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砲声が止まない世界…神聖な「韓米同盟」だけで安全だろうか

登録:2023-11-16 07:38 修正:2023-11-16 10:26
[ハンギョレS]尹政権の外交政策を診断 
 
価値観外交・グローバル中枢国家…尹政権「誇大妄想の理念外交」 
米日密着の後、中国と疎遠に…安全保障・経済の国益の積集合を
昨年11月、ASEAN+3首脳会議に参加した尹錫悦大統領と米国のジョー・バイデン大統領、日本の岸田文雄首相がカンボジアのプノンペンにあるホテルで韓米日首脳会議を行っている=プノンペン/ユン・ウンシク先任記者//ハンギョレ新聞社

 パレスチナ、ウクライナ、ミャンマーなど世界各地で砲声と悲鳴が止まらない。朝鮮半島と台湾海峡からも、かなり前からミサイルと戦闘機の轟音が聞こえている。深刻化する米中対立は、朝鮮半島の安定と平和に長く暗い影を落としている。こうしたカオスな状況のもと、第30回アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会談が15日から17日まで、韓国や米国、中国、ロシアなど21の加盟国代表が参加し、米国サンフランシスコで開催される。世界のあらゆるメディアが今回のAPEC首脳会議に注目している。

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米中対決のなか「一貫性を失った外交政策」

 韓国は、ユーラシア大陸の東の果ての朝鮮半島の南側に位置する、面積10万400平方キロメートル・人口5160万人・国民総生産(GDP)1兆7200億ドルの分断国家だ。こうした地政学的な状況が、韓国の過去と現在、未来に多大な影響を及ぼしてきており、今後も及ぼすことは間違いない事実だ。進歩と保守のどちら側が政権を握ろうと、韓国が有する地政学的な現実を無視した対内・対外政策を行うことは不可能だ。韓国の現在および未来と最も密接な関係を持っている国は、もちろん「世界帝国」(World Empire)である米国と、隣接する大国、中国だ。米国は2万8000人あまりの兵力を韓国の領土に駐留させている同盟国で、中国は第1の貿易相手国だ。同じ山に2頭の虎が一緒に生きていくことはできないように、世界の覇権を追求する米国と中国が共存することは難しい。韓国の存在論的な危機は、まさにそこから始まる。米国は、民主党と共和党との間の極端な政争のもとでも、中国をけん制し続けている。来年11月の大統領選挙で共和党候補が民主党候補に勝った場合、中国けん制は強度を増すだろう。

 韓国は現在、経済危機に陥っている。このような状況で、国際情勢がどのように変わるのかについて深刻に悩んだことがなく、生涯を韓国という井の中の蛙として生きてきた人たちが、相次いで大統領に当選した。それによって韓国外交は、一部の例外を除き、米国式の世界観の洗礼を受けた要人が大統領府の安保室を主導し、自分の理念とアイデアを現実の外交に適用する実習場として機能させてきた。進歩か保守かにかかわらず、政権を掌握した勢力は、一般の国民はもちろん、国会、さらには職業外交官たちにも、政府の外交政策についての適切な説明なしに一方的な外交を追求した。筆者が外交部課長だった2009年の外交政策説明会や、駐中大使館の総領事として在任中だった2013年の海外公館長会議を機に開かれた外交政策説明会を主催した当時の政権の外交安保首席でさえ、その政権の外交政策をまともに説明できなかった。政権交替のたびに外交・対北朝鮮政策の基調が正反対に変わることによって、野党はもちろん、異なる見解を持つメディアや国民の反発を買い、政策の受け入れは大幅に低下した。前政権と180度違う方向性の外交安全保障政策の注文を受ける外交部や統一部、国防部、国家情報院などの外交安保担当省庁の公務員たちは、特に新政権の初期に集団で“メンタル崩壊”(精神的ショックをうけてまともな思考ができなくなる状態)に陥ったりする。2006~2008年に駐ジュネーブ韓国代表部で人道支援担当官を勤めた筆者も同じだった。筆者は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権から李明博(イ・ミョンバク)政権に政権交代した直後、ジュネーブとニューヨークで相次いで開催された「対北朝鮮人道的支援に関する国際連合主催の会議」で、昨日と今日で異なる韓国政府の対北朝鮮政策を発表しなければならなくなり、困惑した記憶がある。今でも顔が赤くなる。政権が変わるたびに完全に違った方向の政策を遂行しなければならない韓国外交は、時間がたつにつれ、米国や中国、日本、北朝鮮などの相手国(勢力)を含む国際社会からますます信頼を失った。

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現政権、洪範図などを歴史的に斬殺

 現政権は、浪漫的で民族主義的な傾向だった文在寅(ムン・ジェイン)政権の外交・対北朝鮮政策に対する敵対心に近い反作用から、文在寅政権よりはるかに深刻な理念的性向をみせている。現政権は、「価値観(自由)外交」とともに「グローバル中枢国家」を提唱するなど、経済力基準で世界13位に過ぎない韓国の国力を大きく越えた「誇大妄想(megalomaniac)外交」を推進しているという評も聞こえてくる。尹錫悦大統領が最近訪問したサウジアラビアとカタールは、いずれも絶対王政の国であり、以前訪問したベトナムは共産主義国だ。価値観外交が通じるような国ではない。米国の価値観外交も、米国に対抗する中国とロシアに対する同盟国の団結を維持するためだけに適用される。そして、グローバルな安全保障問題などに対する積極的な対応を要旨とする「グローバル中枢国家」は、米国以外にはない。また、韓米日の協力体制強化と、そのための福島第一原発の汚染水放出容認、強制動員問題の解決、そして対中国・対ロシア政策を含む現政権の外交には、李明博政権期に横行した日帝の植民地支配を肯定的にみるニューライト的な要素が溶け込んでいる。現政権は、日本政府よりもさらに強く、福島第一原発の汚染水の放出は海洋生態系に特別な影響を与えないと大々的に広報までした。政府内外のニューライトの人たちは、朝鮮の独立活動家の業績をさげすむのはもちろん、不可避な状況でレーニン政権期のソ連と協力せざるをえなかった洪範図(ホン・ボムド)を含む無政府主義や社会主義系列の独立活動家を「共産主義者」と称し、歴史的に斬殺することさえした。ニューライトの世界観に影響された人たちは、韓国は、日本・北朝鮮・台湾とともに日本帝国の解体の結果、1948年8月15日に建国された新生国家だという。古代に建国され何千年を受け継いできた大韓民国の国家アイデンティティを全面否定する、いわゆる「建国節」の主張だ。

