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米国で800億円の賠償「iPhone性能低下」、韓国では敗訴した理由は

登録:2023-02-03 06:06 修正:2023-02-03 07:58
ソウル松坡区のロッテワールドモールにオープンしたアップルストア蚕室店を訪れた市民たちがアップルの製品を見ている/聯合ニュース

 アップルがiPhoneのオペレーティング・システム(iOS)をアップデートした際、旧型のiPhoneの性能を意図的に落としたとする疑惑に対し、韓国で消費者が集団損害賠償訴訟を起こしたが、一審で敗訴した。消費者に6億1300万ドル(約790億円)を賠償するよう命じた米国の場合と比較される。

 ソウル中央地方裁判所民事31部(キム・ジスク裁判長)は2日、iPhoneの利用者6万2806人がアップル本社とアップルコリアを相手取り起こした損害賠償請求訴訟で、原告敗訴の判決を出した。裁判所は「その件のアップデートによってiPhoneが毀損されたと認めるに足りず、これを認めるほどの証拠がない」とし、「原告の請求を棄却する」と言い渡した。

 「iPhone性能低下論議」は、アップルが2017年下半期にiOSをアップデートした際、iPhone6など旧型のiPhoneの性能を意図的に落とし、これを適切に伝えなかったとする疑惑が提起され始まった。当時アップルは、旧型のiPhoneの突然の電源遮断を防ぐため、性能低下機能を導入したものだと釈明したが、消費者らは、アップルが新型のiPhoneの販売量を増やす目的で、iOSのアップデートを通じて旧型のiPhoneの性能を意図的に下げたと疑った。これに対し、世界各国で消費者の訴訟が続いた。韓国も2018年4月に消費者が訴訟を起こし、4年10カ月後のこの日、一審判決が出たのだ。

 この日の一審判決に先立ち、米国(6億1300万ドル)やチリ(25億ペソ、約4億1000万円)などで消費者に対する賠償が認められたこととは対照的だ。韓国と米国などの間の訴訟制度上の違いが影響を及ぼしたとみられる。

 なにより、米国の裁判所で活用される「ディスカバリー制度」が韓国では認められず、消費者の証拠確保が限界に達したとみられる。ディスカバリー制度は、民事訴訟が始まる前に裁判の証拠資料を相手方に提出しなければならない手続きで、提出要請を拒否する場合、相手側の主張を認定(敗訴)するとみなされる。不誠実な資料提出に対して強い制裁もなされる。実際に米国の消費者は、この手続きを通じてアップルから数百万件に達する資料を受け取り、これを根拠に調停手続きを踏み、アップルと損害賠償の合意に至ることができた。

 調停過程では、消費者集団訴訟制度がアップルを圧迫したものとみられる。やはり米国で認められる制度で、一部の被害者が勝訴すれば、関連の当事者全員に判決の効力が及び、損害賠償額が雪だるま式に膨らむことになる制度だ。韓国では財界の反発に押され、証券関連訴訟に限定して集団訴訟制度が導入されている状態だ。

 消費者を代理した弁護士は「判決文を入手し次第、控訴するかどうかを決める予定」だとしたうえで、「今回の訴訟によって、消費者集団訴訟制度の不在や証拠開示(ディスカバリー)制度の不在などにより、消費者の被害救済において大きな限界があるという点が明らかになった」とする立場を示した。実際、原告側は「裁判所が文書の提出命令を出したが、事実上強制する手段がなく、アップル側は核心となる資料は出さなかったとみられる」と主張した。この日、裁判所がアップル勝訴とした最大の理由も「証拠不足」だった。

 一方、韓国の消費者団体は、この事件に関連して、アップルのティム・クック最高経営者(CEO)とアップルコリアのダニエル・ディシコ代表理事を、情報通信網法違反の容疑で告発もしていた。警察は今回の判決に先立ち、昨年4月に証拠不十分を理由に告発を却下した。

チェ・ミニョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1078051.html韓国語原文入力:2023-02-02 22:20
訳M.S

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