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トランプ大統領と尹錫悦前大統領…LAで繰り広げられた「デカルコマニー」【寄稿】

登録:2025-06-13 09:35 修正:2025-06-15 09:35
ソ・ボクキョン|「ザ・可能研究所」代表
尹錫悦前大統領が4月11日、ソウル市龍山区漢南洞の官邸から出て支持者たちと挨拶を交わしている(写真左)。米国のドナルド・トランプ大統領が2020年10月、アイオワ州で開かれた遊説で演説している//ハンギョレ新聞社

 米国のドナルド・トランプ政権が移民取り締まりを名目にロサンゼルスに軍を投入したことで、ロサンゼルス市・カリフォルニア州・トランプ政権に反対する市民たちとトランプ政権の衝突が激化している。その渦中の6月8日、ドナルド・トランプ大統領の息子が自身のソーシャルメディアに、「ルーフトップ・コリアンを再び偉大に」(Make Rooftop Koreans Great Again!)と投稿した。トランプ大統領は、連邦政府の軍投入に強く反発しているカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事に対して「逮捕もしうる」と脅迫し、状況をさらに悪化させている。米国メディアは、トランプ大統領の今回の行動が「今後繰り広げるさらに大きい事態の予行演習」かもしれないという懸念を報じている。米国で現在繰り広げられている事態がどこに向かうのかは分からないが、これまで発生した事件だけでも、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権で韓国が体験した一連の事件を思い出させるのには十分だ。

 ドナルド・トランプ・ジュニア氏は、単なる現職の米国大統領の息子ではない。トランプ大統領が公式のルートから出すわけにはいかないがそのときごとに必要だと考えるメッセージを広めて世論を作る、1500万人以上のフォロワーを擁するインフルエンサーだ。「ルーフトップ・コリアン」は、1992年のロス暴動の際、韓人の商店街を守るために武装して建物の屋上に上がった韓国系アメリカ人を指す言葉だ。1992年のロス暴動は、米国の政府と社会の根深い人種差別に対する抵抗として発生したが、アフリカ系アメリカ人と韓国系アメリカ人の衝突という不幸な事態を生んだ。6月9日、ロサンゼルスの韓人会は「韓国人の過去のトラウマを、いかなる目的であっても絶対に利用してはならない」と求めた。トランプ・ジュニア氏のメッセージは、米国社会のマイノリティ同士の戦いを扇動し、自分たちの政治的利益を追求する意図を赤裸々に示しているという点で、きわめておぞましく残忍なものだ。

 この場面は、尹錫悦政権で経験した類似の出来事を想起させる。労働組合を「理念で武装した既得権カルテル」と規定し、「疎外されている未組織の非正規労働者を保護する」と述べ(2024年3月20日の「商工の日」の記念式典)、組織労働者と未組織労働者を分断したことがあった。2022年に全国障害者差別撤廃連帯が、移動権保障のために地下鉄デモを行ったとき、尹錫悦政権与党のイ・ジュンソク代表は「最大多数の不幸と不便を引き起こすことで、自分の主張を貫徹させるという非文明的な不法デモ」(2022年3月28日の「国民の力」最高委員会での発言)と非難した。非文明的な障害者によるデモ隊と、デモ隊によって「不幸と不便を被る最大多数の一般市民」を分断して対立をあおったのだ。どこであっても悪しき政治家は、弱者間の対立を扇動して自身の利益を追求する。

 トランプ大統領がニューサム知事を挑発する場面は、尹錫悦前大統領とその政権与党の政治家たちが、政治的ライバルと野党を「反国家勢力」「反大韓民国勢力」「主体思想派」と攻撃することによって政治的苦境から抜け出そうとしたり、最終的には暴力を動員して除去しようとしたりした試みを思い起こさせる。トランプ大統領は、移民をすべての悪の根源として位置づけ、米国の民主党と有力なライバルを「偉大な米国に反する移民側に立つ勢力」とレッテル張りをした後、政敵排除の正当性を得ようとしている。米国の法律上、連邦政府が州防衛軍を動員するためには州知事の同意を得る必要があるが、トランプ大統領はあえてカリフォルニア州知事の同意権を無視した。知事の暴力的対応を挑発し、それを名目にして知事を除去しようとしているものとみられる。ニューサム知事は民主党の次の大統領選の有力候補だ。どこであっても悪しき政治家は、政治的ライバルを相手に正々当々と競わず、違法な手段を動員して除去しようと試みる。

 尹錫悦前大統領も、軍隊を動員して国会を無力化し、野党の政治家を排除しようとし、米国のトランプ大統領も、デモ隊を攻撃してカリフォルニア州の行政を無力化し、野党の政治家を脅すために軍を動員している。悪しき政治家は、国民を保護して守ることだけに使える国家の公権力を、私益のために使うことをためらわない。

 悪しき政治はいつでもどこでも登場する可能性があり、政治共同体が共同で防ぐことができなければ、その共同体は現在あるいは未来のいかなるときにも破壊される可能性があるという生々しい実例を、私たちは再び目撃している。韓国系アメリカ人や在外韓国人とともに、すべての米国人が国家の暴力から安全であることを願う。

ソ・ボクキョン|「ザ・可能研究所」代表 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1202349.html韓国語原文入力:2025-06-12 08:58
訳M.S

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