<疲労社会>の著者であるドイツ在住の哲学者ハン・ビョンチョル ベルリン芸術大学教授がセウォル号惨事は新自由主義が生み出した非人間化に伴う惨劇という診断を込めた文を26日(現地時間)ドイツの有力日刊紙<フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(F.A.Z)>に寄稿した。 現代社会を誰が強要したわけでもないのに死ぬほど働いて疲労でやつれていく‘成果社会’と規定した<疲労社会>は、韓国でも大きな反響を起こした。
ハン教授は‘私たち皆の船’という題名の今回の寄稿文で "セウォル号惨事を船員の注意不足やプロ意識欠如、または韓国という国の特殊な状況のせいにすることはできず、今回の惨事は現代社会の隠喩" と述べた。 彼は "朴槿恵(パク・クネ)大統領がセウォル号船長を殺人者と言ったが、セウォル号惨事に先ず責任を負わなければならない人は新自由主義政策を推進した李明博前大統領" と話した。 2009年までは旅客船が建造されてから20年まで運航が可能だったが‘ビジネス フレンドリー’を前面に掲げたイ前大統領の時に船の使用年数30年までとし、運航可能期間が延びた点を挙げて "企業成果に集中した政策が事故危険を大幅に高めた" と指摘した。
彼はセウォル号の船員の大部分が非正規職であり、船長も1年契約職であったし、名前だけの船長であり権限があまりなかったという事実に注目した。 彼は "このような労働条件では船に対する愛着や責任感を持ち難い。 事故が起きれば自分が先ず助かろうとすることになる。 惨事を振り返ってみれば、構造的暴力だったと言える" と明らかにした。 彼は国際通貨基金(IMF)が1990年代後半にアジア金融危機の際に注入した新自由主義によって韓国で正規職が急激に減ったと説明して "新自由主義によって、韓国の社会的雰囲気は非常に荒くなり非人間的になった。 すべての人が自身の生存だけを考えるようになった" と指摘した。 彼は韓国の政治家たちも今回の惨事の後に自身を引き立たせるために現場に行ったと批判した。 朴槿恵大統領も生存者である5才の少女と写真を撮ったことのために批判を受けたと説明した。
1912年に沈没した旅客船タイタニック号の船長、エドワード・ジョン・スミスのように最後まで船橋に留まり船と運命を共にした気風は、現在は韓国だけでなく他の社会でも期待し難いと述べた。 2012年に沈没したイタリアの豪華遊覧船コスタ・コンコルディア号の船長が自から脱出したことも偶然ではなく、"現代社会は皆が自分が先ず生存しようとする‘生存社会’" と指摘した。 彼は新自由主義という言葉を作ったドイツの経済学者アレクサンダー・リュストウの言葉を引用して、新自由主義は社会を非人間的に作ると指摘した。 彼は "新自由主義は人間を疎外させる。こうした意味でセウォル号は新自由主義の小宇宙と同じだ" と書いた。
彼は現代社会が信頼を喪失したまま、透明性と統制でこれに代えようとしていると指摘した。 "透明性は順応に対する強圧を産み、そのことで支配システムを安定させるのに寄与する" という内容を込めた2012年の著作<透明社会>で提起した問題意識を伺わせるような項目だ。 信頼は社会を安定化し構成員を縛る接着剤だが、信頼がなくなると透明性と統制に寄り添うようになるということだ。 彼は "自分の利益だけを考えて共同体意識が希薄になった社会では腐敗が生まれる。 透明性と統制が腐敗を予防することはできるかも知れないが、常識と信頼を回復することはできない" と書いた。
チョ・キウォン記者 garden@hani.co.kr