4月2日、米国のドナルド・トランプ大統領は、韓国に25%など、世界のほとんどの国に相互関税を課すことを発表した。翌日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は主な輸出産業の代表者を大統領府(エリゼ宮)に呼び、緊急会議をおこなった。航空宇宙産業協会の会長、自動車産業プラットフォームの会長、食品産業協会の会長、ビューティー企業連合会の会長、ルイ・ヴィトン(LVMH)グループのマルク=アントワーヌ・ジャメ事務局長、フランス最大の企業連合「MEDEF」のパトリック・マルタン会長ら、50人あまりが出席した。
マクロン大統領は「米国の関税措置は残酷で根拠のない決定」だと断言した。そしてこう言った。「米国と関税問題を解決するまで、最近発表したか、または予定していた米国内の投資を保留してほしい」
マクロン大統領の言葉を聞いて、その10日前にあった現代自動車グループの「米国投資」発表が頭に浮かんだ。チョン・ウィソン会長は3月24日、トランプ大統領が開いたホワイトハウスでの行事で「今後4年間にわたる米国内への210億ドル(約31兆ウォン)規模の追加新規投資を、喜ばしい気持ちで発表」した。
今後、韓国製の自動車に対する米国の関税がどうなろうとも、現代自動車は米国での生産を大幅に増やすことこそとにかく利益になるという戦略的判断を下したのかもしれない。しかし、オーナー一家と株主たちにとっては良いことが、国民の誰にとっても良いことではない時もある。現代自動車の決定は、国内の雇用と付加価値生産に否定的な影響を及ぼすものだ。
現代自動車は、国外投資を拡大しても国内投資が萎縮することはないと強調する。しかし、国内に投資した方が良いものが外国に出ていってしまうということまでは否定できない。現代自動車の一方的な決定に対し、私たちは「裏切りだ」となじるべきだった。しかし、大統領弾劾で権力の中心が空白になっているため、現代自動車の決定は会心の一手にでもなるかのように語られた。
トランプ関税は韓国経済を冷え込ませている。内需低迷の悪循環が続く中、グローバルサプライチェーンが衝撃を受けて輸出が急減している。韓国開発研究院(KDI)は14日、韓国経済の今年の成長率は0.8%にとどまるとの見通しを発表した。来年の成長率も潜在成長率を下回る1.6%だという。
これだけを見ると、トランプの関税政策は韓国経済にとって災いであるばかりに映る。短期的な影響は確かにそうだ。だが、トランプの関税政策の中期的な影響についての複数の研究機関のシミュレーションには、私たちが見逃している肝心な部分が含まれている。日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所が3月27日に発表した報告書「トランプ政権の相互関税政策が世界経済に与える影響」もその一例だ。
この報告書は、米国が世界に相互関税を課し、かつ中国に20%の追加関税を課した場合、2027年の国内総生産(GDP)は米国が2%減、中国が0.9%減となるという。だが韓国と台湾にとっては0.6%、日本には0.2%の増加効果があるという。韓国の電気・電子産業は0.9%、自動車は0.5%成長するという。このことは、私たちがトランプ関税に怒っている間に忘れていた韓国経済の弱点を思い出させてくれる。韓国の製造業が中国の追撃に足を引っ張られていたということ、そのことの方がより大きな危機の根だということだ。
現在、企業は生産と雇用の主体であり、革新の主体だ。しかし、いつであろうと企業だけではすべてを賄うことはできない。韓国の自動車産業の発展においてもチョン・ジュヨン、チョン・セヨンという優れた経営者の功績は大きかったが、政府の国産奨励、道路優先拡充と駐車場なしでの自動車購入の容認、周期的な個別消費税の減免など、数え切れないほどの支援が行われてきた。現場の技術者の創意と協力も革新の重要な軸だ。今、私たちはこの3つの力をうまく結び付け、波を乗り越えていくことを迫られている。誰もが絶壁の上に立っているという緊張感を持たなければならない。現代自動車も、自社のみでうまく立ち回るのではなく、手を取り合って共に行動していくべきだ。
革新を通じて生産性を高めて多くの良質の雇用を作り出し、利益も増やし、多くの税を納める企業を増やすことこそ、良い経済政策だ。困難で複雑な仕事だ。一朝一夕に完成するものでもない。簡単明瞭な解決法は、たいていは詐欺師の語るものだ。「企業がやりやすい国」がまさにそうだ。減税し、賃金引き上げを抑制すれば、企業は投資と雇用を増やすという尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の政策の悲惨な結果こそ、いま私たちの目の前にあるものだ。それは企業を怠惰にし、病気にさせ、分配の悪化とそれによる内需低迷を深める処方に過ぎない。与党「国民の力」から大統領選に出馬しているキム・ムンス候補がこの言葉をオウムのように繰り返すのを見ていると、もどかしい。
チョン・ナムグ|経済産業部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )