本文に移動

金正恩委員長、「対南鎖国政策」に拍車…憲法に「大韓民国は第一の敵対国」の明示提案

登録:2024-01-17 06:08 修正:2024-01-17 08:49
最高人民会議第14期第10回会議の施政方針演説
労働新聞の16日付の報道によると、金正恩朝鮮労働党総書記兼国務委員長は15日、平壌の万寿台議事堂で開かれた最高人民会議第14期第10回会議の施政方針演説で、大韓民国を「徹頭徹尾第一の敵対国、不変の主敵」と規定した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)総書記兼国務委員長が「憲法の条文に大韓民国を不変の主敵として明記すべきだ」と強調した。南北関係を完全に遮断・分離しようとする「対南鎖国政策」に拍車をかけている。

 労働新聞の16日付の報道によると、金正恩総書記は15日、平壌(ピョンヤン)の万寿台(マンスデ)議事堂で開かれた最高人民会議第14期第10回会議で、韓国を「徹頭徹尾第一の敵対国、不変の主敵」とし、「共和国(北朝鮮)の民族歴史から『統一』、『和解』、『同族』という概念自体を完全に削除しなければならない」と述べた。最高人民会議は韓国の通常国会にあたる。

 金総書記は、昨年末に労働党中央委第8期第9回全員会議で明らかにした「南北関係は敵対的な二国間関係」という「対南部門で根本的な方向転換の路線」を憲法に明記すべきだと提案した。南北関係を完全に断絶しようとするものであり、金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記の統一路線を修正する「二つの朝鮮」論を公式化したわけだ。これは根本的に朝鮮民主主義人民共和国の国家アイデンティティを「統一を指向する分断国」ではなく、「独自的な社会主義国家」として新たに確立しようとする試みであり、北朝鮮の対南政策を含む対外戦略に変化が予想される。

 金総書記の指針に従い、最高人民会議は「南北対話と交渉、協力のために存在した祖国平和統一委員会と民族経済協力局、金剛山(クムガンサン)国際観光局機構を廃止する」という決定書を「一致可決」(満場一致)で採択した。金総書記は「今日の最高人民会議では、この80年間の北南関係史に終止符を打ち、朝鮮半島で併存する二つの国家を認めた上で、わが共和国の対南政策を新たに法制化した」と述べた。

 金総書記は「苦難に満ちた北南関係史が与える最終的な結論は、『政権崩壊』と『吸収統一』を夢見て対決狂症に陥り同族意識を喪失した大韓民国のやからとは民族復興の道、統一の道を共に歩んでいけないということ」だとし、「憲法の一部内容を改正する必要がある」と提案した。また「人民の政治思想生活と精神文化生活の領域で『三千里錦繍江山』、『8千万民族』のように北朝鮮と韓国を同族に誤導する言葉を使わないことと、大韓民国を徹頭徹尾第一の敵対国、不変の主敵として確実にみなすよう、教育教養事業を強化することを(憲法の)該当条文に明記するのが望ましい」と強調した。金総書記は韓国を米国の「奴隷国家」「外国勢力の特等走狗集団」だと非難した。

 これに対し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は同日、ソウル龍山の大統領室で開かれた国務会議で、「北朝鮮政権自らが反民族的で反歴史的な集団であるという事実を認めた」と批判した。米国務省報道官は「北朝鮮の敵対的発言は失望を抱かせる。南北の協力が恒久的な朝鮮半島の平和を達成するうえで不可欠だと考えている」と述べた。

 金総書記は韓国を「敵対国・主敵」と規定したことにとどまらず、祖父の金日成主席の統一路線とも異なる方向を示した。「憲法にある『北半部』、『自主、平和、民族大団結』という表現は削除すべきだ」という発言が代表的な例だ。「自主、平和、民族大団結」は1972年、南北の最高指導者である朴正煕(パク・チョンヒ)大統領と金日成主席が特使を挟んだ「間接首脳会談」で合意した分断史最初の南北当局合意「7・4南北共同声明」に明記された「祖国統一3大原則」だ。50年以上も南北が合意してきた統一の原則を否定したわけだ。

 金総書記は、父親の金正日総書記の指示によって、史上初の南北首脳会談直後の2001年8月、平壌の楽浪(ランナン)区域統一通りに建てられた「祖国統一3大憲章記念塔」も「見苦しい」として撤去を指示した。

労働新聞の16日付の報道によると、金正恩朝鮮労働党総書記兼国務委員長は15日、平壌の万寿台議事堂で開かれた最高人民会議第14期第10回会議の施政方針演説で、大韓民国を「徹頭徹尾第一の敵対国、不変の主敵」と規定した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 金総書記は好戦的な発言を続けながらも、先制攻撃は否定した。そして、「敵が(先に)仕掛けない限り、決して一方的に戦争を決行することはない」とし、「朝鮮半島で戦争が起きた場合、大韓民国を完全に占領、平定、修復し、共和国の領域に編入させる問題を(憲法に)反映することも重要だ。もし敵が戦争の火花でも落としたら、核兵器を含むすべての軍事力を総動員して断固として懲罰する」と述べた。金総書記は昨年末の全員会議で「有事の際、南朝鮮領土を平定するための大事変準備」に言及した。先に攻撃はしないが、攻撃を受ければ「核戦争」を辞さないという脅しだ。

 金総書記は、北方限界線(NLL)を不法とし、認めない意向も示した。また、「京義線の我々側の区間を回復不可能な水準に完全に遮断することをはじめ、境界地域のすべての北南連携条件を徹底的に分離するための段階別措置を厳格に実施しなければならない」とし、「わが国の南の国境線が明確に引かれた以上、不法・無法の『北方限界線』をはじめとするいかなる境界線も認められず、大韓民国が我が国の領土、領空、領海を0.001ミリでも侵犯すれば、直ちに戦争を挑発したものとみなされるだろう」と述べた。

 金総書記の南北関係断絶を通じた「対南鎖国政策」は、表向きには好戦的な言葉が並んでいるが、根本的には「吸収統一」回避を目的とした防御的性格が強いと、多くの国内外の専門家は分析した。

 旧東ドイツ出身で、金日成総合大学で学んだウィーン大学のルーディガー・フランク教授は、朝鮮半島専門ウェブサイトの「38ノース」への寄稿で、金正恩総書記の新たな路線を「危険の回避・除去戦略」(de-risking strategy)だと指摘した。西ドイツの「特殊関係論」に、1974年に統一条項を削除する憲法改正を通じて「二つの国家論」で対抗した東ドイツの場合を連想させると指摘した。ただ、非核国家だった東ドイツと違い、北朝鮮は「核武装国家」であり、単純な比較は難しい。金総書記の新たな路線は「南北関係」の断絶と「核武力」で「吸収統一」を防ぎ、北朝鮮の体制を維持・発展させるという戦略に基づいているためだ。

 韓国の専門家たちは「尹錫悦政権の対応方針によって南北関係の進路が変わる可能性がある」とし、「政府の慎重で思慮深い対応が求められる」と助言した。 統一部長官を務めた仁済大学のキム・ヨンチョル教授は「金正恩委員長の南北関係断絶路線と戦争のレトリックを区分して対応する必要がある」と語った。延世大学のムン・ジョンイン名誉教授は「南北間の偶発的軍事衝突が戦争へと広がる危険性がいつにも増して高い」とし、「韓米両国政府が危機管理に慎重を期する必要がある」と述べた。

イ・ジェフン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1124707.html韓国語原文入力:2024-01-17 02:31
訳H.J

関連記事