ネットワーク分析の1段階でプロテスタント発信の偽ニュース22件を選定した。長い間キリスト教の偽ニュースを追跡してきたフェイスブックページ「キリスト教デマとファクト」と、キリスト教専門メディア「ニュース&ジョイ」などが明白な嘘だと判明した偽ニュースだ。「差別禁止法は教会弾圧法だ」「同性愛はエイズにかかる」「ムスリムが増えると強姦率が増す」「改憲すると共産主義国家になる」「宗教者への課税はプロテスタントの抹殺政策だ」など、22件だ。2段階ではSNSデータ収集プログラムであるノードエクセル(NodeXL)を通じて、偽ニュースと関連する特定の単語(「獣姦合法化」「イスラム強姦」など)で主な映像情報を収集した。偽ニュースを一回以上扱ったチャンネルのうち、購読者数1000人以上であったり総アクセス数10万以上のチャンネルを絞ると、20個が確認された。「マラナタTV」「KHTV」「GMW連合」などだった。

 最後に、主要チャンネル2つ以上に登場する人物25人を絞った。原作者や運営者が確認できない偽ニュースやチャンネルの特性を考慮し、間接的に関連人物を探すためだ。牧師や長老などキリスト教関連の肩書きがあることが確認された人物は、25人のうち14人だった。エステル金曜徹夜祈祷会、エステル祈祷センター、ジーザス・アーミーカンファレンス、ネヘミヤ国家断食祈祷聖会、ミズパ大覚醒救国祈祷会など、エステル祈祷運動が主管したり深く関与したさまざまな行事に何度も主要講演者として登場する人物だ。代表的な例として、イ・ヨンヒ代表は主要チャンネル6つに共通して登場する。イ代表をはじめ、ヨム○○・イ○○(9チャンネル)、キル○○・パク○○・キム○○・パク○○(6チャンネル)、キム○○・イ○○・チョン○○(5チャンネル)、イ○○・イ○(4チャンネル)、キム○○・チョ○○・デ○○○○(3チャンネル)、チ○○・ソ○○・キム○○・イ○○・ペク○○・ハン○○(2チャンネル)などが主要チャンネルに登場する。ネットワーク分析の結果、エステルと主要人物らが作った偽ニュースは、少なくとも20以上のYouTubeチャンネルで137万人以上が視聴した(9月1~15日)。調査対象に含まれていないところを合わせると、視聴者はこれよりはるかに多いものと推定される。このネットワークはSNSに蔓延した「ヘイト発言」伝播の地形図でもある。

数年内に韓国のイスラム人口が100万人を超えるとしてイ・ヨンヒ代表が載せたコメントと写真。「ソウル大学で実際に起きたこと」などさまざまな形で変えられ広く流布された=エステル祈祷運動ホームページよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 エステルが作った偽ニュースは、同性愛カップルの司式者を拒否した牧師の懲役刑▽MERS・エイズ結合のスーパーウィルス蔓延▽同性愛が合法化されると獣姦も合法化▽同性愛者のケーキの製作を拒否した米国人に1億6000万ウォンの罰金爆弾▽同性愛教育に抗議した父が監獄行きなどだ。これらの主張はイ・ヨンヒ代表の講演資料やエステルの告知事項に掲載された内容だったが、各々ばらばらにカカオトークなどに広がったり、YouTubeの偽ニュース映像の宿主となった。エステル関連チャンネルと人物らが主導的に生産して流通させた偽ニュースが、これまで韓国社会のヘイト論議の土台となっていたわけだ。流通経路には牧師・長老・伝道師らが多く登場する。その流布網の頂点、「偽ニュース工場」がまさにエステルだった。

 難民に対する反対世論は、極右主義者や政治的保守派に限らない。難民の入国をめぐり賛否に二分されていた世論が反対の方向に傾いたのは、偽ニュースが作った恐怖とヘイトのせいが大きかったという評価が出ている。意図的な虚偽情報に社会全体が影響を受けたということだ。エステルなどの保守派キリスト教勢力の活動が、インターネット世論歪曲の水準を超えたという懸念が出ている理由はここにある。「キリスト教デマとファクト」運営者のパク・ジョンチャン氏は「エステルはキリスト教発信の偽ニュースの核心グループで、『スピリチュアル戦争』を口実にした政治争いを繰り広げる。極右政治勢力と積極的に結託し、社会的な課題の変化の流れに乗って保守政治勢力に有利な世論環境作りに積極的に服務する」と指摘した。

 エステル代表のイ・ヨンヒ教授は「私たちは偽ニュースを配布していない。純粋な宣教団体だ。偽ニュースを発送するというのはあまりに乱暴な話だ。根拠がなく当を得ていない」と主張した。また、「宣教団体としてインターネット使役はみんな行っていること」だとし、「(我々が伝える)ニュースの500件のうち一つや二つ間違った部分を見て、すべて偽ニュースと主張するな。フェイスブックのようなところで(ニュースを)伝える時、市民が事実関係を確認する責任があるのか。事実関係が異なるなら訂正すれば済むこと」だと話した。

キム・ワン、パク・ジュニョン記者、ピョン・ジミン『ハンギョレ21』記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/863478.html韓国語原文入力:2018-09-30 18:21
訳M.C

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