[VS]パン屋さんに変身したキム・ヨンチョル元三星法務チーム長
“大法院のエバーランド無罪判決は主流社会の堅固さを見せた宣告”
◆チョン・ヒョクチュン,リュ・ウジョン
6月2日夜7時。風がとても強かった。京畿,富川,上洞のとあるパン屋。パンの香りがぷうーんと漂うそこでは元三星法務チーム長キム・ヨンチョル弁護士がパンを売っていた。ジーンズにカジュアル シャツといういでたちだった。パンの名前をすらすら覚えてお客さんからカードを受け取り直接読ませた。
キム弁護士の良心告白に触発された三星の不法経営権継承問題は去る5月29日一段落した。大法院が判決を下した。疑惑がふくらみ12年ぶりの最終判決だった。免罪符をくれた。
キム弁護士のパン屋のそばの喫茶店で2時間以上対話をした。彼は大法院判決に,三星に,そして特検に対して怒った。彼の怒りは盧武鉉前大統領を逝去へ追いやった検察とイ・ミョンバク政府に対する批判,そして市民社会に向けた苦言につながった。
←富川のとあるパン屋で元三星法務チーム長キム・ヨンチョル弁護士がお客さんにパンについて説明している。
-大法院が三星エバーランド転換社債(CB)安値発行事件に無罪を宣告しました。
=今回の大法院判決は世界的に類例がない判決でした。エバーランドCB発行の本質が背任だという既存判例をひっくり返した判決でしょう。事実上の判例変更です。イ・ゴンヒ前会長一家に永続不変の継承を合法と認定する歴史的に類例がない判決でしょう。三星SDS事件は非上場差益を譲り渡す ‘お金の問題’ だけど、エバーランドCBは ‘権力体系の問題’ です。私たちの社会では持てる奴,よく生まれた奴には法さえも屈服するということ、主流社会の堅固性と安全性を見せつけた宣告だったと考えます。
-無罪が確定した日、あいにく盧武鉉前大統領の告別式が開かれました。
=一方では喪中を行い、他方では祭りを行うことになりましたね。政治権力は4~5年で終わるけど、資本の力は無限に統制できないということを示した判決でした。
-大法院はCBを安値で渡しても株主配分の形だけ整えれば無罪と判決しました。CB引受をあきらめた株主の損害であるのみで会社の損害ではないという法理を展開したようです。
=株主配分ということが全く実体的真実ではありませんね。すでにホ・テハク,パク・ノビン前・現職エバーランド社長は事実上(株主配分ではない)第三者配分を認めました。理事会を開くこともなかったんですよ。理事らの認め印も理事らが作ったものではありませんでした。エバーランド総務パートで認め印を作ったんです余。理事らの名前ごとに作ったものでもなく、‘理事陣印’という名前で掘ったものです。何人かの理事の海外出張で定足数にも足りなかったんですよ。1996年秋の一日、三星本館付近でCB実券と株主納入,贈与が同時になされたのです。構調本財務チームが企画してですね。不法かどうかは書類さえ作っておけば無罪ということです。ところで何人かの最高裁判事はあきれた判決を出したのです。刑事裁判をする資格や能力がある人々なのかわからないほどです。
- 6対5の薄氷判決でした。
=おそらく三星は最高裁判事らに地縁・血縁・学縁を活用したロビーをしたでしょう。最高裁判事らは高等学校同期から司法研修院同期,先後輩に至るまで無数の電話を受けたことでしょう。私が三星でやった経験から見ても多分そうしたでしょう。それで今回の事件を有罪と見た5人の最高裁判事は本当に勇気のある方々です。普通、最高裁判事が退職すれば相当数は三星グループ会社の社外重役になる恩恵を受けます。その方たちはそのような誘惑を振り払ったのです。また三星に反対した最高裁判事には反企業的イメージが幾重にもかぶせられることになります。それでローファームでも優遇されることは難しくなります。彼らはそのような不便を甘受して正しい判決を選択した方々だと思います。
-エバーランド事件は最高裁までくるのに満12年かかった判決でした。今回の判決が私たちの社会にどんな意味を残したと見ますか。
=私たちの未来に多くの影響を及ぼすでしょう。大法院法理の虚構性をよく知っている人でも、よく分からない人でも、こういうことを感じそうです。‘既得権の力というものがこうしたわけだね’ ‘既得権の前にはすべての人が無力にならざるをえない’ ‘わけもなく社会正義とかそんなことを考えずに、私一人が十分に食べて楽に暮らそう’。育ちゆく青少年にこういう価値観を植え付けることになるかと思えて心配です。
■三星人事を見ると秘密資金関連者らが躍進した
-今後、三星は変わりそうですか。三星自身は去る1年間に大きく変わったと言っていますが。
