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[記者手帳]軽空母は21世紀の亀甲船か金食い虫か

登録:2021-03-29 01:51 修正:2021-03-29 07:50
軽空母、21世紀の亀甲船か金食い虫か=ハンギョレTVよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 「未来世代のための『21世紀の亀甲船』を今から建造しなければならないという切迫した気持ちで、全力を尽くさなければならない」(プ・ソクチョン海軍参謀総長の今年の新年の辞)

 この新年の辞のように、海軍は最近、軽空母を広報する際「21世紀の亀甲船」と強調しています。

 海軍は、李舜臣(イ・スンシン)将軍が壬辰の倭乱(文禄の役)が起きる前に亀甲船を造った先見の明のおかげで朝鮮が国難を克服できたように、軽空母は21世紀の様々な安全保障の協議に備える亀甲船の役割を果たすと話しています。

 果たして軽空母は21世紀の亀甲船なのでしょうか。

 皆さんの考えはどうでしょうか。

 私は突き詰めて考えてみる必要があると思います。後でもう一度申し上げます。

軽空母とは一体なにか?

 まず、軽空母とは何でしょうか。

 車で考えると簡単です。自動車は排気量によって大型車や中型車、小型車、軽自動車に分けられます。航空母艦は、排水量によって大型空母、中型空母、軽空母に分けられます。船が水に浮かんでいるときは浮力が働き、船が押し出した水の重さは浮力と同じなので、排水量はまさに船の重さと同じになります。排水量9万トンを超えると大型空母、4~6万トン級は中型空母、2~3万トンは軽空母と呼ばれます。

航空母艦は排水量によって大型、中型、軽空母に区分される。排水量9万トン以上は大型空母、4~6万トン級は中型空母、2~3万トンは軽空母となる=ハンギョレTVよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社
トニー・スコット監督の映画『トップガン』に登場したのは大型空母だ=ハンギョレTVよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 トム・クルーズが出演した『トップガン』のような映画やニュース画面でよく見る米軍の航空母艦が大型空母です。排水量が10万トンに迫ります。戦闘機など各種航空機を約80機を載せることができます。大型空母の戦闘力は実に強力なものですが、費用が高すぎます。米ドル基準で大型空母を1隻作るのに62億ドル、約6700億円以上かかります。

 もう一度車の話に戻ると、大型車の方が性能は良いけれど懐具合が厳しから中型車や小型車を買うように、大型空母は欲しいけれど、経済的に余裕がない国々が軽空母を選びます。軽空母は戦闘機を20機ほど搭載できます。要するにコストパフォーマンスの良い空母なのです。

 では、空母がなぜ必要でしょうか。

 空母は、英語では aircraft carrierと言います。キャリアーといえば、スーツケースが思い浮かびますよね。空母は船が重要なのではなく、戦闘機を運ぶのが基本目的です。空母は海の上の動く飛行基地です。

空母は船が重要なのではなく、戦闘機を運ぶのが基本的な目的だ=ハンギョレTV//ハンギョレ新聞社

 第二次世界大戦勃発まで、全世界の海軍は夥しい破壊力を持ち、巨大な大砲で武装した巨大な戦艦(battleship)が艦砲射撃で相手の軍艦を撃沈させる海上戦闘を行いました。これを「大艦巨砲主義」といいます。

 1941年12月、日本の真珠湾奇襲は空母の威力を実戦で示しました。当時の日本の航空機の性能を考えると、日本本土の基地を離陸した日本軍の航空機が、広大な太平洋を渡って真珠湾を奇襲することは不可能でした。このため、米国はあえて日本の戦闘機が真珠湾を攻撃するとは想像もしなかったのです。ところが日本は1941年12月7日、6隻の空母に420機の航空機を載せて、真珠湾近くまで行き、奇襲攻撃に成功しました。日本の真珠湾奇襲は、戦艦を海軍力の中枢と認識していた大艦巨砲主義の通念を破り、空母と航空機の組み合わせだけで達成した新たな海軍戦略の勝利です。第二次世界大戦を機に海の王者は戦艦から空母に変わりました。

マイケル・ベイ監督の映画『パール・ハーバー』のワンシーン=ハンギョレTVよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

中国と日本を「潜在的敵国」と見なすのか

 国防部が2兆ウォン(約1940億円)以上を投入して国産軽空母を建造し、2033年までに実戦に配備する計画を発表しました。米国と違って韓国は、遠洋まで空母に戦闘機を搭載して行って作戦を行う軍事的必要性そのものをなかなか想像できません。これを軍事用語で「長距離への戦力投射」と言いますが、世界の警察官の役割を掲げる米国は、自国の利益を守るため、世界の紛争地域に空母船団を送っています。

 韓国海軍は、有事の際に周辺国との紛争などで制空権を掌握し、海上の交通路を保護するために空母が必要だと強調しています。石油や穀物などの資源を海上を通じて輸入し、輸出入を海上交通路に依存するなど、海は韓国経済と国民生活の命綱だということです。もし海上交通路が遮断されると、夥しい被害が発生するため、韓国が軽空母を導入して最小限の抑制力を備えなければならないというのが海軍の説明です。要するに、中国と日本が空母をすでに持っているか、さらに作っているため、韓国も持たなければならないということです。

