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[寄稿]MBCの記者は「騒ぎを起こした」のか

登録:2022-11-30 03:39 修正:2022-12-09 10:54
イム・ジェソン|弁護士・社会学者
尹錫悦大統領が18日午前、ソウル龍山の大統領室庁舎での出勤時の取材対応後、執務室に向かっている。尹大統領はこの日から出勤時の取材対応を中止している=ユン・ウンシク先任記者//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の出勤時の取材対応が中止されてから10日。現政権の象徴だった出勤時の取材対応が止まったのは、18日の文化放送(MBC)の記者をめぐる「事件」が理由だった。大統領府と与党はその事件を「よろしくない事態」または「騒ぎ」と規定している。果たしてあの日の事件は騒ぎだったのか。

 分析は具体的でなければならない。18日の事件は、当該記者の行為を中心に第1の行為、第2の行為に区分できる。第1の行為は、尹大統領が記者団の問いに答えてから移動しようとしたときに、MBCの記者が「何が悪意あるものなのか」と質問したことだ。第2の行為は、その質問の直後、大統領室の広報企画秘書官とその記者が繰り広げた口論だ。各行為を内容と形式に分けて評価してみよう。

 まず第1の行為の内容。尹大統領は、MBCが「同盟関係をフェイクニュースによって仲たがいさせようとする非常に悪意ある態度」を取ったと述べた。当時、大統領室の「バイデン-飛ばせば」発言はフェイクニュースだとする主張、韓米同盟を傷つけたとの主張は、すでに知られたものだった。しかし、尹大統領は聞きなれた2つの話の間に途方もないものを挿入した。MBCの報道は「結果的」に同盟を揺さぶったのではなく、MBCは韓国外交に打撃を与えようという「意図」(仲たがいさせようとの悪意)を持ってでっち上げを行ったと述べたのだ。公共放送がミスではなく犯罪を犯したということだが、大統領の口から初めて飛び出したこの「悪意」という言葉に対する問い直しは、絶対に必要だった。大統領室は18日の事件直後に書面で「悪意」について詳しく答えているが、答える価値のある問いだと自ら認めたわけだ。

 次に第1の行為の形式。もうひとつの国民の代表である国会議員が移動する過程で、記者が密着し質問を投げかけるのは、日常的に見られる光景だ。回答を拒否しても質問し続ける。これに対して何か批判があっただろうか。国会議員と大統領は次元が違う? その通り。違うからこそ、質問を受けるために設けた定位置に立ち、立ち去ろうとした大統領に、回答を求めたまでだ。出勤時の取材対応では、尹大統領が追加の質問に対して引き返してきて答えたことも何度もある。そのことについて誰かが「よろしくない事態」などと言ったことがあったか。質問によって、大統領の気持ちによって評価が変わるべきではない。

 大統領の背面に向かって叫んだのが礼儀に反したのか? 日本の毎日新聞の記者は2020年8月4日、当時の安倍晋三首相の帰り際に行われた質疑応答で、追加質問を受けずに移動する安倍首相に向かって「逃げないでください!」と叫んだ。当時、日本国内では、「逃げる」という表現をめぐっては賛否が分かれたが、移動する首相に質問を投げかけた行為そのものについては、批判的な評価はなかった。

 第2の行為も内容から見てみよう。大統領担当記者室を管掌する広報企画秘書官は「(執務室に)向かおうとする方にそんなふうに言うのは失礼だろう」と言って質問を制止し、記者がこれに抗議したことで口論となった。大統領室が報道機関に言ってはならない言葉がひとつだけあるとすれば、「質問するな」だ。権力が記者に「質問を自制する礼儀」を語った瞬間、検閲と統制へとつながりうる。

 日本の事例をもうひとつ見てみよう。2020年8月6日、10分あまりの短い記者会見を終えて立ち去る安倍首相に対し、朝日新聞の記者がさらなる回答を求めて質問を続けたところ、首相官邸の職員がその記者の腕をつかんで「だめ、終わり終わり」と言った。現場で抗議の声があがったのはもちろん、その記者の所属する新聞社も官邸に「質問の機会を奪う行為につながりかねず容認できない」として再発防止を求めた。MBCの記者は抗議すべき問題について抗議したのだ。

 最後に第2の行為の形式。記者が抗議する過程で大声をあげて感情的に表現したのは事実であり、これに対する評価は分かれうる。しかし、2分足らずの短い間の口論であり、公式の手順の中で発生したわけでもなかった。身体接触や道を塞ぐなどの業務妨害もなかった。この程度の抗議を、大統領室への出入りが禁止される「騒ぎ」または「品位維持違反」と考えることはできない。

 内容と形式では文句のつけようがないから、腕組みをしたとかサンダルを履いていたとか、本質とは関係のない話が出てくるのだ。大統領が出勤時の取材対応を中止したのは記者がサンダルを履いていたからなのか。与党のレッテル貼りのせいで、あの記者は殺害脅迫を受け、警察によって身辺保護まで受けている。答えにくかったり不快だったりしたのであれば、恥ずかしくても答えなければよい。評価は国民が行うだろう。その恥ずかしさを隠すために1人の記者をやりこめている。

//ハンギョレ新聞社

イム・ジェソン|弁護士・社会学者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1069472.html韓国語原文入力:2022-11-29 19:06
訳D.K