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[旅客船沈没 大惨事]『客室から出てくる妻に早く戻れと追い返した…私は罪人だ』

登録:2014-04-23 22:30 修正:2014-04-24 07:32
22日午後、全南(チョンナム)珍島(チンド)体育館。そこにはセウォル号沈没事件で行方不明になった妻を待つ夫、チョン・某氏のただ呆然と立っている姿があった。チョン氏夫婦は結婚30周年を祝い済州島へと向かう途中、この惨劇に巻き込まれてしまった。図らずも一人で救出されたチョン氏は自分が「罪人」だと言った。 珍島/キム・ソングァン記者 flysg2@hani.co.kr

結婚30周年記念、夫は妻と共に旅行に出た
罪の意識で毎日が「地獄」
『私には食事をとる資格など無い』

 チョン氏は自分が「罪人」だと言った。セウォル号の沈没当時、彼は救命チョッキを着て3階のラウンジへ出ようとしている妻に向かって「早く戻れ」と手で指図した。既に船は横に50°ほど傾いた状態だった。船内には『現在の位置から絶対に動かないでください。動くともっと危険です』というアナウンスが響き渡っていた。信じるしかなかった。『指示に従っていればみんな助かるって、そう思ってました。まさか、それが最後になるなんて…』 チョン氏夫婦は結婚30周年を祝い、三泊四日の記念旅行を楽しむ為に済州島へ向かう途中だった。

 21日午後4時、チョン氏は珍島の室内体育館に横たわり呆然と天井を眺めていた。彼は妻を置いて自分だけが抜け出したという罪の意識で苦しんでいた。毎日が「地獄」だと言う。もう1週間も過ぎたというのに、チョン氏の記憶はまだ「あの日」で止まったままだ。『3階の食堂の前にあるソファに座って、コーヒーを二口ぐらい飲んだ時でした。いきなり船が左舷に傾いたんです。ソファはそっくり物凄い勢いで壁に突き刺さり、子供達もゴロゴロ転がって壁にぶつかりました』

増える死亡者、見つからない妻
ただ呆然と天井を眺めるばかり
爪は噛みすぎて剥けていた

 コーヒーがあまり好きでない妻は先に客室へと戻った。チョン氏の携帯電話は客室に置いたままだった。妻と連絡が取れない。その時、遠くから妻の姿が見えた。急いでオーケーサインを送った。すぐに元に戻るから、そこを動くなと伝えた。しかし、あっという間に水が上がってきた。救命チョッキが無かったチョン氏は必死の思いで泳いだ。陸に上がれば妻に会えると思った。だが、着いた先に妻の姿はなかった。『それはもう、狂ったように探しまわりましたよ。木浦(モクポ)にも救助者を乗せたバスが送られたと聞いて、もしやと思ったんですが…』

 この日の8時30分頃、体育館がざわめきだした。大型テレビから船の3~4階から多数の遺体が引き上げられたというニュースが流れたからだ。チョン氏は爪を噛んだ。噛みすぎて爪が殆んど剥けていた。爪を撫でながらテレビを見ていたチョン氏は、ガクッと肩を落とした。『息子が真似するからやめなさいって、妻によく言われたんですよ。爪を噛むな、って。気にも留めませんでした。ただの小言だから…って。今は…』

22体の遺体が見つかった。たった数日前まで顔を合わせ、笑い合っていた人達が、番

号が付けられた遺体となって家族のもとに帰ってきた。体育館の3番出入口、その前に立っているホワイトボードに死亡者の詳細が貼り出された。チョン氏はそれをしばらく眺めた。しかし、黙々と踵を返した。『いません。服が違います。妻はピンクのジャケットと、黒いトレッキングパンツを着ています。』チョン氏の背後から他の家族が泣き叫ぶ声が聞こえた。この夜、急に増え続けていた死亡者の数は87人で止まった。

 夜の12時が過ぎた。疲れきった家族達はようやく眠りについた。家族達は体育館の木の床に合成ゴムで出来たマットを敷いて空色の毛布を被った。夜が明けるまで絶えることのなかった家族達の嘆き。もう22日だ。事故が起きてから1週間も過ぎた。午前2時30分頃、一度だけ嘆きらしい声が聞こえた。

 22日の朝、家族たちを起こしたのは「ニュース速報」だった。午前6時50分頃、更に3人の遺体が発見された。チョン氏も他の失踪者の家族達と一緒に呆然とテレビを見つめた。妻ではなかった。チョン氏はまた昨日のようにテレビに背を向けて寝返った。87人で留まっていた死亡者の数は、一縷の希望をも断ち切るかのように100人を越えてしまった。午前9時のことだった。30分後には104人、午後には108人に増えた。

 チョン氏は体育館から出て、入り口の方に立てられた曹渓宗のテントを訪れた。『もう、テレビは見ちゃ駄目ですね。毎日同じ話ばかり流れて、ストレスが溜まるばかりで…僧侶と話をして、念仏を唱えて…そういう事をしながら心を落ち着かせるんです』 しばらく僧侶と話していたチョン氏は再びマットの所へ戻って横になった。追加死亡者の知らせと、捜索作業は続行しているという話が聞こえる。昨日となにも変わらなかった。ただ死亡者の数が増えただけだ。

 「食事はちゃんと取っていますか」という問いに、チョン氏はこう答えた。『人の見ている前で食事なんて取れませんよ。私は罪人なんです。妻を置いて一人だけ生き延びたんです。こんな私に、食事を取る資格なんてありますか?』 時計の針は午後の4時を指していた。わずかな希望と大きな絶望を繰り返す失踪者の家族達。また、24時間が過ぎようとしていた。

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/634125.html 韓国語原文入力:2014/04/23 13:08
訳H.H.j(2281字)

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