「オイルマネー」を握っているサウジアラビアの実権者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が韓国を訪問し、財界トップを一堂に呼び集めたことで、中東特需に対する期待感が一層高まっている。だが、国際社会の一部では皇太子が関わった様々な人権問題を指摘する声も少なくない。同皇太子の持つ莫大なオイルマネーは、血にまみれた金だということだ。
ムハンマド皇太子をめぐる最も大きな議論は、2018年11月に発生したジャーナリストのジャマル・カショギ氏がイスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺害された事件だ。サウジ王室に批判的な記事を書いてきたカショギ氏殺害の背後にムハンマド皇太子がいるという疑惑が高まったことで、女性運転許容▽コンサート許容▽女性に対する男性保護者制度廃止など「改革君主」として国際的な期待を集めていた同皇太子の名声には大きなひびが入った。その影響で、同年開かれたサウジの未来投資イニシアチブ(FII)には、国際通貨基金(IMF)や世界銀行などや、JPモルガン、ブラックロックなどの大手企業関係者は参加しなかった。
韓国が特需を期待する5000億ドル規模のスマートシティプロジェクト「NEOM」も、人権問題が取りざたされている。砂漠に超現代式の新都市を建てるというこの計画のために、元来この地に住んでいた部族に対して2020年に強制退去命令が下された。これに抵抗していた活動家がサウジ保安軍に処刑される事件が発生し、物議をかもした。その他にも、最悪の人道危機に発展したイエメン内戦介入(2015年)、権力強化のための大勢の王室関係者の逮捕・拘禁(2017年)など、不穏な数多くの事件に手を染めた。
特にカショギ氏殺害事件をめぐっては、サウジの長年の友好国である米国さえも断固とした態度を取った。人権などの価値を重視するジョー・バイデン米大統領は、2020年の大統領選挙期間中、サウジを国際社会で「のけ者」にすると公言し、就任後も冷淡な関係を維持してきた。
しかし、2月末に起きたウクライナ戦争で全てが変わった。国際原油価格がうなぎのぼりとなり、米国の態度はかなり弱まった。バイデン大統領は米国を襲った40年ぶりのインフレを抑えるために、7月にサウジを訪問しムハンマド皇太子に会った。自尊心を抑え、この席で原油増産などを要求した。自国の主権を侵害したカショギ氏殺害事件以後、皇太子に対抗していたトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領も、高いインフレにともなう経済難の中で4月に同皇太子と会い、関係改善に乗り出した。そのため、カショギ氏事件に関連する疑惑には一種の国際的免罪符が与えられた状況だが、莫大なオイルマネーがすでに発生した悲劇をなかったことにすることはできない。