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[寄稿]日本、放射線汚染水を来年春から海へ…「安全な希釈」は希望事項にすぎない

登録:2022-03-14 09:25 修正:2022-07-14 09:19
伴英幸|原子力資料情報室共同代表 

3・11東日本大震災から11年…「汚染水放流」計画「着々と」 
海底の特定地形には汚染物質が蓄積する可能性も… 
「放射能の海、防がなければならない」
福島第一原発の敷地に設置されている汚染水タンク=東京電力提供//ハンギョレ新聞社

<2011年3月11日、日本の福島の海底で「炎の輪」がうごめいた。ずれた地殻プレートが津波を招き、巨大津波で浸水した福島原子力発電所内の核燃料棒がメルトダウンした。11年後、ここから莫大な放射能汚染水が生じている。日本政府は来年春から汚染水を海に放出する計画だ。 多核種除去装置(ALPS)で放射性物質を最小化するというが、安全性に対する不安は高まっている。日本の脱原発運動の中心である市民団体「原子力資料情報室」共同代表の伴英幸氏が、本紙にこのような憂慮を込めた文を寄稿した。(編集部)>

 福島原発事故以降、東京電力HD(以下、東電)は溶融燃料を冷却するために原子炉に水を注ぎ続けているが、これに加えて原子炉建屋には地下水が流れ込んでいるため、それが汚染水となっている。汚染水は多核種除去装置(ALPS)などを通して、含まれる放射性物質を取り除いているが、全てを取り除くことはできない。とりわけ、全く取り除けないトリチウムが話題となるが、これ以外にも数十種類の放射性物質が残っている。ALPSによって処理された水はタンクに貯蔵されている。東電の発表によれば、その量はで129.3万立方メートルに達している(2022年2月24日現在)。

 政府と東電はこれを海洋投棄することを方針として、着々と準備を進めてきた。経産省の中に「トリチウム水タスクフォース」を設置し、地層注入、地下埋設、蒸気放出など5つのケースを想定した検討を進め、2016年6月に海洋への希釈放出が最も安価(34億円)に短期間(88ヶ月)で処理できるとする報告書をまとめた。この報告を受けて、経産省内に設立された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(以下ALPS小委)は、2020年2月10日に海洋放出が現実的だとする報告書を公表した。同報告書では風評被害対策の重要性を強調している。そして政府は2021年4月13日に「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議」を開き、海洋放出方針を政府全体の決定とした。

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漁業者団体をはじめ市民団体の強い反対

 海洋放出には漁業者団体の強い反対があり、2015年8月24日、経済産業大臣は福島県漁業協同組合連合会(福島県漁連)との間に「漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」との約束文書を、同月25日には東電が福島県漁連との間で同様の文書を、また同月26日には経済産業大臣と全国漁業協同組合連合会(全漁連)との間で「『地元関係者の御理解を得ながら対策を実施することとし、海洋への安易な放出は行わない』との方針を今後も継続します」とする約束文書を交わしている。

 しかし、日毎に増え続ける汚染水に対して、政府・東電は海洋放出に拘泥し、東電は2021年11月17日に「海洋放出に係る放射線影響評価報告書」を公表、極めて小さな影響であるとするシミュレーション結果を示した。併せて一般からの意見募集も行われた。しかし、応募意見に関する検討も行わず、応募締め切りの3日後の12月21日に、原子力規制委員会に対し放出設備設置に関する許可申請を行なった。現在、審査が継続中である。やや具体的な計画が示されたが、これによれば、海底下にボーリングマシーンによりトンネルを掘り、沖合1キロメートルの海底から放出する。汚染水放出量は500立法メートル/日以下、年間放出量は22兆ベクレル以下とするなどの内容である。放出に係る期間は30年程度を想定している。

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東電シミュレーションの問題点

 タンクに貯蔵されている処理水の70%を超える部分が、規制基準を上回って汚染されていることを東電は認めている。ALPSでの処理を急ぎフィルターの交換頻度を下げたため、放射性物質を十分に取り除くことができなかったからだ。これらについて東電は、放出の際には再度ALPSを通して基準以下にするとしている。

 海洋放出のベースになる考え方は、海水で薄まるから安全だというものである。シミュレーションは、過去の海流データを基にして流れの方向に均一に拡散してくという計算だ。評価期間はわずか2年間である。被曝線量評価は、漁業活動による外部被曝と魚介類摂取による内部被曝を計算して、極めて低い被曝線量との結論を導いている。

 しかし、1キロ沖合の海底から放出された放射性物質が海底地形などにより蓄積していく可能性は否定できない。例えば、プルトニウムなど重い元素は比較的狭い範囲に蓄積する恐れが高い。また、トリチウムについては、ALPS小委でも有機結合型トリチウム(OBT)の存在を認めているにもかかわらず、この評価をせずに済ませている。極めてずさんな評価である。OBTは体内で遺伝子に取り込まれると、β線を出してヘリウムに変わるので、遺伝子が切断される。同時に放出されたβ線のエネルギーで2本鎖切断になる場合もあり、細胞ががん化する恐れが否定できない。

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凍土遮水壁が崩れる?

 汚染水の増加がいつまで続くのかも示されていない。公表されている「中長期ロードマップ」では、2025年には1日あたりの増加量を100トン程度に抑えたいとしている。逆に言えば、その先まで汚染水の増加が続くということだ。

 地下水の建屋への流入を止める方式として、凍土遮水壁の工事が2014年から始まったが、これは実用化されていない方式で、当初から効果が疑問視されていた。東電は後に地下水の抑制効果があったと開き直っているが、その効果も限定的とされている。このような実用化されていない方式が採用されたのは、政府の支援で設置できることに着目した東電救済策だった。

 東電はこのシステムの運用期間を7年程度と非常に甘い見込みでいた。2021年10月28日の報道によれば、凍土の一部で測温管の温度が一時的に10℃に達しているところがある。その後、11月18日には、13.4℃まで上昇したので、新たに矢板を打ち込んで地下水の流入を防ぐ工事を実施した(東電HD12月16日公表資料より)。場所は4号機の山側である。また、2022年1月18日には、凍結管が損傷し中を流れる冷媒(塩化カルシウム水溶液)が漏れ出た。冷媒と見られる水たまりが確認され、冷媒を送るタンクの水位が低下していることも確認された。場所は2号機の山側である。このように凍結管そのものの破損が報告されるようになったことから、今後は凍土遮水壁の機能維持が困難になり、凍結管の破損で汚染水発生量がいっそう増加していく恐れもある。

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海洋放出は海洋環境の放射能汚染

 東電の放射線影響報告書によれば、64種類の放射能が年間にそれぞれ数万から数十兆ベクレル放出される。これは実証試験に基づく評価で、期間はわずか2年間しか評価されてない。汚染水の放出は30年も続くが、全期間にわたってどれくらいの放射能が放出されるかを明らかにしていない。それが明らかになれば、海洋環境の放射能汚染の未来が見えるだろう。海洋環境の放射能汚染は許されない。放出以外の方法を採用するべきである。

伴英幸|原子力資料情報室共同代表 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1034558.html韓国語記事入力:2022-03-13 14:44

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