=前回人事を見ると全く変わっていないという気がしました。系列会社秘密資金と関連した人が公然とみな躍進しました。社長団はもちろんのこと、実務者らもです。三星で昇進しようと思えば共犯にならなければならないということを悟らせた人事でしたよ。ところがそんなことを拒否しようとすればあまりに荷が重いですね。本当に汚くて大変ですね。 (笑い)
-三星はどのように変化しなければならないと思われますか。
=外国を見れば一族で企業を継承することが多いです。創業精神と文化,伝統を継続することができ、これを通じて経営効果を高めることができるからです。しかし、そうするならば基本的に道徳性を備えていなければなりません。三星が一時、スウェーデンのバーレンベリ一族をベンチマーキングしようとしたんです。でも三星とは大いに違います。バーレンベリ一族は株式をほとんど持っていません。公益財団を通じて企業を運営しています。企業の社会的責任は脱税をせず、犯罪を犯さず絶えず利益を出し雇用を創り出し税金を出すというものです。三星もこのような基本を守れば良いと見ます。
-三星特検に対して不満が多かったんでしょう。
=特検が法の名前からして誤って書きましたね。‘三星特検’ ではありませんでした。 ‘イ・ゴンヒ一家不正疑惑に関する特検’ と名前をつけなければなりませんでした。三星というブランドは測れないほどの価値を持っています。20万の三星職員の自尊心に触れるのは国家的にも損害です。
■勇気ある検事は間違いを認定する検事
←キム・ヨンチョル弁護士-三星特検検事もやはり大法院判決に不満を現わしたのです。
= (私が)イ・ゴンヒ前会長の秘密資金造成問題を提起したけど、特検は疑惑はないと言ったのです。特検は海外秘密資金捜査もできないと言ったし、政・官界ロビー捜査もあいまいにしましたね。三星から金を受け取った後に返した人が証拠まで提示したのに、金を受け取った人はいないという(三星側)の話だけを信じたのです。基本的に捜査するのが嫌いなのでしょう。法律では横領・背任のような経済犯罪が暴力犯罪より刑量がもっと重いのです。それだけ経済犯罪がさらに重大な犯罪ということでしょう。立法者の意志を法律家たちが慣行で包装し恣意的に解釈してはいけませんよ。
-特検捜査結果に対してはどう思いますか。
=特検でこういう話をしたのです。 「よくやっている検事たちの出世に支障を与えたらどうするんだ? うまく発表するようにしてくれ」とね。断ったら ‘陳述拒否’ と書きましたよ。弁明のための最後の調書は陳述拒否でした。まったくもう。
この頃は三星の管理対象になっていた検事たちが要職にどんどん上がりましたよ。イ・ミョンバク政府の検察が盧武鉉前大統領を捜査するようにしたら、三星秘密資金疑惑は終わったゲームです。我が国は憲法上、現職大統領は捜査できません。だが前任大統領は捜査程度ではなく拘束したり自殺に追い込むようにすることさえしますね。だけど、普通でないことを全てやったとしても絶対に触れ得ない聖域があります。まさに無所不爲(天下無敵)の資本権力でしょう。
-盧前大統領逝去で検察捜査に対する話が多いです。
=検察は犯罪を捜し出さなければならない組織でしょう。ところがある一方に対しては覆い隠すでしょう。検察が起訴独占や起訴便宜主義を乱用しますが、明確にその制度は検事たちのためのものではないのです。明白に国民のためにあるものでしょう。人を殺した人でも色々な状況により容赦できるという途方もない権限を与えたものでしょう。一定の責任感があるそういう組織として見たから与えたのです。
最高検察庁中央捜査部が捜査をして前職大統領を自殺に追い立てること悲劇的じゃないですか。中央捜査部は廃止しなければなりません。今、検察に対して正確に言おうとすれば ‘×××’ です。でも検察にどうすればそのような形で話せますか。あえて言うならば政策判断能力に優れ時代が要求する立派な方々ということでしょう。 (笑い) 今、中央捜査部で仕事をしている人々は前の政権でもよくやっておた人々です。どんな政権においても立派な検事として残ります。なぜならば、私が権力者であっても中央捜査部に意志が強く我を張る人をたてたりしますか?言わなくてもやってくれる人、適宜やってくれる人をたてます。本当に勇気のある検事は永らく事件を追跡しても(結果が)違いうる事案に対しては ‘間違ったようだ’ と誤りを認める人でしょう。死ぬほど捜査しても明らかにできなければ、いつでも戻れる検事がまさに有能な検事です。
-今後、検察はどのようにしなければならないでしょうか。
