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[インタビュー]1杯160円の韓国風中華料理「チャジャン麺」を守る

登録:2015-03-04 16:35 修正:2015-03-05 06:34
料理するキム・ヨンホ氏。イ・キルウ先任記者//ハンギョレ新聞社

 厨房に通じる小さな窓口に向かって客が大声を張り上げる。「チャジャン麺一杯、チャンポン麺一杯、酢豚一つです」。厨房では中年夫婦があたかも精巧な機械のように忙しく働いている。天井の低い厨房には、飲食材料と洗っておいた器がきちんと整頓されている。妻は酢豚を揚げる。慣れた手つきで油の中の赤身肉が黄色く変身する。夫は小麦粉の生地を製麺機で押し出した麺を沸騰した湯でゆであげる。冷水で冷やした麺を器に入れ、黒味噌をたっぷりかけて窓口に置かれる。注文した客は代金をあらかじめ窓口内の管理人に渡し、料理を受け取っていく。 食堂には“ホールサービング”の従業員は一人もいない。窓口には「料理が出て来たら先払い」、「この店はセルフサービスです」という案内文が“親切に”掲示されている。 こんな不便な食堂なのに、客は行列を作る。 チャジャン麺が1500ウォン(1円=9ウォン)、全国で最も安いためだ。 安いからと言って、量が少なかったり内容が不十分なわけではない。 新鮮なタマネギとジャガイモの間に豚肉も入っている。 チャンポン麺は2500ウォンだ。 赤い汁に貽貝(イガイ)がいっぱい入っている。 しっかりした豚肉の食感が絶妙な酢豚は5000ウォンなので、二人でお腹いっぱい食べても9000ウォンで足りる。

 2002年、配達中にバイク事故で負傷
 半額に下げて“優しいチャジャン麺”で薄利多売
 口コミに乗り一日平均300~500杯
 夫は製麺技術、夫人はソース味担当
 臨終直前に“最後の一杯”注文した客も
 「欲を捨てたら、からだは疲れても気が楽に」

 “国民食”の筆頭に挙げられるチャジャン麺の平均価格は4000~5000ウォンだ。1500ウォンは25年前の1990年時の価格そのままだ。

 仁川広域市延寿(ヨンス)区 沸流(ピリュ)大路にある水仁線の松島(ソンド)駅近くの中華食堂「福生園(ポクセンウォン)」は昼食、夕食の時間帯が決まっていない。「韓国で最も優しい価格のチャジャン麺」を味わうために、お客さんは時を選ばず訪ねてくるためだ。一日平均300杯のチャジャン麺が売れる。最初にうわさになった頃は500杯も出た。キム・ヨンホ氏(56・写真)と同じ齢の夫人イ・ミスクさんは、朝の9時から夜の9時まで押し寄せるお客さんに従業員1人も使わずに直接対応する。

 コック長であり店の主人でもあるキム氏は、高校を卒業してタクシーの運転をしていた。不規則な食事で胃腸病になり、21年前に車を売って安く売りに出ていた粗末な中華食堂の福生園を買い取った。そしてコック長に料理法を習い、2年後からは自分で調理を始めた。今の値段で売り始めたのは13年前。当時、バイクで出前をしたキム氏は交通事故で骨盤を負傷した。 配達できない代わりに3000ウォンだった値段を果敢に半分に下げた。薄利多売戦略だった。だが、値段が安いだけでお客さんが集まるわけではなかった。味が伴わなければならなかった。味覚に優れた夫人のイさんは「チャジャンのソース」をおいしくすることに努めた。チャジャンは“中国味噌”に材料を入れてよく炒めなければならない。中国味噌は茹でた豆を小麦粉と塩で発効させて作った中国式味噌だ。材料も重要だが、適当な火加減で味付けして初めておいしいチャジャンになる。

 キム氏は小麦粉と塩、ソーダと水を配合して独特のやわらかい麺を維持できる麺生地を作る技術を体得した。「韓国人の8人に1人は毎日チャジャン麺を食べます。全国2万4000軒の中華食堂で一日平均600万杯のチャジャン麺が消費されています。それだけ競争が激しいわけです」。うわさが立って、お客さんが集まり始めたのは4~5年後だった。 昼食時にはひっそりとした地域なのに、お客さんが行列をつくって待つようになった。 「ある日、常連のおばさんがチャジャン麺を持ち帰りたいと言いました。 忙しいので持ち帰りはやっていません。 すると、そのおばさんは臨終を控えた父親が死ぬ前にうちのチャジャン麺を最後に食べたいと言われたそうです」。数日後、そのおばさんが再び訪ねてきて「父親がとてもおいしそうに食べて亡くなった」と感謝の気持ちを伝えに来た。

 価格が優しいので常連客も多い。家族や職場単位の団体さん、そして財布の軽いデート族と老人たちも常連だ。

 “韓国産代表中華料理”であるチャジャン麺は、最初から安い値段で人気を集めた。1945年、解放直後に韓国政府は韓国在住の中国人の貿易業を禁止し、収入源を失った中国人は簡単にできる食堂を始めた。 彼らが安くて、はやく食べられる料理として開発したのがチャジャン麺だった。 だからキム氏のチャジャン麺はその伝統を堅く守っているわけだ。

 キム氏は収益金の一部を子供財団に寄付している。「なぜ安く売るのかって? 欲を捨てたら、からだはちょっときついが心はとても楽になります。 ハハハ」

仁川/文・写真 イ・キルウ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/680579.html 韓国語原文入力:2015/03/03 19:06
訳J.S(2275字)

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