韓国社会の確執、OECD加盟国中3位
胸をえぐる暴言に「サイダー」歓呼
嫌悪や嘲笑を込めた新造語は素早く共有
自分と異なる視点を聞くつもりなし
政界は社会統合に関心なし
相手を敵視して懲らしめに没頭
少子化や気候危機は火急の問題となっているが、それらに劣らぬ濃い暗雲が韓国社会を覆っている。対立が先鋭化し、構成員同士が不信感を抱き、嫌悪し、排斥し合う社会的分裂がそれだ。支持する政党、理念、世代、男女、地域、人種の違いがすなわち「敵と味方」を分ける分断線となり、共同体を「感情的内戦」状態へと追いやっている。いかなる重要な合意も決定もできない社会、相手のやったことをぶち壊し、逆行することに明け暮れる国。激動期に道に迷った韓国の自画像だ。もはや分裂を恥じることもなくなり、それを解決しようという言葉すら空虚だ。ここで立て直さなければ、私たちは現世の地獄を味わうことになるかもしれない。
このかんの多くの調査は、韓国社会の対立と分裂がどのような水準にあるのかを示している。いくつか引用してみよう。「韓国の政治、経済、社会分野の対立の水準は経済協力開発機構(OECD)30カ国中、メキシコ、イスラエルに続き3番目に高く、深刻な状況だ」(全国経済人連合会対立指数、2016年)、「国民の51%は与野党間の対立と確執がかつてより強まっていると考えており、58%は民主主義などの様々な側面で社会が悪い方向へと向かっていると考えている」(ハンギョレ、2022年12月)、「国民の41%は、政治に対する考え方の異なる人とは食事を共にするのも嫌だと考えている」(朝鮮日報、2022年12月)、 「国民の半分以上は、支持政党の異なる人が自分や子どもの結婚相手になるのは望ましくないと答えた」(京郷新聞、2023年12月)
憎しみと不信感は激しい言葉で表出される。味方でない側に投げつける言葉は日増しに乱暴になる。胸をえぐる暴言には「サイダー(すっきりするの意)」と歓呼し、嫌悪と嘲笑の込められた新造語は素早く共有する。従北左派、土着倭寇、イデナム(20台男)、ハンナムチュン(韓男虫)、コルフェミ(頭の悪いフェミニスト)、老害、スバク(共に民主党の主流派が用いる非主流派を表す語)がそれで、前に「ケ(犬)」や「ヘク(核)」のような接頭語を付けて自身の感情を目一杯強く表現するのが流行している。自分の立場に固執するだけで、他人の考えや視点は聞く必要もないかのように振舞う人が増えている。極端な考えを実行に移すということも起きている。4月の総選挙の前には、地方を訪問した野党代表を狙った政治テロが起きた。韓国だけではない。米国もドナルド・トランプが前面に登場して以降、政治と社会の分裂は尖鋭化しており、2021年1月には大統領選挙の結果を不服としたトランプ支持者が議事堂に乱入する暴動が起きてもいる。欧州でも分裂の言語を駆使する左右の過激主義政治集団が、選挙などを足場にして勢力を拡大している。
市民が敵味方に分かれて争う政治的、感情的両極化は、経済的格差の深化、すなわち不平等の拡大が根本原因だ、というのが学界の通説だ。昨年秋のハンギョレアジア未来フォーラムの演壇に立った民主主義理論家のジェーン・マンスブリッジ(米ハーバード大学名誉教授)は、「不平等が強まると『私たちという共同体意識(We-feeling)』は崩壊する。互いに離れてゆき、コミュニケーションを取らず、人々を別の世界で生きさせる。…そうなると、同質性を感じる唯一の方法は、外部の敵を探し出して悪魔化したり戦争したりすることのみになる」。不平等研究者のトマ・ピケティ(パリ経済学校教授)も、エリートが商人右派とバラモン左派に分かれて「現代版貴族ごっこ」をしていることで、代弁者を失った下層民がポピュリズム的扇動の餌食になっていると診断する。
だとしても、政治が調整、統合という本来の役割を果たしていたなら、このような状況にはなっていなかっただろう。しかし韓国や米国、欧州でも政治は逆の働きをした。憤り、悔しい思いをしている人の感情を相手に向け、反射利益を狙う政治が勢力を伸ばした。韓国の与野党も、もはや相手を競争者ではなく敵として対している。自分たちのビジョンと能力を展開するのではなく、政治的競争者の醜悪さを強調して市民を怒らせ、味方を縛りつけておくのに余念がない。暴言と嘲笑はユーモアと品格を追いやった。「政治の司法化」だとか「検察独裁」だとか言いつつも、政治がなすべきことを告訴状をもって代える行為が相次いでいる。さらに確証バイアスとエコーチェンバー効果を増幅するデジタル環境、勝者独占の「小選挙区-単純多数制」選挙制度、与野党の支持層規模がほぼ同じになったことによる激しい競争構図が深刻さを深めている。前回の大統領選挙と今回の総選挙がそうだったように、選挙はより良い選択がほとんど不可能な、ゆえにより気に食わない政治家を懲らしめるゲームとなった。(2に続く)