 現政権の外交・対北朝鮮政策が過去回帰的な性格を帯びる根本的な理由は、現政権の勢力が国政目標と方向に対する明確なビジョンを持っていないことが主因だと思われる。明確な国政ビジョンを持つことができない場合、哲学・政策的なアノミー(無規範状態、無規則状態)に陥りやすい。現政権は「韓米同盟」を神聖な国家目標にまで格上げした。宋時烈(ソン・シヨル)などの性理学者らが、「明王朝崇拝」を国王も手出しできない絶対価値にしたことに似ている。現政権は韓米日3カ国の軍事同盟を追求しているのではないかという声も聞こえてくる。これは、韓国を中国に対する最前線国家にする副作用を引き起こす可能性がある。

 一方、韓国内の保守主義者たちは、文在寅政権の外交政策、対北朝鮮政策が「中国重視」「北朝鮮友好的」だったとみている。文在寅政権が急進的な対北朝鮮政策を進め、中国に対しては低姿勢外交、日本に対しては非友好的な態度で一貫していたという。これらの人たちは、前政権が主導した「対北朝鮮ビラ禁止法」の制定と「新経済構想が入ったUSB」を北朝鮮側に渡したことなどを根拠にする。特に、中国に対して「明王朝に対する朝鮮の限りない忠誠心」を意味する「万折必東」や「中国夢に賛同」などの表現は、屈従的な態度をとったものだと批判する。文在寅政権の外交に対して懸念する見方があったことも事実で、急変する国際情勢に合う総合的な外交戦略が足りなかったことも事実だ。しかし、それを根拠にして、文在寅政権の反対側にだけ進む、すなわち極端外交を追求するのは望ましくない。

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第1の貿易相手国である中国との「最前線」は避けよ

 米国が、対中貿易政策をデカップリング(脱同調化)からデリスキング(リスク回避)に切り替える一方、サンフランシスコでのAPEC首脳会議を前に、政府高官や要人を中国に派遣するなど和解のジェスチャーをとっていることからも、米中間の根本的な対立緩和の兆しはみられない。APEC首脳会議をきっかけに米中首脳会談が開催されるが、対立が全面的に解消されるだろうと期待するのは難しい。韓国は、デリスキングへの転換においても大きな被害を受けるものとみられる。国際通貨基金(IMF)は、10月18日に発表した報告書で、デリスキングが本格化する場合、韓国の国内総生産額は4%減少すると予想した。日本と欧州連合(EU)、米国の損失額を大きく凌駕する水準だ。米国は10月17日、低性能の人工知能(AI)半導体の中国輸出も禁止した。中国はこれに対抗し、10月20日、電気自動車の重要な素材である天然黒鉛の輸出を12月から制限すると発表した。これは、全世界の電気自動車業界にかなりの悪影響を及ぼすだろう。米中両国の新たな輸出制限措置は、APEC首脳会議の直前に出てきた。APEC首脳会議をきっかけに首脳会談が開催されても、米中対立が大幅に緩和されることはないように思われる理由の一つだ。米中の戦略的な競争、または新冷戦は、未来の覇権を決める科学技術競争はもちろん、台湾海峡、東シナ海、南シナ海などの東アジアから西太平洋地域に対する主導権など、両国の核心的な利益と密接に関連しているためだ。

 貿易依存度がきわめて高い韓国は、安全保障と経済の利益の積集合を必ず見出さなければならない。韓国は卵をすべて一つのかごに入れる愚かなことをしてはならない。米中対立の継続とあわせて、北朝鮮の核の脅威が高まる状況のもと、東アジアでの軍事衝突の可能性を下げるためにも、韓米同盟強化は避けられない。日本との協力も増進しなければならない。しかし、日本に現在と同じ低姿勢をとってはならない。中国との関係もこれ以上放置してはならない。韓国が中国に対する最前線に立つことを自ら要望してはならない。中国は第1の貿易相手国だ。経済力が弱まる場合、韓国は、韓米日協力体制において、米国と日本を敬う形の二重の下位パートナーに転落する可能性がある。中国だけでなく、ロシア、さらには北朝鮮との対立も減らし、協力空間を広げることによって、安定した関係を構築しなければならない。政権によって日本との協力体制と中国重視のどちらか一方に過度に傾くことを防くならば、徹底して国益に基づく外交を行わなければならない。そして、一貫性のある外交を追求しなければならない。地政学的な断層線上の国家である韓国では、人々は口を開けば互いを非難しあう。相手に向けた敵対心と憎悪がどこまでも高まる。孟子は「国が自らを傷つけたあと、人がその国を滅亡させる」と言った。外交の理念化は国家社会の分裂を加速化する。理念を前面に出して国民間の対立を扇動する言葉と行動は、今すぐやめなければならない。

ペク・ポムフン|ソウル大学招聘教授・元駐フランクフルト総領事 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/1115877.html韓国語原文入力:2023-11-12 14:42
訳M.S

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