=一線検事も捜査中の被疑者が自ら命を絶ったとすれば道義的に検事服を脱がなければなりません。まして前職大統領を逝去に至らしめたのは並大抵のことではありません。生まれた時から検事などという人がいますか? 何らか富貴と栄華を享受しようとずっと踏みとどまるのか。辞表を出さなければならない方が出さないですよ。シン・ヨンチョル最高裁判事もそうです。あの方は恥ずかしくなる前に止めるべきではありませんか。法服は一時借りたものでしょうが。自分のものではありませんよね。恥ずかしいと思う値打ちさえお持ちか疑わしいほどです。司法府と検察は憲法で身分を保証されているでしょう。それは不当な圧力に対抗できるようにするためですね。自分たちが十分食べて楽に暮らせと言って、そのようにしてくれるのではありません。
■公憤や義憤がない市民社会も問題
-現政権が過度に権力機関を道具化しているという批判もあります。
=公務員は国民が飯のタネを提供する人なのに、与えてくれる人の上に君臨しても良いでしょうか。民主政府は政府と国民が同一体にならなければならないのではないでしょうか。政府の利益が国民の利益にならなければいけないと思います。もちろん選挙は重要だけど、それよりも市民的支持が維持されてこそ、その政府の正統性が成り立つのではないでしょうか。それで権力者は常に世論と支持を維持することに気を遣うのでしょう。ところが起業する人が大統領になって国の流れが全く異常です。
私が自分でいて見たので分かるのですが、企業は完ぺきな独裁です。営業現場は戦場でしょう。効率が最高です。建設現場で何人死んでも当然なのです。建設の目的はビルディングだけを立ち上げれば良いことですね。でも政治では人の価値が経済的利益と比較することはできません。龍山がだから問題ではありませんか。大きい犯罪なのに責任を負う人が1人もいないのです。
-こういう現実で市民社会はどのようにしなければならないでしょうか。
=私たちの社会はまだ公憤や義憤が見られないと思います。合理的に判断して問い詰めて批判することができないようです。雰囲気に飲まれたり自分たちの利益のみに埋没する場合をたびたび見かけます。前回国会議員299人の中で、それでも汚染されなかった議員はノ・フェチャンとシム・サンジョンではなかったかと。ところが二人とも落ちましたよ。国民が票で審判してしまったのです。ニュータウンのごとき経済論理でね。イ・ミョンバク大統領が当選したのも同じことでしょう。
三星に関しても私の個人的な感じではやるべき仕事はすべてやったと考えます。ところが人々は私により多くを要求します。‘なぜじっとしているのか’ と言って。 残りの人々と国家,社会はどこにあるんですか? 今回のことを体験して、キム・サンジョ経済改革連帯所長のような方々が本当にいいなという気がしました。世の中のために自分が学んだことをきちんと使っていると考えました。
-今後の計画は何ですか.
=もう少ししたら除去されたり拘束されるかも知れません。(笑い) 政権を批判すればミネルバも捕まえて行ったけど、権力よりさらに強力な資本に対して不敬罪を犯したのですからね。本業の弁護士の仕事もやりにくいですね。昨年ソウル,瑞草洞に弁護士事務所を出しましたが、事務所維持費も儲けられませんでしたよ。三星と一戦交えていた時は一日に電話が200通余りがオーダーですね。その時はとても忙しくてまともに話をできなかったでしょ。それで裁判が終わった後にきちんと話そうとしたけれど今度は一通も来なかったんですよ。
■今後は企業のお金をぱくぱくと受け取ったりはしないでしょう
インタビューの間、風がとても強かった。喫茶店のガラス窓から見た人々はあたかも冬の激しい風を避けるように、小走りで家に帰るように見えた。ものさびしい天気だった。最後に彼に「三星事件と関連してそれでも得られたこと一つを挙げるなら何だと思いますか」と尋ねた。
彼の答はこうだった。「とにかく高級官吏と政治家たちは企業であたえるお金を簡単には受け取らないでしょう。いわゆるよくやっている主流たちが自ら自身が組織的管理対象であることを認識して、少しは自制をする雰囲気になったものと見るのはどうでしょう。」キム弁護士はこれに付け加えた。「もちろんこれも期待ですけどね。」
喫茶店のガラス窓の前の木の葉が風に落ちそうに震えていた。
富川=文・チョン・ヒョクチュン記者june@hani.co.kr・写真リュ・ウジョン記者wjryu@hani.co.kr
原文: http://h21.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/25142.html 訳J.S