今月17日、HMC投資証券のイ次長が地域担当役員である本部長と面談した。勤務していた支店の相談室だった。希望退職を強要する本部長の執拗な説得が続いた。慰労金を受け取り会社を去るべきか、屈辱に耐えて残るべきか。本部長の言うとおり、イ次長にとってはこの面談が職場生活の生と死を分ける‘最後の選択’だった。
この会社は21日までに約900人の全職員を対象に希望退職申請を受け付ける。 HMC投資証券はヒュンダイ(現代)自動車系列の証券会社で、規模は小さいながら全般的な業界不況の中でも、今年1分期に35億4300万ウォンの営業利益をおさめた。
『ハンギョレ』が20日に入手したHMC投資証券の希望退職面談録音ファイルを聞くと、証券会社の希望退職がどんな面談過程を通じてなされるのか明らかになる。退職慰労金で誘惑し、会社での陰うつな将来を語りかけて退社をそそのかす。 労働組合の助けは受けられないだろうと念を押し、最後の望みすら踏みにじる。
最近、証券業界が先を争って増やしている外部訪問販売(ODS)組織は、退職圧迫の重要な武器だ。本部長は面談の中で「会社に残っても後でひどい目にあうだけだ。BP(営業目標値)が達成できない社員はODS組織に入れられる。 そこで耐えられるか。タブレットPC一つ持たされて、一日に十件ずつ成果を上げてこいと言われる。どれだけの屈辱かわかるか。いい歳して耐えられるか」と迫る。証券業界は窓口を訪れる顧客が減っているため、先を争うように外回りの営業を増やしている。保険営業マンのように歩き回り、口座を開き、商品を販売するような営業体質の変化の中で、証券マンたちの日常がどれほど陰鬱なものになっているか。
親会社であるヒュンダイ自動車の過去の構造調整にも話は及んだ。ヒュンダイ自動車出身の本部長は、「98年だったか、当時(ヒュンダイ自動車から)出て行かないと答えた人を事務所に座らせて、結局何をしたと思う? パソコンも電話も取り上げ、机と椅子だけ与え、一日中静かに座っているように命じた。一日中、外出もできずに静かに座っていなければならないんだ。いじめられ、見捨てられれば、一ヵ月も耐えられない」と語り、ヒュンダイ自動車グループの構造調整がいかに熾烈だったか思い知らせる。これに対してHMC投資証券の関係者は、「当時と今とでは、ヒュンダイ自動車の経営陣は違う。今、ヒュンダイ自動車でそんな話にもならない追い込みを行うことはできない」と話した。
全社員を相手に希望退職申請を募集
退職対象者をあらかじめ決め、誘惑と懐柔
「大学生の子供のことは心配ない。 2千万ウォン(約200万円)出す」
「労組? 親会社が労組にあれほど強硬なのに…」
本部長は労組に助けを求めてもまったく意味がないと断言する。「大金払って出て行けるようにしているのに、出て行かなければただですむと思うのか。労組? そんなもの話にならない。ヒュンダイ動車グループがどれほど労組に強硬なのか知らないわけじゃないだろう。甘く考えるな。」 個人的な意見であることを前提に、会社には将来がないという話までつけ加える。売りに出されたヒュンダイ証券をHMC投資証券が買収する計画があるという噂を「小説のような話」だと一蹴し、「ヒュンダイ自動車グループに行って誰でもいいから尋ねてみろ。HMCが必要な存在かと尋ねれば、誰だって必要ないと言うだろう。うちの会社に将来があるように見えるか?」と社員に問いかける。
子供の話になると、家長としての悩みを退職に結びつけようとする努力も感じられる。 「今、お子さん何歳だっけ? 大学生…。大学生なら心配しなくてもいい(学資金名目で) 2000万ウォンを出すと言うのに。この金を受け取るのは今しかない」と誘惑する。
この会社の労組関係者は、「他の面談録音も何件も聴いてみたが、事実上の退職対象者に烙印を押した人には強力に、そうでない人々には形式的な面談をしている。希望退職が行われているすべての証券会社の面談過程も同じようなものだ。希望退職と言うなら、会社が提示した慰労金を受け取って辞めたい人が辞めれば良い。対象者をあらかじめ決めておいて、彼らだけを集中的に圧迫する面談の実態を見れば、希望退職とは事実上脅迫と勧奨による強制退職と言わざるをえない」と語った。
パン・ジュノ記者 whorun@hani.co.kr