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[寄稿]尹大統領の「根性の呪い」

登録:2024-05-27 06:19 修正:2024-06-01 12:38
大統領はすべてがマスコミを通じて中継される環境で生きているため、自分が大衆にどのように映るのかを気にしない鈍感さは致命的な結果を招く恐れがある。特に、尹錫悦のように敏感とは程遠い人は、その鈍感さが根性とあいまって、大統領職の遂行には呪いと言っても過言ではないほどの悪影響を及ぼしかねない。 
カン・ジュンマン|全北大学名誉教授
9日、尹錫悦大統領がソウル龍山の大統領室ブリーフィングルームで就任2年記者会見に臨んでいる=大統領室写真記者団

 「何と言っても、根性だけはすごい」「コ・ゴン、アン・チョルス、パン・ギムンと尹錫悦(ユン・ソクヨル)の違いは権力の意志とそれを裏付ける根性と打たれ強さだ」「国家情報院のコメント事件は、尹錫悦の公正と常識、正義を語る代表的事例であり、『根性』を象徴する事件だ。実際、よほどの度胸がなければ、朴槿恵(パク・クネ)、文在寅(ムン・ジェイン)両政権と相次いで衝突する心理的圧迫に耐えられなかっただろう」 「尹錫悦にはチョ・グク事態以後1年半以上にわたり、文在寅政権の弾圧を単槍匹馬で耐え抜いた打たれ強さがある。法治守護を大義名分に掲げ、熱狂的な政治ファンを背負った帝王的大統領との戦いを繰り広げた根性もある」

 これまでマスコミに登場した大統領「尹錫悦」の根性に対する評価だ。彼は根性の象徴であり、化身として位置づけられたことで、大統領の座に就くことができた。根性は「強く持ち堪え、耐え抜く力」のことをいう。そのような根性で言えば、尹錫悦が根性を発揮した主な対象だった文在寅前大統領も劣らない。文在寅は次のように述べた。「私は自分と考えが違う立場にある人々の一方的な攻撃については、びくともしません」。実際、文在寅は相手陣営の批判と攻撃に目もくれず、むしろそれが問題であるほどだった。

 ところが、根性といえば、我々は文在寅よりは尹錫悦を思い浮かべる。なぜだろうか。文在寅は自分より強い権力の非難と心的圧迫に耐え抜く打たれ強さを見せたことがなかったからだ。いや、そのような機会がなかったともいえる。これは根性に対する評価が権力関係に敏感であることを示唆する。迫害に打ち勝つ打たれ強さを見せられなかった根性は、根性とは言い難い。これは、根性のある人が自分の権力が大きくなる地位の変動を無視し、以前のように何かを推し進めれば、災いになる可能性もあるということを示唆する。

 検察総長と大統領は、いずれも強力な権力を行使できるポストだが、その性格は全く異なる。検察総長は大統領をはじめとする政治権力の圧力に屈せず抵抗するだけでも尊敬されるが、自分の上にいかなる権力も置かない大統領にとって、抵抗は何の意味もない。大統領に必要なのは適切な用人術に基づいた人の話を聞く力だ。大統領が意思決定を下さなければならない分野は、検察総長の業務の数十、数百倍になるほど膨大なためだ。自分がよく知らない分野について確固たる所信と根性を持つのは危険だ。

 検察総長職を遂行する時は、饒舌で気性が荒いのはあまり問題にならない。どんなテーマであれ、程度の差があるだけで、自分の法的専門性を発揮できるし、マスコミに取り上げられない日常的業務でのミスは特に問題なく修正できるからだ。そのため、饒舌さと気性の荒さはむしろ博学多識であり迫力があるという賞賛の根拠にもなる。しかし、大統領は自分が扱わなければならない大半の問題について専門性がない。また、どんな決定であれ、一糸乱れぬ垂直的な位階構造によって、下に下がるほど鉄則と化する増幅過程を経る中で、事実上検証と修正機能が消える危険を受け入れなければならない。これは、大統領が饒舌で気性が荒いのは非常に危険な結果を生む可能性があることを意味する。

 大統領にとってさらに危険なのは、「私の抵抗は美しいが、あなたの抵抗は醜い」と考えるダブルスタンダードだ。文政権のダブルスタンダードに抵抗した象徴資本を通じて大統領になった尹錫悦は、自分に対する抵抗を事実上弾圧する権威主義者ぶりを発揮したにもかかわらず、それがなぜ問題なのかさえも気づかなかった。多くの有権者が自分を支持した理由が、そのようなダブルスタンダードによって崩れ落ちたにもかかわらず、依然として自分を過去の権力に抵抗した時代の「根性ある男」と勘違いした。

 この世の中をいつも敏感に生きるのは、とてつもなく疲れることだろう。時には鈍感であることは幸せなことだ。特に、打たれ強さが求められる政治家にとって、鈍感さは必ず必要な資質であるかもしれない。鈍感力を育てようと力説する本がベストセラーになるのには、それだけの理由があるわけだ。しかし、大統領は常に自分のすべてがマスコミを通じて中継される環境で暮らしているため、自分が大衆の目にどう映るかを気にしない鈍感さは致命的な結果を招く恐れがある。特に、尹錫悦のようにもともと敏感とは程遠い人は、その鈍感さが根性とあいまって、大統領職の遂行には呪いと言っても過言ではないほどの悪影響を及ぼしかねない。自分と似ている人だけを探す「類は友を呼ぶ」誘惑から抜け出し、世論に敏感な人たちをそばにたくさん置くことが、根性と鈍感の呪いから抜け出す第一歩だ。ところが、その敏感な人々には直言ができる鈍感さと根性が必要だから、本当に大変だ。

//ハンギョレ新聞社
カン・ジュンマン|全北大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1142113.html韓国語原文入力:2024-05-26 19:07
訳H.J

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