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大統領弾劾が「韓国の憲政史における不幸」とは限らない【コラム】

登録:2024-06-14 06:24 修正:2024-06-14 09:30
「C上等兵特検法の拒否を糾弾するとともに議決を求める汎国民大会」がソウル中区世宗大路一帯で開かれた先月25日午後、海兵隊予備役連帯の会員たちがスローガンを叫んでいる=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 大統領弾劾が再び話題になっている。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の国政運営に対する失望と、(海兵隊員)C上等兵捜査に対する外圧など重大犯罪の疑惑がますます膨れ上がっているためだ。野党からは「弾劾マイレージ」、「弾劾列車始動」という声もあがっている。通常なら逆風が吹いてもおかしくないが、今は概してそう言われても無理はないという雰囲気だ。多くの国民が、尹大統領が引き続き大統領としてさらに3年間にわたり国政を率いることが、果たして尹大統領夫妻以外の多数にとって良いことなのか、心の中で天秤にかけているからだろう。そうするうちに、保守層からも「このままではいけない」という声があがれば、今も過去最低を記録中の国政支持率がさらに落ち込み、弾劾が自らの動力で動き始める状況が来るかもしれない。

 韓国の法体制で、弾劾の事由は職務上重大な憲法および法律違反に限られる。今のところ、C上等兵捜査に外圧を働いた疑惑が高位公職者犯罪捜査処や特検捜査で明らかになれば、直接的な弾劾事由になる可能性が高い。これをめぐり、保守側からは二つの反応が出ている。

 一つ目は、C上等兵捜査への関与がたとえ事実だとしても、大統領弾劾の事由になるには不十分という主張だ。海兵隊捜査団に将兵死亡事件に対する捜査権があるかないかという法律的争点を取り上げ、弾劾されるほどの重大な違法ではないと弁論する。その後の捜査で外圧と介入の実体が明らかになれば、退けられる可能性が高い主張だ。大統領室が総動員されて国防部と海兵隊司令部を動かし、師団長を容疑者から外し、さらには、規定通り調査結果を移牒した海兵隊捜査団長を抗命罪に追い込んだ疑惑の事件だ。被疑者のイ・ジョンソプ前国防部長官を駐オーストラリア大使に任命し、出国禁止を解除して捜査から遠ざける過程でも、様々な違法疑惑が持ち上がっている。大統領制の元祖である米国であれば、司法妨害罪で処罰し、弾劾審判に付されたはずの事案だ。

 大統領から参謀、国防部長官・次官と海兵隊司令官らが総出動し、外圧の疑惑が持ち上がってから10カ月になるまで、「大統領の激怒も叱責もなかった」と堂々と嘘を繰り返してきた情況も明らかになっている。また、大統領自身が関与した事件の特検法に拒否権まで行使した。憲法裁判所は「朴槿恵(パク・クネ)弾劾審判」の決定文で「被請求人はチェ・ソウォン(チェ・スンシル)の国政介入事実を否定し、むしろ疑惑を提起することを非難した」、「検察と特別検事の調査に応じず、大統領府に対する家宅捜査も拒否した」として、「憲法守護の意志が見られない」と指摘した。尹大統領のケースと大きく変わらない内容だ。

 興味深いのは、保守が示すもう一つの反応だ。弾劾が可能かどうかよりも、弾劾が政治を後退させ、国政の安定性を害し、国益を損なうという点を強調する主張だ。「ともすれば弾劾手続きを稼動する悪い慣行が固まり、政治全般を南米レベルに後退させる恐れがある」(東亜日報の「ソン・ピョンイン・コラム」)や「尹大統領だけでなく、次期に誰が大統領になっても就任直後から反対者たちは弾劾の機会だけを虎視眈々と狙うだろう」(中央日報「中央時評」カン・ウォンテク・ソウル大学政治外交学部教授)のような予測だ。弾劾を反対党の政略的攻勢として捉える見方だ。

「朴槿恵の即時退陣を求める第6回ろうそく集会」が開かれた2016年12月3日夕方、ソウル鍾路区青雲孝子洞の住民センター前の新橋洞交差点と紫霞門路を埋め尽くした市民が、ろうそくを掲げて「朴槿恵退陣」を叫んでいる=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 しかし、一度は棄却され、一度は認容された韓国の大統領弾劾の歴史からすると、同意できない主張だ。「盧武鉉(ノ・ムヒョン)弾劾」は失敗した。違法があったが、重大ではないという理由からだった。民意に逆らって小さな問題で弾劾を推し進めた保守野党には、総選挙で政治的な審判が下された。一方、朴槿恵は罷免された。ろうそく集会の民意が激しく政界を突き動かせ、憲法裁もそれに呼応する決定を下したためだ。

 この二度の経験から、弾劾という合憲的な非常装置の成功した運用公式を十分に見出すことができる。政略的に乱発すれば逆風にさらされるが、大多数の民意に背を向け、大統領の重大な犯罪に目をつぶってはいけない。韓国社会が大きなコストを払って得た黄金律だ。尹大統領もこれを基準に判断すれば良い。民度も制度も、他の遠い国々に頼る必要はない。

 「弾劾は憲政史における不幸」という慣用的表現も、このような点においては必ずしも正しいとはいえない。著名な憲法学者であるソウル大学のクォン・ヨンソン教授は、「弾劾があってこそ、高位公職者は弾劾されることを恐れ非行を慎むだろうし、弾劾のような合法的手段がなければ、革命や暴力などの手段に訴えることになるだろう」と制度の有用性を指摘した。韓国は弾劾運用においては最も進んでいるといえる。弾劾の乱用は警戒する一方、権力者の専横で国がダメになるよりは、大きな不幸を防ぐ「不幸中の幸い」としてうまく活用する方が良い。

//ハンギョレ新聞社
ソン・ウォンジェ論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1144728.html韓国語原文入力:2024-06-13 19:13
訳H.J

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