自殺も労災と認められ得る。ただし越えなければならない峠が数多くある。
労働災害補償保険法(労災保険法)で言うところの「業務上の災害」は、業務上の事由による労働者の負傷・疾病・障害または死亡を意味する。 したがって自殺が業務上災害と認められるには、業務と自殺の間に相当な因果関係がなければならない。 労災保険法37条2項は「労働者の故意・自害やそれが原因となって発生した死亡は業務上災害と見なさない」と規定している。基本的に自殺を業務上災害と見なさないわけだ。
ただし同じ条項で「その死亡が正常な認識能力等が明らかに低下した状態で行なった行為により発生した場合で、大統領令に定める事由があれば、業務上の災害と見なす」という例外規定を置いている。これによって労災保険法施行令36条は「業務上の事由による精神的異常状態」で自害したということが医学的に認められる場合などを業務上災害と見ている。
2010年から2014年までの5年間、勤労福祉公団が自殺を業務上災害と認めた事例は遺族の申請190件中59件(31.1%)に過ぎなかった。公団の統計によれば、公団の業務上災害不認定に不服ありとして、遺族が訴訟により裁判所から業務上災害確定判決を受けたケースは2010~2016年に13件だった。これらの事件で勤労福祉公団は「個人的要因の方が大きい」、「職場を持つ一般の人が耐えられる程度だった」、「ストレスの内容が自殺を誘発するほどに過度なものではない」などの理由で遺族給与支給を拒否した。
クォン・ドンヒ労務士(法律事務所「明日」所属)は「勤労福祉公団で自殺事件を審議する際、精神健康医学と医者の医学的判断が重要な判断基準となる。医学的判断はどうしても業務上の構造的問題より労働者個人の問題に集中して見るという限界があり、業務上災害の認定がなされにくい」と言った。
それに対し裁判所はそのような医学的判断より社会的・規範的基準を重要視するので、自殺の業務上災害を勤労福祉公団よりは幅広く認める方である。 最高裁の判例は「業務と災害発生の因果関係の有無は医学的・自然科学的に明白に証明されなければならないのではなく、規範的観点から “相当な因果関係”の有無として判断されるべきである」と明らかにしている。さらに業務と自殺の因果関係に対しても「業務上過労やストレスが疾病の主な発生原因と重なって誘発または悪化し、それによって心身喪失などの状態に陥り自殺に至るようになったものと推断できる場合“相当な因果関係”がある」という立場だ。
しかし裁判所も、自殺と業務の相当な因果関係を判断する基準が「社会的な平均人」なのか「当事者」なのかについては明確でなく、議論を生んでいる。 最高裁は1991年から「業務と災害の間の相当な因果関係の有無は、普通の平均人ではなく「当該労働者」の健康と身体条件を基準に判断すべきである」という判例を何回も出している。
ところが2008年、最高裁は自殺事件で「自殺が“社会的な平均人”の立場から到底克服できないような業務上ストレスのためでなければ“相当な因果関係”を認めることはできない」と判断した。2008年のこの判例によって下級審では“社会的な平均人”の立場から見て自殺するほどのストレスを受けたものではないとして、自殺を業務上災害と認めない判決が続いた。しかしこのような判決に対し、当の最高裁が“個人的特性”をさらに考慮せよという趣旨で破棄した事例も2015年に確認されたものだけで6件ある。
クォン労務士は「最高裁が自殺と業務の因果関係の基準を“社会的な平均人”なのか“当事者”なのか明確にしないでいるため、混乱をきたしている。 他の業務上災害認定基準と同様に、自殺事件も“当事者”の立場で判断すべきだ」と指摘した。
韓国語原文入力: 2017-06-26 18:18