 海上交通路の保護に反対する人はいません。しかし、誰が海上交通路を遮断し、その脅威の程度がどれほど深刻なのか、そしてこれに対処できる韓国の軍事的・外交的手段には何があるのか、その優先順位はどのようにするのか、明確に示さなければならないのに、海軍はあまりにもお粗末に軽空母の必要性だけを強調しています。

 軽空母は、単なる兵器システムの導入の問題ではなく、韓国の安全保障の根本的な方向性に関する問題です。だからこそ、次のような質問が必要です。今後中国や日本を「潜在的敵国」と見なすのか?米国と中国が南シナ海や東シナ海で戦った場合、韓国は米国と協力し、中国に対抗するのか?

海軍、「軽空母はなぜ必要か」という質問に的外れな回答

 韓国政府は、軽空母が21世紀の亀甲船という感情に訴えるスローガンではなく、我々が軽空母でいかなる利益を守り、周辺国にどのようなメッセージを与えるのか、特に米中の覇権争いにおいてどのような意味を持つのかについて、明確に答えなければなりません。

 海軍はひとまず軽空母を建造し、将来の「潜在的脅威」に備えなければならないと主張しています。「軽空母はなぜ必要なのか」と聞いているのに、質問に対する具体的な答えはせず「後で必要になるかもしれないから、とりあえずやってみよう」と言っている具合です。質問と答えが全くかみ合いません。

軽空母は1996年に大統領に初めて報告され進められたが、1997年の通貨危機により白紙化された=ハンギョレTVよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 軽空母の必要性は、金泳三(キム・ヨンサム)政権時代の1996年3月、大統領に初めて報告されており、軽空母をめぐる議論も昨日今日のことではありません。最近争点になっているのは軽空母のコストパフォーマンスです。建造費や維持費がいくらで、この費用対効果がどの程度かということです。

 国内企業が3万トン級の軽空母を設計して船体を作るのに約2兆300億ウォン(約2230億円)、軽空母に搭載される垂直離着陸戦闘機20機余りを導入すると約3兆ウォン(約2900億円)、合計すると軽空母の導入には5兆ウォン(約4840億円)かかります。維持管理費は毎年2千億ウォン(約190億円)ほどかかります。

 軽空母は敵のミサイルや魚雷に対する防御力が弱く、単独ではなく、護衛船団と群れをなして動きます。これは「軽空母戦団」といいます。海軍が推進する軽空母戦団は、1~2隻のイージス巡洋艦や3~4隻のイージス駆逐艦、ミサイルフリゲート艦、原子力推進潜水艦など10隻ほどです。一つの軽空母戦団を作るのに最大40兆ウォン(約3兆8740億円)がかかると主張する専門家もいます。

2020年8月26日付ハンギョレの「軽空母の運用に30兆~40兆ウォン…予算の無駄遣い」記事//ハンギョレ新聞社

 韓国の国防予算は50兆ウォン(約4兆8420億円)強ですが、軽空母戦団一つ完を成させるのに国防予算の約80%がかかるという話です。軽空母が金食い虫になってしまうと、陸軍や空軍の事業が流れ弾に当たって萎縮しかねないため、陸軍、空軍は海軍の軽空母導入に批判的です。

 これに対して海軍は、軽空母戦団の護衛戦力は大半がすでに確保され運用されているため、追加予算はあまりかからず、10年以上分散して投入するため、韓国の国防予算規模内で調達できると説明しています。

亀甲船というハードウェアより李舜臣のソフトウェアに注目すべき

 軽空母は果たして21世紀の亀甲船でしょうか。

 さて、どうでしょう。

 文禄の役の際、日本の水軍は相手の船に乗り移り、敵軍をなぎ倒す戦略を取りました。李舜臣将軍は亀甲船を利用した突撃戦法や板屋船に装着した長距離火砲を活用した艦隊運用戦略を導入しました。当時、朝鮮の水軍は、日本の水軍とは比べ物にならないほど先進的で独創的な戦略を駆使しました。李舜臣将軍の斬新な戦略は、第2次世界大戦の時、空母と航空機を組み合わせた戦略が大艦巨砲主義に取って代わったのと同様、世界の海戦史において画期的なものでした。

 李舜臣将軍が作った亀甲船というハードウェアだけを強調するのではなく、李舜臣将軍が披露した新しい戦略と戦術というソフトウェアに注目しなければなりません。李舜臣将軍の後裔を自負する海軍が、ソフトウェアに該当する戦略と教理よりも、ハードウェアである軽空母にのみ関心を示すことは、残念でなりません。

 軽空母が本当に必要ならば、導入すべきかもしれません。しかし、「なぜ必要なのか」という質問にもまともに答えられず、「とりあえずやってみよう」というやり方には賛成できません。そのうえ、国民が厳しい状況を強いられているコロナ禍の中、軽空母を強行するのは理解に苦しみます。国民の声援と支持なくしては、軽空母を作ることはできません。

企画:クォン・ヒョクチョル論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/988440.html韓国語原文入力:2021-03-27 15:18
訳H.J

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