尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の外交安保を率いているキム・テヒョ国家安保室第1次長の「日本の気持ち」発言の波紋と、これについて釈明する過程で大統領室高官が「謝罪をめぐる日本の疲労感」などに触れたことは、大統領室の「思惑」が何かを明確に示している。日本に対しては何も求めず、韓日関係の改善と韓米日軍事協力の「速度戦」への道をひた走ることを目指しているのだ。
日本の佐渡鉱山(佐渡島の金山)の世界遺産登録への賛成、光復節前の「親日独立記念館長」任命をはじめ、尹政権のメッセージは一貫して明確だ。「歴史問題に対する日本の責任を問わなければならない」という世論は、一言でいうと、国益実現の障害に過ぎないということだ。尹錫悦大統領の19日の発言どおりなら、「自由民主体制を脅かす反国家勢力」の言動とみなされる恐れがある。
キム次長の発言に続き、韓米日首脳は18日、「キャンプデービッド首脳会談」1周年宣言を発表した。1年前、3カ国首脳が「共同の利益及び安全保障に影響を及ぼす地域の課題、挑発、そして脅威に対する3カ国の対応を連携させるため、相互に迅速な形で協議し、情報共有を行い、対外的なメッセージングを整合させ、対応を連携させる」とした約束は、3カ国が事実上の軍事同盟に向けて踏み出す第一歩だった。これを受け、3カ国の国防相は7月28日、東京で「3カ国安全保障協力枠組み覚書」に署名し、具体的な施行計画も作成した。これらすべての動きは、尹錫悦政権が日帝強制動員被害に対して日本の責任を全く問わない第三者弁済を推し進めたために始めることができた。
しかし、韓米日首脳が協力を誓う共同声明を出したことは、韓米日が推し進めてきた実質的な軍事同盟化の道が不確実で脆弱であることをかえって浮き彫りにしている。米国のジョー・バイデン大統領と日本の岸田文雄首相が退任するうえに、11月の米国大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が政権に就いた場合、すべてが崩れる恐れがある。
さらに危ういのは、世論を徹底的に無視し、韓米日軍事協力を「速度戦」で進めようとする尹大統領とキム・テヒョ次長の態度だ。彼らは今、「自由民主主義同盟」の理念のためには原則と現実も無視する「ネオコン」の世界観にとらわれ、米日同盟に一方的に合わせる危険な道へと韓国を引きずり込んでいる。いくら朝鮮半島周辺の情勢の悪化と勢力均衡の変化により米日と協力を深める必要があるとしても、韓国の立場としては、安全保障上の必要性と状況を考えながら速度と範囲を調整していくのが当然の常識であり、世論の声だ。しかし、彼らはこのような世論に背を向け、日本に歴史問題の責任を問うべきという声をあざ笑っている。
キム次長は19日、「朝鮮日報」との「単独」インタビューで、「尹錫悦政権を『親日』、『売国』だと批判をする人たちは韓日、韓米日協力を通じて私たちがどんな安全保障と経済的利益と恩恵を享受したのかについては一言も言わない」と述べた。ところが先月、韓米日防衛相が署名した「韓米日3カ国安全保障協力枠組み覚書」は原文すら公開していない。大統領室は韓米核協議グループを通じて「韓米同盟が核に基づいた同盟」になったと強調するが、北朝鮮が核攻撃を行った場合、米国が明確に核で反撃するという約束をしたかどうかも不明だ。韓米日軍事協力の重要内容は秘密にしたまま、国民の懸念は「現実に無知な反日主義者の声」だと切り捨てる傲慢さが度を越している。