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「治安強国」韓国を襲った「凶器の恐怖」…災害レベルのトラウマ

登録:2023-08-08 09:49 修正:2023-08-08 10:41
6日、ソウル江南区の新論ヒョン駅で、ガステロと人が暴れているという誤認通報があり、乗客が避難する騒ぎが起きた。この過程で一部が擦り傷を負って病院に運ばれた。写真は出動した警察官と消防隊員が現場を収拾する様子/聯合ニュース

 韓国で無差別刺傷事件と数十件のオンライン殺人予告が相次ぎ、関連情報がSNSなどに乗って分別なく拡散し、市民の不安が極に達している。専門家たちは市民が「集団パニック」状態に陥ったと診断した。

 6日、ソウルの地下鉄9号線の列車で発生したテロ誤認通報は、市民が集団パニックに陥った状況を端的に示している。「ガスの匂いがする」「人々が走り回りながら倒れている」「駅舎の中で暴れている人がいる」などの通報が相次いだことで、列車は新論ヒョン(シンノンヒョン)駅で停車し、乗客が急いで降りようとする過程で倒れて7人が負傷した。当時、列車の中には脱げた靴やカバンなどの所持品などが散乱していた。警察関係者は「誰かが大声を上げ、大声を聞いた隣の車両の乗客がわけも分からないまま避難し始め、凶器振り回しというデマまで広がったが、特異事項は見当たらなかった」と説明した。今月4日と5日にも、ソウル九老区(クログ)の開峰(ケボン)駅と慶尚南道泗川市(サチョンシ)などで暴れている人がいるとの通報があり、乗客・市民が避難する騒ぎが起きたが、誤認通報と確認された。

 専門家らは、相次ぐ凶器振り回し事件と殺人予告などで市民の「不安閾値(いきち:反応を起こす最小限の刺激)」がかなり下がっているとみている。実際、先月21日の新林洞(シンリムドン)での刺傷事件以後、捜査機関は厳正対応方針を明らかにしたが、オンラインでの殺人予告は続いている。7日午後6時現在、警察は殺人予告と関連して194件を立件し、このうち65人を検挙、3人を拘束した。シム・ミニョン国家トラウマセンター長は「似たような性格の事件が短期間に繰り返され、人々が感じるトラウマは災害水準」だとし、「新論ヒョン駅の騒ぎもこのような集団的トラウマによる事例とみられる」と語った。

 一連の犯行が、むしろ安全だと信じていた大衆密集地域で発生したため、市民が感じる実質的な恐怖はさらに大きい。ソウル麻浦区(マポグ)に住むKさん(44)は、「新論ヒョン駅事故を見たが、逃げた乗客の心理はとてもよくわかる。梨泰院(イテウォン)雑踏事故も、五松(オソン)の地下車道浸水事故も同じだったが、危険に敏感にならなければ本当に危機に陥るのを避けられないという気がする」と話した。別のKさん(24)も「念のため、道を歩く時はイヤホンを外している。凶器振り回し予告があった場所の近くや人の多いところは行くのを避けるようになった」と話した。西原大学のキム・テギョン教授(相談心理学)は「今回の犯罪は『運が悪ければいつでも自分が被害者になりうる』という考えを持たざるをえない事件だった」とし「その上、このような事件が繰り返されることで、同じような事件がまた起こるだろうという考えが徐々に大きくなっている」と説明した。

 情報がたやすく急速に広がるSNS基盤の環境も、市民の不安を膨らませる要素だ。ソウル市新林洞と城南市書ヒョン(ソヒョン)駅の2回にわたる刺傷事件は、いずれも血痕などの現場の写真が急速に広がった。新林洞の場合、犯行と検挙の様子が映った近くの店の防犯カメラ(CCTV)映像が、1分以内のショート動画で使用者の意志とは関係なく無分別にさらされたりもした。

 オンラインコミュニティ活動が活発なインターネット環境は、皮肉にも殺人予告と恐怖が拡散する通路の役割を果たしている。慶煕大学のイ・テックァン教授(社会学)は「1990年代にも広場で自動車による無差別犯罪があったが、今はソーシャルメディア社会なので、ガイドラインもなく情報がむやみに広がっている」と述べた。成均館大学のク・ジョンウ教授(社会学)は「オンラインコミュニティなどは世論を作るのにポジティブな役割をしたりもするが、犯罪者に勇気を与える口実にもなる」として「犯罪者たちは自分が書き込んだ文章の波及力を見て、自分が生きているということを実感したりもする」と指摘した。

 このような不安を反映するかのように、殺人予告およびそれが検挙されたかどうかを知らせる「テロレス(terrorless)」というサイトもできた。大学生4人で構成されたコミュニティ「コンイルラボ(01ab)」は「無責任な殺人予告についての情報を市民たちに提供し、不安を減らしたかった。サービスが終了し安全な社会に戻ることを願う」と述べた。

 専門家は犯罪現場の写真と動画をさらすのを自制するよう助言した。大韓精神健康医学科医師会のキム・ドンウク会長は「事件の写真や動画に分別なく接すると、神経質になり不安定になる恐れがある」とし「関連するものをさらすのを減らすよう努力すべき」と述べた。

チャン・ナレ、キム・ユンジュ、キム・ガユン、イム・ジェヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1103398.html韓国語原文入力:2023-08-08 08:33
訳C.M

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