「お前は中国人か。私は大韓民国のプライドだ。お前ら、母親はいるか。ただじゃ置かないぞ」
3月18日午後11時5分、「カラオケの客が暴れている」という通報を受けて出動した大邱(テグ)のある地区隊所属の警察官たちはとんでもない目に遭った。「家に帰りなさい」と促す警察官に対し、A氏がいきなり「中国人か」と言って罵倒しはじめたのだ。乱暴は「口」で止まらなかった。A氏は警察がつけていたマスクをつかみ取って顔を押しのけ、止めようとした別の警察に向かって何度も唾を吐き、拳を振り回した。結局制圧されたA氏は、5月に大邱地裁で公務執行妨害の疑いで懲役8月に執行猶予2年を宣告された。
ハンギョレが法律データ企業「Lボックス」を通じてここ1年間の判決文を検索した結果、「嫌中感情」関連の事件で有罪が宣告された事例は計4件だった。「ヘイトスピーチ」を処罰する法的根拠がない状況で、「嫌中スピーチ」の発話者が犯した暴行・傷害・公務執行妨害などだけを選んだ結果だ。事件の発生時点はすべて、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領が戒厳令を宣布した昨年12月3日から憲法裁判所が弾劾訴追を認容した今年4月4日の間だった。事件の内容を見ると、尹前大統領が戒厳後に中国の選挙介入と不正選挙の陰謀論を主張したことで火がついた「嫌中感情」が影響を与えた蓋然性が大きい。
昨年12月19日未明、ソウル市龍山区(ヨンサング)のあるマンションで、エレベーターを待っていた住民の顔を殴ったB氏の最初の一言も「お前は中国人か」だった。泥酔したB氏は一面識もないマンションの住民の目の周りに打撲傷を負わせ、龍山警察署に捕まった後も、しばし手錠を外してあげた警察の顔を殴るなど乱暴を働いた。ソウル西部地裁は6月、B氏に「被害者を理由もなく殴って傷害を負わせ、公務執行中の警察官を繰り返し暴行した」として700万ウォン(約75万円)の罰金刑を宣告した。
3月2日には仁川市桂陽区(インチョンシ・ケヤング)のコンビニの店員である20代の女性が被害に遭った。客として来たC氏もまた「中国人か」と切り出した後、「お前は左派か」「アカ」「国会に手榴弾を投げ込む」などの言葉を次々と吐いた。C氏はコンビニを訪れた他の客にも自分の言葉を擁護するよう要求し、1時間ほど騒ぎを起こした。C氏は翌日、別の飲食店でも酒に酔った状態で「いま共産化されているこの国で自分こそが愛国市民だ」と言い、他の客に向かって「改娘(改革の娘の略語、強硬派の民主党支持者のこと)」と言って騒ぐなど、30分にわたって暴れた。仁川地裁は5月、C氏に対して業務妨害の疑いで懲役1年に執行猶予2年を宣告した。
このように積み重なった「嫌中感情」という前兆現象は、実際に中国人を対象にした「憎悪犯罪(ヘイトクライム)」にまでつながった。4月1日、35歳の男性K氏が韓国に旅行に来た20代の中国人女性2人の腰を蹴り飛ばした。バスの中で中国語で話していたという理由で腹を立て、停留所から70メートルも追いかけてきていきなり暴行を働いたのだ。その5日後にも、K氏は台湾人の30代の男性を中国人と誤認して焼酎の瓶で頭を殴った。
この事件において、ソウル西部地裁刑事7単独のマ・ソンヨン判事は8月の判決で「被告人は平素から中国人に対する敵対感情を持ち、実際に夜間に中国人を狙って犯したヘイトクライムとみられるため、厳しい処罰が必要だ」とし、この事件が「ヘイトクライム」の性格を帯びていると摘示した。マ判事はK被告に懲役10月の実刑を言い渡した。
嫌中感情が「憎悪のピラミッド」のかたちで増幅されていると懸念されている。「憎悪のピラミッド」理論は、特定集団に対する嫌悪が「分類→ヘイトスピーチ→差別行為→ヘイトクライム」を経てジェノサイド(集団虐殺)につながりうるという理論だ。現在、韓国の嫌中感情は差別行為がヘイトクライムにつながる危険な局面に入ったということだ。
人権団体「境界人のモクソリ(「役割(モク)」と「声(モクソリ)」をかけている)研究所」のパク・トンチャン所長は「戒厳を経て嫌中感情が韓国社会で主流化され『憎悪のピラミッド』の頂点に向かっている」とし、「法律に根拠がなく処罰されないだけで、ヘイトスピーチに傷つく人々はすでにあまりにも多い状況だ。これ以上惨劇につながらないよう、法的整備が至急必要だ」と訴えた。