小説が人間を救ってくれると信じたジェルジ・ルカーチが<小説の理論>で‘問題的個人’を語った20世紀初頭には小説が資本主義の寵児であった。 21世紀の初め、新自由主義で武装した資本の時代にはお茶の間ドラマが小説の荷物を分担することになった。 堕落した世界と骨の髄まで不和で自ら世界を拒否し、その外側にあるものに固執する人物。 こうした問題的個人がお茶の間ドラマに現れた。 <職場の神>のミス.キム、キム・チョムスン氏!
韓国の高度成長期に多くの女工‘キムさん’がいたように、現在の非正規職800万人時代にミス.キムは非正規職だ。 俳優キム・ヘス氏のからだを借りてミス.キムは言う。 「私はただのホッチキスの針です。 使ってなくなればいつでも新しく持ってきて使えるホッチキスの針!」
ミス.キムに手当ての出ない時間外勤務と残業はない。 決められた退勤時間後に行なわれるチーム会食もやはり彼女の業務ではない。 ‘業務でなければ会社の家族として参加しなさい’というチーム長には「私は教会ではなく会社に通っているのです」と答える。 職場内の親睦は人間である正規職どうしがすることだ。 名前すら一度もまともに呼ばれずに透明人間として扱われる非正規職には該当する事項ではない。 正規職への転換を提案する部長には「会社に束縛された奴隷になるつもりはありません」として断る。 ルカーチの問題的個人は悲劇的運命にならざるをえないが、ミス.キムの武器は現実を鋭く刺す風刺と抵抗の言語だ。
ミス.キムは自身をうんこだと言う。 現実で味噌である正規職と、うんこである非正規職とは、出発からして階級が違うためだ。 同じ業務に雑務までこなしても月給は半分、半分の半分。 それすら保障された将来は長く持って2~3年。 非正規職はいつでも代替可能なホッチキスの針になっている。 誰かのコメディのように‘人間ではありません’だ。 このような社会に向かってミス.キムが腐った微笑を飛ばしている。 ホ・ミギョン 書籍知性チーム長 carmen@hani.co.kr