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[市民編集人の目] 消費者が‘カモ’になっている現実 放置するつもりか

原文入力:2011/09/27 20:58(2841字)


インフレは避けられないことではなく 資本・政治・マスコミの合同作品
経済危機の度に所得を奪われる庶民の暮らしを見守らねば


ワイマール共和国が超インフレの時、ドイツ人と交わした対話を集めたパール・バックのある作品には富裕層に所得を強制移転され乞食同然になった庶民の怒りが表出されている。


 "私たちはだまされた。 私たちはドイツ人皆がインフレで苦痛を受けていると思ってきた。 しかし今になって見るとそうではなかった。 すべての人が敗れる競技は世の中に存在しないということだ。 インフレ期の勝者は大企業家とユンカー党員(主に地主貴族・将校)だ。 敗者は労働者階級と中流層だ。 インフレが終わった時、大企業の工場は現代化していた。 ブルジョア新聞はそれをドイツ産業の奇跡と呼んだ。"

マックス シャピロはローマ帝国末期とフランス革命期、ワイマール共和国、米国の1970~80年代など歴史上のインフレ時代に驚くべき類似性があるということを発見した。 彼は<貧しい億万長者たち>という本でインフレは不可抗力的なものではなく作られたものであり政略の産物だと書いた。 短期間により多くの富を蓄積しようとする企業家と財産家、これに協力して利益を分け前を手にする政治家・官僚・学者・言論人らがインフレの主犯だということだ。


1997年と2008年、そして2011年の我が国の金融危機とインフレにも驚くべき類似性が見出される。高成長政策を使い資本蓄積の危機にぶつかるや国民に負担を転嫁したということだ。 1997年には国際通貨基金(IMF)が‘腰のベルトをきつくしめる’政策を強要し、今は李明博大統領が「物価上昇に最も賢明に対処する道は消費を減らすこと」と言った。チェ・チュンギョン知識経済部長官は「物価上昇を政策の失敗だと批判する態度は知性的でない」と話した。


高成長に執着し一貫して低金利/高為替レート政策をとり、副作用が一層大きい 金持ち・企業減税政策を展開しておきながら政策の失敗ではなく国民の消費形態に原因を求めているわけだ。政府はインフレ圧力がこれほど強くなってからも原油価格と農産物価格を言い訳にしながら政策基調を変えなかった。物価を犠牲にして輸出企業を支援するために高為替レート政策を使ってきたが、今や高為替レート自体が我が国経済の罠になってしまった。


<ハンギョレ>は高成長政策の問題点をしばしば指摘してきたが、それが国民の実生活にどのような副作用を招くのかを浮き彫りにするには不十分だった。最近の為替レート暴騰に対しても市場動向と原因分析には多くの紙面を割いたが、庶民経済にどのような影響を及ぼし庶民がどのように対処しなければならないのかに関する説明はちょっと足りなかった。物価、株式、不動産、金融貸出、留学費送金など庶民が心配している情報を詳細に伝達できるのが新聞の長所だが、その欲求をすっきりと充足させることはできなかったということだ。その点で<中央日報>が為替レートとガソリン価格の暴騰、株価暴落などで庶民が被っている苦痛を直接取材し‘トリプル恐怖、庶民を襲う’(24日)という題名の1面トップ記事を上げたことが目を惹いた。


最近の金融危機原因分析も経済的要因にとどまらずシャピロの分析のように政治社会的要因まで拡張すればという物足りなさがあった。そうでなければ危機は反復され、危機克服の費用は再び庶民が抱え込まざるを得ない。1997年の外国為替危機の時も皆が腰のベルトをきつく引きしめるものと思ったが、腰が切れたのは庶民だけであったし、危機の原因提供者であった一部財閥は国民の税金で不良部分を払拭し優良企業を取得するチャンスとした。


大統領が物価暴騰をはじめとする経済危機の原因として消費云々するのは伝来の手法だ。家計負債1000兆ウォンに押しつぶされている庶民は消費をしようにも金がない。問題は消費の両極化にあり、所得両極化こそがその原因だ。韓-ヨーロッパ連合自由貿易協定(FTA)以後、ブランド品輸入も急増している。韓国人はそれでなくともヨーロッパの超高価ファッション商品と洋酒などブランド品市場で‘カモ’と言われてきた。


こういう風潮を煽るために財閥の娘たちが一肌脱ぎマスコミが加勢した。仁川空港にルイヴィトン売り場を開いたことを突出した経営能力として、舶来ブランドで全身を覆うことをファッション感覚として包装する。来韓したルイヴィトン最高経営者は「すべての女性を迎えることはできない」として消費による‘身分差別’を当然視した。空港免税店は外国人より内国人が圧倒的に多いためブランド品輸入窓口となって久しい。国産品の比重は25%に過ぎない。


←イ・ポンス市民編集者、世明大ジャーナリズムスクール大学院長


今回の停電大乱も消費者、すなわち国民の利益のために奉仕する姿勢を貫徹できないイ・ミョンバク政権が起こした事故と言える。電力供給を公企業に任せたのは電力が公共・必須材であるためだが、韓電と子会社に大挙して落下傘で降下した企業家と政治屋どもに高い公益性を期待することは無理なことだった。そうして置きながら大統領が“後進国水準の意識構造”として叱りつける場面は一つのコメディだ。停電防止対策として電気料金の値上げを持ち出したが大企業らの電気料金減免を撤回するのが先だ。


4大河川と京仁(キョンイン)運河事業を一手に引き受けた水資源公社が水道料金を上げようとしているのも国民の権益よりは建設会社の利益を重んじた結果と言える。健康保険体系を押しつぶしかねない外国の営利病院を許容しようとするのも同じ脈絡だ。サービス水準で世界1位の仁川空港を民営化しようとする論理は空港拡張財源を用意するということだが、4大河川に数十兆ウォンを掃いて捨てなかったならこんなに財政が窮乏することはなかっただろう。


携帯電話も国内価格が輸出価格よりはるかに高く、通信料金は物価が高いヨーロッパよりはるかに多く負担している。公正取引委員会のような政府機関と言論が自分の役割を果たせていないためだ。韓国の新聞には‘消費者報告書’のような固定欄を設けているところも一つとしてない。


問題はこのように国民が消費者としての接待を受けられていないにも関わらず、その因果関係をまるで認識できず呆れ返るようなことが果てしなく反復され土建を前面に出した高成長追求政権になっているという事実だ。政府とマスコミが事実関係を糊塗し、進歩言論も本来の役割を果たせていないためだ。消費者が王様ではなく‘カモ’になっている現実をいつまで放置するつもりか?


原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/498174.html 訳J.S