本文に移動

[コラム]外交と安全保障はむやみに揺さぶってはならない

登録:2022-05-10 07:52 修正:2022-05-16 10:53
大韓民国の外交・安全保障政策は事実上一つしかない。朝鮮半島の緊張緩和を通じた北朝鮮の非核化と段階的平和統一、そして韓米同盟を基本軸とするバランス外交だ。それがすべてだ。外交・安全保障には保守も進歩も、与党も野党もない。それが真実だ。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の任期が10日から始まる。特別な事情がなければ、今後5年間、大韓民国の大統領は尹錫悦だ。

 1987年の直接選挙制改憲以来、誰が大統領であれ、経済の通知表は似通ったものだった。経済規模は大きくなったが、潜在成長率は低下した。非正規労働者がますます増え、二極化はますます深刻になった。

 経済には民間の領域が大きい。経済の主体は労働者と使用者だ。国民と企業だ。政府の役割は支援と監視だ。限界がある。通貨危機を招いた金泳三(キム・ヨンサム)大統領のように、大きな失敗さえしなければ、誰が大統領になっても国が直ちに滅びるか、興じることはない。

 ところが、外交と安全保障の通知表は違っていた。点差が大きい。盧泰愚(ノ・テウ)大統領、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は優秀だったが、金泳三大統領、李明博(イ・ミョンバク)大統領、朴槿恵(パク・クネ)大統領はあまり良くなかった。

 盧泰愚大統領は北方政策を展開し、金大中、盧武鉉、文在寅大統領は南北首脳会談を行った。これらの時期に朝鮮半島上空には戦争の暗雲が去り、平和の気運が漂っていた。李明博大統領と朴槿恵大統領の時代には南北関係が冷え込んだ。金泳三大統領時代、そして文在寅大統領就任初期には戦争勃発の危機もあった。

 外交と安全保障の成績の差はどこから生まれるのだろうか。大統領の眼識と力量の違いのためだ。外交と安全保障は経済と違って民間の領域がほとんどない。ほぼ100パーセント政府が主導する。大統領が判断を間違えれば、国と国民が危険に陥る。

 国際情勢と運の影響も大きい。金泳三大統領は、北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席と1994年7月25日、南北首脳会談を行うことで合意した。北朝鮮の核兵器開発の放棄と戦争不可の約束を取り付けるつもりだった。

 しかし、会談を半月後に控えて、金日成主席が心筋梗塞で死亡した。その後、南北関係は大きく悪化した。1994年の南北首脳会談が実現していれば、朝鮮半島の平和はよりはやく実現したはずだ。

 李明博大統領は2008年7月11日、国会開院演説で「過去に南北間で合意された7・4南北共同声明や南北基本合意書、非核化共同宣言、6・15南北共同宣言、10・4南北首脳宣言の履行案について、北朝鮮と協議する用意がある」と宣言した。よりによってこの日、金剛山の観光客のパク・ワンジャさんが北朝鮮軍によって銃撃される事故が起きた。その後、南北関係は急速に冷え込んだ。

 李明博大統領の「非核・開放3000」は、「北朝鮮が核を完全に放棄すれば、韓国が支援を始める」内容だと誤解されている。「非核・開放3000」は、北朝鮮の核放棄開始から段階ごとに北朝鮮を支援する内容を盛り込んだ実用主義政策だった。金剛山観光客射殺事件さえなければ、李明博大統領は南北関係をかなり進展させただろう。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の外交と安全保障はどうだろうか。大統領選候補の公約集には「北朝鮮の完全な非核化の実現」や「南北関係正常化と共同繁栄の推進」、「国民合意に基づいた統一案の推進」などがある。だが、そのような目標をどのように達成するのかについての方法論はあまり見当たらない。

 「文在寅政権は北朝鮮に屈従的な姿勢で南北関係を非正常にし、国民の自尊心を傷つけた」、「文在寅政権が軍事合意書や終戦宣言などを国民的合意なしに一方的に推し進め、国民分裂を引き起こした」、「北朝鮮の顔色をうかがうことで韓米連合防衛態勢の弱体化を招いた」などの表現もある。いずれにしても文在寅政権とは反対の方向に進もうとしているようだ。

 心配だ。尹錫悦大統領は外交と安全保障においては素人だ。大学に入学する時、父親から贈られたミルトン・フリードマンの『選択の自由』を読んで感銘を受けたという。大学1年生の時は、パク・ウヒ教授の経済学概論で、「A+をもらった」と、酒席で自慢していたという。検事時代、検察で経済捜査を多く扱ったため、経済の基本的な流れについては一定の見識があるのも事実だろう。

 しかし外交と安全保障は尹錫悦大統領の関心事ではなかった。検察の捜査分野でもなかった。歴史書が好きで、司法試験の勉強をしていた時期もたくさん読んだというが、その程度で外交と安全保障の知識が深まるわけではない。だからこそ心許ない。

 大韓民国の外交・安全保障政策は事実上一つしかない。朝鮮半島の緊張緩和を通じた北朝鮮の非核化と段階的平和統一、そして韓米同盟を基本軸とするバランス外交だ。それがすべてだ。

 金大中政権や盧武鉉政権、文在寅政権を「北朝鮮追従の左派」「反米親中」と非難する、いわゆる保守の主張は、分断の維持を通じて既得権を守ろうとする勢力の選挙用策略にすぎない。正しくもなく、事実でもない。尹錫悦大統領は決してそのような誘惑に負けてはならない。いくら焦っても、色分け論は駄目だ。

 外交と安全保障には保守も進歩も、与党も野党もない。それが真実だ。

//ハンギョレ新聞社
ソン・ハニョン|政治部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1042163.html韓国語原文入力:2022-05-10 02:05
訳H.J

関連記事