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[寄稿]「ガンジーのアメ」、韓国の終戦宣言外交と軍事力拡大

登録:2021-12-20 02:49 修正:2021-12-20 08:45
軍備削減を引っ張っていっても良いはずの大韓民国政府が、口では終戦を語っておきながら圧倒的な軍事力を追求しているとすれば、平和は作られるだろうか。今回の韓米安保協議で韓米同盟を密かに「インド太平洋地域の平和と安定の中核軸」に格上げするとともに、サイバー空間だけでなく宇宙での戦争能力も向上させると宣言した。戦争状態を持続するということにとどまらない。よりうまく戦い、より多く戦うというのだ。 

ソ・ジェジョン|国際基督教大学アーツ・サイエンス学科教授
文在寅大統領が9月23日(現地時間)、空軍1号機での帰国途上、同行した記者たちに終戦宣言などの懸案について説明している/聯合ニュース

 年末にひとつ笑ってみよう。2006年ごろ「笑いを求める人々」というコント番組に登場したギャグだ。

 母:娘が外で盗みを働いているのに、あなたは何をしていたの?

 父:見張り。

 滅茶苦茶な家庭だ。しかし父親の答えには笑わずにはいられない。世の期待とはまったく逆の言葉だからだ。それでも、この対話に爆笑した韓国社会には希望があった。その笑いは共感の表現でもあったのだから。どう生きるべきかがよく分かっていて、言うまでもないという共感だ。しかし2021年末、韓国社会はこのギャグをどのように受け止めるだろうか。うなずくのではないか。「そんなわけないだろ」より「もちろんそうすべきだ」の方が多いのではないか。

 あえて特定の大統領候補の名をあげる必要はない。文在寅(ムン・ジェイン)政権と共に民主党からまず振り返るべきだ。

 誰もが知っているように、文在寅政権は終戦宣言に膨大な力を注いでいる。文大統領本人からして、国連総会をはじめ、海外の首脳と会うたびに終戦宣言に対する意志を明らかにし、世界の世論に訴えることに必死になっている。大統領府と外交部の高官たちも積極的に平和外交を繰り広げている。ワシントンと北京を訪問し、米国と中国の合意を引き出すために交渉を繰り返している。政府の研究機関だけでなく有数のシンクタンクも、終戦宣言に好意的な世論を形成するために様々な活動を展開している。大韓民国がこれほど切実に、自主的に平和のために外交力を注いだことがあるだろうか。

 しかし現政権と民主党は、このような終戦宣言外交を自ら破壊してもいる。大統領府と民主党は先を争って国防費の増額に邁進している。戦争を終わらせて平和を作ろうと言いながら、先端兵器を導入し、開発せよとして資金を投じている。2017年には40兆ウォン(約3兆8200億円)だった国防費は、文政権の5年間で毎年増え、2022年の予算は過去最大の55兆ウォン(約5兆2500億円)に達した。5年間で37.5%も増加したのだ。すでに北朝鮮の1年間の総経済生産額(国防費ではなく)の1.5倍を国防費に注ぎ込んでおり、「完全に北朝鮮に勝ってもまだ余る」大韓民国が、国防費をさらに増額しなければならない理由を、民主党のアン・ギュベク議員は堂々と語る。「圧倒的戦力で戦う前に敵の意志と気をくじく」と。もちろん、「力による平和」が安保戦略だと語る文在寅大統領こそが、その主張の拠り所だ。

 軍備削減を引っ張っていっても良いはずの大韓民国政府が、口では終戦を語っておきながら圧倒的な軍事力を追求しているとすれば、平和は作られるだろうか。しかも、すでに韓米連合軍司令部は先制攻撃、斬首作戦、有事の際の北朝鮮占領を意味する安定化作戦なども作戦計画に盛り込んでおり、その実行を訓練している。それでも足りず、ソ・ウク国防部長官と米国のロイド・オースティン国防長官は今回の韓米安保協議で「連合防衛能力の向上、関連作戦計画の最新化」を約束したほか、「朝鮮半島での合同演習」を続けることを再確認した。韓米同盟を密かに「インド太平洋地域の平和と安定の中核軸」に格上げするとともに、サイバー空間だけでなく宇宙での戦争能力も向上させると宣言した。戦争状態を持続するということにとどまらない。よりうまく戦い、より多く戦うということだ。

 こんな有様でも平和は作られるのだろうか。いつの間にか平和の言葉と戦争の行動が共存する「ポスト真実」の時代になってしまっているのか。「笑いを求める人々」のギャグを見て、誰もが爆笑する代わりにうなずく社会になってしまったのではないか。不安がゆっくりと頭をもたげる年の瀬に、平和の人生を生きたガンジーを思い浮かべるのは贅沢だろうか。

 「この子はアメを食べすぎて虫歯になってしまいました。アメはもう食べるなと一言いってやってください」

 子連れの女性がガンジーに懇願した。ガンジーは女性を見つめながら口を開いた。

 「いまは難しいから、半月後にまたお子さんを連れていらしてください」

 遠くから来たのでまた会いに来るのは難しいという女性を、ガンジーはあえて帰した。約束通り半月後、女性が再び訪ねてくると、ようやくガンジーはこの願いを聞き入れた。

 「きみ、アメは体に良くないからもう食べるんじゃないよ」と言うと、子どもは尊敬するガンジーにうなずいて見せた。

 女性は感謝しながら訪ねた。「なぜそれを半月前には言ってくださらなかったのですか?」

 「あの時は私もアメをなめていたのです」

 新年は、まず自分から言葉と行動に気を付けなければならない。口だけで平和を語るのではなく、まず体で実践するためにはどう生きるべきなのか。強い力だけが自分を守ってくれるという甘い誘惑をどうすれば断ち切れるのか。

//ハンギョレ新聞社

ソ・ジェジョン|国際基督教大学アーツ・サイエンス学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1023919.html韓国語原文入力:2021-12-19 19:14
訳D.K

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