北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長は、最近4回連続で軍事分野の視察を行った。金総書記は、北朝鮮初の5000トン級「新世代多目的攻撃型駆逐艦第1号」(「崔賢」号)の進水式(4月25日)と、「崔賢」の射撃実験(4月28日)に出席し、「重要タンク(戦車)工場」の視察(5月4日報道)と、砲弾生産工場の視察(5月7日報道)を行った。これについて、核兵器を手に入れた北朝鮮が、ロシアの支援を受けて通常戦力の現代化に乗り出したことで、朝鮮半島の軍事バランスに重大な変動要因が生まれたという報道が出た。
1990年代以降、国内外の軍事専門家たちは北朝鮮の核やミサイルなど「非対称戦力」を最も大きな脅威とみなしてきた。非対称戦力とは、交戦勢力間の通常戦力の格差があまりにも大きく、一方が相手と同じ戦略や戦術を使うと負けることが明らかな場合、劣勢な側が選ぶ手段だ。北朝鮮は社会主義圏が崩壊し、経済難で金がかかる通常兵器の現代化を見送り、核・ミサイル、長射程砲兵、特殊戦に集中してきた。韓国は高い経済力をもとに、陸海空軍の先端兵器増強を持続し、南北の通常戦力においては韓国が質的優位にあるとみられてきた。
通常兵器は、数値を見る限り、北朝鮮が韓国をはるかに上回っているように見える。国防部が発刊した「2022国防白書」によると、戦車は韓国が2200台余りで北朝鮮4300台余りの約半分だ。海軍も戦闘艦艇(韓国90隻余り・北朝鮮420隻余り)、潜水艦艇(韓国10隻余り・北朝鮮70隻余り)などは、数だけ見ると北朝鮮の方がはるかに多い。
国防部は1988年に国防白書を発刊して以来、南北の戦車、戦闘艦の数を比較する「単純数量比較方式」で南北軍事力を評価している。しかし、質的能力を無視した単純数量比較には明らかに限界がある。
北朝鮮が保有している4300台の戦車の内訳を見ると、1600台のT55/54が目を引く。同戦車は旧ソ連が第二次世界大戦の時に使用したT34の後続モデルで、1950年代に開発された。戦車兵が目で見て手動で標的を照準しなければならない第1世代の戦車だ。夜間射撃と移動間射撃が難しく、雪や雨が降る時や夜には戦闘能力が低下する。韓国は第1世代電車をすべて退役させ、現在使用していない。
北朝鮮の第2世代戦車は、旧ソ連が1960年代に製造したT62と「天馬号」などで、1500台を保有している。この戦車にはアナログ射撃統制装置があり、第1世代戦車より迅速に標的を狙うことができ、赤外線で熱を感知し、夜間でも近い距離では射撃が可能だ。北朝鮮では戦車の主力となっているが、他の国では文化財扱いされるほど古い兵器だ。ウクライナ戦争初期、戦車の損失が急増したロシアは、軍事博物館に展示・保存されていたT62を投入し、大きな被害を受けた。これについて西側メディアは「60年前の技術と戦力を21世紀の最先端戦争に投入した」とロシアをあざ笑った。
第3世代戦車はデジタル射撃統制装置を備え、早い標的照準、移動射撃、夜間射撃が可能で、複合装甲を装着して敵戦車の砲弾攻撃に対する防護力を高めた。第1・2世代戦車は火力と防護力、機動力の面で第3世代戦車とは比べ物にならない。北朝鮮の第3世代戦車は新型戦車(M-2020)だが、大量に配置されているわけではない。韓国はK1、K2など第3世代以上の戦車を1700台以上保有している。
韓国の戦車の70%以上が第3世代以上だが、北朝鮮は60~70%が第1・2世代の戦車だ。南北の戦車戦力は数だけ見れば北朝鮮が2倍以上だが、先端射撃統制や防護力、機動性など質的戦力は韓国が圧倒的な優位にある。戦車工場を訪れた金正恩総書記が戦車の上に上り、ひざまずいて内部を見て「第2次装甲武力革命」を呼びかけたのには、このような背景がある。北朝鮮官営「労働新聞」の4日付報道によると、金総書記は「我が陸軍に最新式タンク(戦車)と装甲車を前世紀の装甲兵器と交代させることは、武力建設と陸軍現代化で最も重要な問題」だと強調した。
北朝鮮は質的に立ち後れた通常兵器の差を埋めることができるだろうか。カギは資金と技術だが、厳しい北朝鮮の経済状況を考えると、不可能というのが大方の見解だ。しかし、北朝鮮のロシア派兵後、朝ロ密着でロシアの支援を受け、北朝鮮が通常兵器の現代化に乗り出す可能性が高くなったとみられている。
峨山政策研究院のチャ・ドゥヒョン副院長は、「KDI北朝鮮経済レビュー」3月号に掲載した「ロシア・ウクライナ戦争と北朝鮮の軍事力発展」で、「朝ロの密着が当分続くとしても、1~2年の短期間内に通常戦力レベルでの南北軍事力のバランスが急激に変わる可能性はほとんどない」とし、「北朝鮮が伯仲劣勢または互角で戦力のバランスを合わせるためには、朝ロ密着が中期的に持続しても5~10年かかるものと推定される」と主張した。
このような判断の根拠として、チャ副院長は、北朝鮮がロシアの経済支援を受けても、国内の民意の安定のために相当な金額を人民経済に投入せざるを得ず、軍拡競争能力の補強は難しいとみた。 ロシアが先端兵器を北朝鮮に直接支援する案も、莫大な費用がかかるため可能性が低いと予想した。戦闘機「ミグ29」の飛行大隊(20機)を提供するのに少なくとも数億ドル、最新戦車「T80」100台に数億ドルが必要だという。チャ副院長は、北朝鮮が米国の核兵器と韓国の通常兵器に対抗して二重の軍拡競争に乗り出した場合、「結局、ゆくゆくは北朝鮮が通常戦力と核戦力のいずれも十分に建設できない環境を強化するだろう」と予想した。