役員や従業員の年末調整資料を調べ、いわゆる「不穏団体」後援リストを作成していたサムスン。同社は、ある保守団体が「反国家・親北朝鮮団体」に指定した69団体をすべて「不穏団体」と見て、後援者を選り分けていたことが分かった。当初、サムスンがまとめた11の不穏団体やここに加入していた270人あまりの役員や職員のリストを巡り、サムスンがどのようにしてその11団体を特定したのかという疑問が持ち上がっていたが、これはサムスンが役員や職員の寄付の内訳と69の不穏団体を全て照らし合わせて選び出した結果だった。
19日のハンギョレの取材の結果、サムスン側は18日に韓国女性民友会などに事件の経緯などを説明する電子メールを送っていたことが分かった。被害団体がサムスンに真相究明や被害救済策などを要求したことに対する返事だった。
電子メールは、サムスンが特定の市民団体を「不穏団体」に指定し、後援金の内訳をまとめた理由について説明している。2013年5月にウォン・セフン元国家情報院長の自宅に火炎瓶を投げつけた事件の容疑者がサムスン系列会社の社員だという報道が出たことを受け、当時の未来戦略室の労使担当役員が類似事故を防止するため「同様の性向の社員がいるか確認せよ」と指示した結果だという。
この指示によって未来戦略室は2010年に「サイバー浄化連帯」が選定した69の反国家・親北朝鮮団体を「不穏団体」に指定し、そのリストとサムスンの役員および職員の寄付金控除の内訳を照らし合わせて、11の市民団体に寄付した270人の職員の名簿をまとめたと説明した。69団体の中には統合進歩党(統進党)、環境運動連合、民族問題研究所、韓国女性民友会などが含まれている。そのリストを作った「サイバー浄化連帯」は、李明博(イ・ミョンバク)政権時代に国家情報院(国情院)から金銭支援を受けていた団体でもある。サムスンはただし、市民団体への寄付金閲覧行為は13年以外には行っていないと主張している。
当時、火炎瓶投てき事件の容疑者とされた人物は、サムスンSDSで課長として在職していたイム・オクヒョン氏だった。イム氏は警察の捜査で犯行を否定したが、捜査機関はイム氏が革新系団体「民主民生平和統一主権連帯(民権連帯)」の会員であることなどを挙げ、拘束捜査し、裁判に付した。このことでイム氏は会社を辞めたが、裁判の結果、一審で無罪を言い渡され、2018年3月に最高裁で無罪が確定した。裁判所は、イム氏が火炎瓶を投げつけたという証拠が不十分だと判断した。
サムスンは、こうした活動を指示した人物が昨年12月に「労組問題や個人情報保護法違反事件の一審で懲役1年4カ月などの有罪判決を受けており、現在二審で裁判中」であると明らかにした。カン・ギョンフン副社長だ。
サムスンは今後の再発防止についての計画も明らかにした。人事チームの役員や職員の個人情報を管理する部署の幹部や職員を対象に特別教育を実施し、類似の事故が発生した場合は最高水準の懲戒などの人事措置を建議するという内容などだ。違法査察の被害者と被害団体に対する救済策についても、サムスンは「名誉が失墜した団体および役員や職員のために、マスコミを通じて公開謝罪した」とし、新型コロナ事態が沈静化した後に市民団体と経営陣が面談することも約束した。
これに先立ち、民友会などの11団体は、サムスンが指名した「不穏団体」には属さないが同じく査察被害を受けた「半導体労働者の健康と人権を守る会」(パンオルリム)と労組瓦解事件の被害当事者である金属労組の構成員も面談対象に含めることをサムスンに要請している。しかしサムスンは「困る」として、年末調整の内訳で査察対象になった11団体以外には面談できないという返事をしてきたという。
市民団体は、サムスンの公開謝罪がイ・ジェヨン副会長の国政壟断破棄差し戻し審の量刑に影響を与えるための「偽装謝罪」だという批判的な立場を表明している。この日、被害団体は共同対応チームを結成し、ソウル瑞草洞(ソチョドン)のサムスン社屋前で「違法査察に対する偽装謝罪の糾弾および告発」のための記者会見を開いた。彼らは徹底した真相調査、司法処理、被害救済策などを要求し、23日に個人情報保護法、労働組合および労働関係調整法違反の疑いで、イ・ゴンヒ会長とイ・ジェヨン副会長、チェ・ジソン前未来戦略室室長などを対象に、ソウル中央地検に告発状を提出することにしている。